青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

ソノリティはバネ仕掛け

2020年06月09日 17時00分00秒 | 箱根登山鉄道

(賑わいをまた再び@大平台駅)

大平台が一番華やぐ、いつぞやの紫陽花の時期のひとコマ。一応大平台温泉の玄関口でもある駅なんですが、普段は利用者も少なくひっそりしたもの。近年は利用客もジワジワと減少していて、平成29年の換算値では駅の利用者は1日160人程度なのだとか。大平台温泉は、大箱のホテルがある湯本や、歴史のある名旅館立ち並ぶ塔ノ沢、富士屋ホテルの宮ノ下、強羅花壇を始めとした高級旅館が立ち並ぶ強羅に比べるべくもないささやかな温泉街ですが、箱根では珍しく家庭的な宿が軒を連ねる庶民派の雰囲気。源泉は「姫之湯」の名を持ち、クセのないさらりと熱めの湯が湧く温泉街のスイッチバックの駅は、また賑わいの戻る日を待っています。

運休中に金太郎塗りから登山線標準色への再塗装を施され、ピッカピカになった108号。形式写真っぽく撮るほどの引きが取れない箱根登山線の中で、一番かっちり撮影出来るのが大平台の駅でしょうか。ちなみに私は「金太郎塗りか標準色か」と言われたら圧倒的に標準色なんですけど、界隈では金太郎がいいという人もそれなりにいまして好みが分かれるところ。長らく列車が通らなかったせいで、いつもは構内の転轍機のグリスで油濡れして黒光りしていたレールの踏面も錆びて輝きが失われていたのですが、ようやく戻って来た試運転列車でレールの錆び落としも進んで行くんでしょうね。

駅先のポイントを渡って、上大平台へ向かう108-109編成。狭い構内ではありますが、登山線のスイッチバック駅は片渡のポイントを連続させる形の配線になっています。スペースを有効利用するならシーサスクロッシングを使えばいいのにと思うのですが、構造が複雑になるシーサスより、古典的でも定位側をバネで固めたスプリングポイントが一番安全で確実な分岐器だと考えているのでしょうな。

重々しくポイントを渡り越した列車が紫陽花の株の向こうに消えると、バシャン!と大きな音を立てて、割り出されたスプリングポイントが定位に戻りました。一日に何回繰り返されるかしれない、いつもの大平台の音のソノリティです。

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脇役が 手を取り合って 登る道

2020年06月07日 09時00分00秒 | 箱根登山鉄道

(80‰を望む@大平台~出山信号場間)

大平台駅東口踏切(下)から、畑山隧道方面を望む定番のアングル。既に日差しと気温は初夏のそれで、瑞々しい深森に登山線のレールが続いています。森の中に植わっている紫陽花の株、よく目を凝らして見ると、咲いているのもちらほらありますね。出山の信号場から巌山・鐘山・常磐山・畑山と四連続の隧道を潜りながら連続勾配を上がって来て、大平台への最後のラストスパートがこの上り坂。塔ノ沢~出山(信)~大平台間は断続的に最急勾配の80パーミルが続くという非常に苦しい区間。胸突き八丁と言ったところです。

警備のガードマン氏と二人で雑談しながら試運転を待っていたのですが、ガードマン氏、個人的にもカメラやっているそうで、待ち時間も楽しくお話させていただきました(もちろんお互いに適度に距離を取って、双方マスクを着用しております)。山の向こうから車輪の軋む音が聞こえて来て、さっき降りて行ったマルハチマルキューが坂を上がって戻って来ました。去年のGWにいきなり緑に塗り替えられた109号、マニアには「東急の3450っぽい」なんて言われたりしていますが、確かに尾灯や前面窓のサッシにそんな雰囲気もありますね(笑)。相当な上り坂を登っているのですが、カメラもかなり下に振ってシャッターを切っているので、なかなかその勾配の印象を伝えるのが難しい・・・

ちらほらと咲き始めの紫陽花を入れ込んで、引き付けた構図でもう一度。こっちの方が「山登ってる」感じは伝わるような気がしますかね。軽く傾いたマルキューの後ろから、ちらりと現行色のマルハチが見えるのがいい感じです。サンナナ編成の廃車によって、ヨンロクの2連と増結用の単車であるハチ・キューが残されたのでありますが、本来ならサポート役の増結用の単車同士のコンビが手を取り合って主役を張っている姿も、旧車群たちの最後の活躍の1ページになるのでしょう。

ちなみにシテンも始まりましたし、これからの紫陽花の見頃の時期の大平台界隈は、撮り鉄が密集しそうなのは気になるところ。撮る場所が狭くて少ないから尚更なのですが・・・くれぐれも撮影に行かれる方は体調管理やマスクの装着は常識として、そもそも混雑を避けて行ける人は平日に行くとか、ひとつっところのポイントに集まらずに分散したり時間でアングルを譲り合ったりなど、今まで以上の配慮が必要なのがアフターコロナの撮り鉄ではないでしょうか。

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フランジの音、再び。

2020年06月05日 18時00分00秒 | 箱根登山鉄道

(梅雨前の晴れ間@函嶺洞門)

緊急事態宣言は解除されていますが、休日に出勤していたり平日に休みがあったりと未だに職場のシフトが変則的。6月からぼちぼち再開して行こうかな・・・と思っていた撮り鉄活動ですが、折角の平日休みを何かに生かせないかな、ということで登山電車の試運転が開始された箱根に行って来ました。小田原厚木道路を走り抜けてやって来た久々の箱根。塔ノ沢の函嶺洞門の駐車場から内輪山を見上げると、蒸れたような薄青い梅雨前の空に、すっかり青葉となった山の緑が輝いていました。

運休の張り紙がなされたままの大平台駅の時刻表。去年の10月の台風で大きく破壊された箱根登山鉄道ですが、当初2020年秋頃とされていた復旧時期が前倒しとなり、7月下旬の全線復旧を目指して鋭意工事が続けられています。通りすがりで見た限りでは、一番大きな被害が出た蛇骨川の鉄橋(宮ノ下~小涌谷)の辺りは物凄い規模の足場が組まれてて、復旧に間に合わせるために大人数で懸命の作業が続いていましたねえ。5月から復旧を目指して箱根湯本~大平台駅手前までの試運転がスタートしましたが、6月からはその区間も宮ノ下まで延長。試運転ではありますが、登山電車の名撮影地である大平台界隈にフランジの音が戻って来たのは喜ばしい事。

大平台の駅横の小道を通って、いつもの定番の大平台駅東口踏切界隈。6月のはしりということで、紫陽花は麓の箱根湯本でもまだまだ・・・と言う感じだったのだけども、場所場所ではちらほらと咲き始めています。大平台もだいぶ長い事通ってますけど、この辺りの紫陽花の株もだいぶ大きくなりましたよね。いつの間にか人の背丈以上に育ってしまって、登山電車と絡めて撮影しづらくなってしまったような気がする(笑)。大平台が見頃になるのは毎年6月中旬~下旬なので、全線の運転再開が7月の下旬って事だとおそらく大平台の紫陽花は終わってるでしょうな。時期的にはギリギリ強羅の辺りで残ってるかどうか。

試運転が開始されたという事で、沿線の四種踏切には警備のためガードマンの方が配置されておりました。紫陽花の盛りの時期なら平日の大平台でも大勢のマニアがカメラを並べるのでありますが、紫陽花はまだまだだし、緊急事態宣言明けで引き続き呼び掛けられる県外への外出の自粛ムードもあって私以外にギャラリーはなし。ご挨拶して暫しガードマンの方と情報交換なんぞをしながら試運転を待っていると、ほどなく姫之湯の踏切の鐘の音が聞こえて来て、マルハチマルキューの2連がやって来ました。試運転らしく、運転士の隣には手ブレーキを準備した運転士の二人態勢。「試」の丸看がいいですね!

大平台の駅でスイッチバックして来た108-109を、大平台東口下の踏切で受ける。車体から足回り、電装品に至るまで全てが交換されているとは言えども、車籍のルーツは1920年代に誕生した小田原電気鉄道チキ2型の流れを今に引き継ぐ貴重な車両。モハ1型の「ヨンロク」こと104-106のコンビとともに、登山線最後の旧型形式として天下の嶮を走ります。108は金太郎塗りだったんだけど、今回検査を受けてスタンダードな登山電車の馴染みの塗り分けに戻されました。線路に新しく敷かれたバラストを踏んで、ゆっくりと古豪が山を降りて行きます。

函嶺の 山に木霊す フランジの 音高らかに 歩み再び。
お帰りなさい、箱根登山鉄道。

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季節の過ぎゆくままに

2020年06月03日 19時00分00秒 | 小田急電鉄

(季節は巡り・・・@神社の参道)

今日は非番でしたので、そろそろ活動を再開しようかな・・・なんて思いながら、久し振りにカメラを持って外へ出てみることにしました。緊急事態宣言が解除されたとはいえ、解除したらしたであっさりと東京の感染者数が30人を越え、「東京アラート」とやらが発動されてしまいました。神奈川県下と言えども全く予断は許さない訳でありますが、さりとていつまでも引きこもってもいられませんのでね。健康のために家から5kmくらい歩いて来たのですが、通り抜けた神社の境内では紫陽花が鮮やかな色を付けていました。12月に中国でウイルスが確認されてから地球規模での災厄が降り注いだこの半年、人間が家に引きこもっているうちに、季節は確実に流れているようです。

青々とした木々の間から木漏れ日が落ちる参道。「このままだと第二波が来ますよ」「第三波が来ますよ」とマスコミや専門家は喧伝するのだけど、何となく世間の風向きを見ると「だからって自粛しろって言われても無理だよね」とでも言いたげな半ば諦観しきったような空気もあり。勿論個々人で感染しないように努力する必要はあるのだけど、この先、緊急事態宣言解除以降の感染者増加については、ある意味社会を動かすための必要経費と割り切って腹をくくる覚悟が求められるのかもしれません。当然それには医療体制の充実とテレワークを含めた社会構造の改革が必要なんでありましょうが。

コロナ自粛明けのファーストショットは、GSEで運行された「はこね2号」。5月までは土休日は運休とされていた小田急のロマンスカー。今日は平日でしたけど、今度の土日からは通常通りのダイヤに戻るそうです。平日の上りはこねですから、乗車率がそれほど良くなくてもしょうがないのかなあとは思いますけど、前展に誰も乗ってませんからねえ。回送じゃないですよ。営業列車でこの状況なのですから。箱根の旅館も徐々には営業を再開しているところも出て来てるみたいなんで、少しずつでも客足が戻る事を祈るしかありませんな。って言うかデンシャを撮影したのが物凄い久し振りだな。何と言うか撮影をする感覚を忘れてた(笑)。

運用情報を見ると、約1時間後に新宿方から新5000系が下って来るようなので、コンビニで休憩してアイスコーヒーなど飲みつつ散歩しつつでザマエビカーブへ移動。新5000系は1月くらいからシテンに入ってたけど、何となく撮影する機会がなくて今回初めてのご対面です。前面の行先表示は4000とか新1000ほどは切れない優秀なLEDのようですが、4000系よりもさらに前面の折れ込みの角度が大きくかつ丸っこいので(形で言えば東急の大井町線に入った6000系だね)、前面ガラスの映り込みによって没カット量産になってしまいそうなキケンはありそう。この形式が8000系を淘汰していくのでありましょうか。

ちょっとの時間でも、カメラを握るのはやっぱり気晴らしになる。しっとりと紫陽花咲く地元の氏神様の参道。こんな世の中だからこそ、石段の上まで登って二礼二拍手一拝。混沌の世の中に安寧を。災厄と疫病の終息を。

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