tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

旅館松前の柳井尚美さん 観光地奈良の勝ち残り戦略(84)

2015年01月06日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
産経新聞奈良版は2015年元旦から5日まで、4回連続で「奈良 おもてなしの達人」という力の入った特集記事を連載していた。元旦(第1回)はル・ベンケイの尾川欣司さん、3日(第2回)は旅館松前の柳井尚美さん、4日(第3回)はゆるりやの恵良崇さんと容子さん、5日(第4回)は観光人力車やまと屋というラインナップである。
※トップ写真は、外国人観光客から贈られた各国の土産物に囲まれる柳井尚美さん(旅館松前)

いずれも錚錚(そうそう)たるメンバーだが、とりわけ目を引いたのが旅館松前の柳井尚美(やない・なおみ)さんだ。「外国人観光客が多い」「リピーターが多い」という噂は聞いていたが、記事を読んで初めて納得した。以前、私が関係するシンポジウムのパネラーに「誰か良い人はいませんか?」とあるホテル経営者にお聞きしたところ、即座に「旅館松前の柳井さん」というご推薦をいただいたこともある。早く実現しなければ…。では以下に記事全文を引用する(旅館松前のHPは、こちら。ちゃんと英文も併記されている)。

宿泊客の8割が外国人 無理せず自分も楽しく 「旅館松前」女将、柳井尚美さん

名勝・猿沢池(奈良市)からほど近く、伝統的な町家が立ち並ぶ一角にたたずむ「旅館松前」。大きくはないが、創業から約80年を数える老舗だ。約15年前、女将(おかみ)として夫とともに経営を引き継いだ柳井尚美さん(55)は、「無理をせず、自分も楽しいおもてなしが最高のおもてなし」と、独自の「おもてなし感」で外国人観光客や日本人をもてなし、リピーターを生み出している。

書を学んだ大学時代、たびたび京都を訪れる中で、知人に「奈良もいいところ」と紹介されて訪ねたのが、奈良との出会いだった。歌人で書家の会津八一ら、多くの学者や文人が集まったことでも知られる旅館「日吉館」(廃業)に泊まっては、さまざまな人と交流を深めた。卒業後は奈良市内などで書道講師として働いたが、旅館松前の跡取りだった壮一さんと結婚し、若女将に。「旅館業は全くの素人」ながら、皿洗いや掃除など、仕事を手伝うようになった。



これら2枚の写真は、旅館松前のFacebookから拝借した

現在は宿泊客の8割が外国人で、残る2割の日本人もほとんどが常連客。海外からの利用客はフランスやアメリカ、オーストラリアなどが多く、ほとんどが個人や家族で旅行に来る観光客だ。開業当初は修学旅行生を中心にした経営だったが、壮一さんと旅館の仕事を手伝い始めたころ、フランス大使館の職員一家が宿泊したことがあった。英語が堪能な壮一さんと一緒に茶を点てたり、子供に習字を教えたりしてもてなすと喜んでくれ、「友達や家族にも紹介する」と言って帰っていった。

「社交辞令だと思っていた」が、言葉通りフランスからの宿泊客がたびたび訪れるように。海外向けの旅行雑誌などに載るようになったことがきっかけで、「滞在して奈良を味わいたい」という欧米人の宿泊が増えたという。

客室は15室と決して大きくなく、常駐スタッフは女将以外は2人のみ。繁忙期は学生のアルバイトで補っている。そのため、「おもてなし」といっても、高級旅館のように「チェックインしたら抹茶とお菓子を出す、というようなことはできない」と率直に話す。

一方、「旅館はお客さまを泊める以上、24時間命を預かっていることと同じで、仕事と生活の区別がない」と指摘。「自分がしんどくなったら『形だけのおもてなし』というのが相手にも伝わってしまう」と、特別な新しいことをするのではなく、「当たり前のことを少しだけ丁寧に、熱心に」するよう心がけているという。

連泊客が多いため、「観光客が集まる大型レストランではなく、あなたのお勧めを教えてほしい」という宿泊客からの要望も多い。急病の外国人客を受け入れてくれる病院を探し回ることもある。



食事先紹介のリクエストには、自分がよく行く居酒屋や知り合いの店など、相手の好みや懐事情に合わせて、自ら電話で空席状況を確認。外国人の場合は日本語の能力に応じて、勧める店を変えたりもする。そうした細やかな心遣いで、実は外国人にもリピーターが多いという。

壮一さんの趣味は狂言鑑賞。その趣味と実益を兼ねて、館内では平成18年から大蔵流の狂言の稽古が行われ、不定期でライブも開催。そんな様子を、外国人宿泊客は興味津々でのぞきに来る。

平成21年に壮一さんが59歳で他界後は、書を書いていた尚美さんを見かけた宿泊客から「やってみたい」といわれたのをきっかけに、館内で書も再開。書き順や形式にこだわらず、墨をすって自由に文字を書く「墨あそび」なども行う。狂言も書も、もともとは観光客を呼び込むために始めたものではなかった。だが、ここでも「無理をしないおもてなし」が好評を博している。

「喜んでもらえるのが一番の喜びになる」と話すが、外国人観光客をめぐる奈良の環境には課題も。奈良市の調査によると、市を訪れる外国人観光客は25年の1年間で43万5千人と、前年より63%も増加。一方、外国人は休日や夜間の診察が必要になっても、体制の問題などから受け入れてもらえないケースがあるという。

尚美さんは「奈良を訪れる外国人観光客のためにも、いつでも受診できる環境を整えてほしい」と、県や市に要望。「奈良を楽しんでもらえるように、奈良に安心して滞在できる環境は絶対に必要」と訴えている。「特別なことはしない。無理がなければ、喜んで、いつでもできる」をモットーに、多くの人に奈良の魅力を楽しんでもらえるよう、独自の「おもてなし」追求は続く。(橋本昌宗)

柳井尚美さん 昭和34年、埼玉県生まれ。大学時代に旅行でたびたび奈良を訪れ、卒業後は奈良市内で書道講師に。「旅館松前」の跡取りの夫との結婚を機に20年前から旅館業務を手伝い始め、約15年前に女将(おかみ)として夫と2人で同館を経営。平成21年に夫が他界した後も、経験豊富なスタッフとともに旅館を切り盛りしている。


これはすごい。旅館松前は、ある意味「澤の屋旅館」(東京都台東区谷中)を追い越しているのではないか。記事から、たくさんのキー・センテンスが浮かび上がってきた。

「無理をせず、自分も楽しいおもてなしが最高のおもてなし」
「当たり前のことを少しだけ丁寧に、熱心に」
「観光客が集まる大型レストランではなく、あなたのお勧めを教えてほしい」
「急病の外国人客を受け入れてくれる病院を探し回ることもある」
「食事先紹介のリクエストには、自分がよく行く居酒屋や知り合いの店など、相手の好みや懐事情に合わせて、自ら電話で空席状況を確認」
「館内では平成18年から大蔵流の狂言の稽古が行われ、不定期でライブも開催」
「館内で書も再開。書き順や形式にこだわらず、墨をすって自由に文字を書く『墨あそび』なども行う」
「特別なことはしない。無理がなければ、喜んで、いつでもできる」


15室という規模が幸いして、このようなきめ細かいサービスができるのだろう。早くにターゲット層を修学旅行生から外国人客に切り替えたことも、先見の明があった。辛口で知られるトリップアドバイザーでの評判も上々だ。それにしても「宿泊客の8割が外国人で、残る2割の日本人もほとんどが常連客」とは驚く。

私は、2015年は奈良県にとって「インバウンド元年」になると確信している。県や市町村や各種団体が動き出したし、春日大社の式年ご造替も追い風になる(春日若宮おん祭には、毎年多くの外国人観光客が訪れる。特に深夜の「遷幸の儀」)。県下の宿泊施設は、ぜひ旅館松前を見習い、たくさんの外国人観光客を引きつけていただきたいものだ。柳井さん、これからも頑張ってください!
コメント (2)
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