昨日、放送されたNHKスペシャル JAPANデビュー「アジアの”一等国”」について、インターネット上の反応を確かめてみた。
Mixiの台湾関連のコミュニティでは「番組の内容が偏向している」「NHKに抗議した」など、番組に対する否定的な意見が多く見られた。この番組を制作したNHKディレクターは、台湾の歴史を知らないのではないか、もう頭にきたので、受信料は払わない、とまで書き込んだメンバーもいた。
私見では、NHKの担当ディレクターは、あらゆる方面から情報を集めて、この番組を制作したはずだ。特に中国、南北朝鮮をテーマにするときは、特段の注意を払ったはずで、自らの保身の意味も含めて、万全の準備を行ったはずだ。
「アジアの”一等国”」は、台湾の植民地統治、皇民化政策を採り上げたものだが、中華人民共和国に対する異様なまでの「遠慮」「配慮」が際だった。
旧制・台北第一中学・台湾人卒業生の同窓会でインタビューした映像がかなりの時間流されたが、NHK側の制作意図に沿って編集されたと思われた。日本の台湾統治に対する批判的な発言が多く採り上げられたが、ビデオを見直すと、恨みを持って日本を批判しているようには思われない。一方、台湾人が決して忘れることのない「二・二八事件」について、このインタビューで話が出なかったはずはないのだが、番組上では採り上げられていない。
さらに、番組のナレーションでは、台湾人の「中国語」を使用禁止にして、日本語を強制したと紹介されたが、これも極めて意図的なものを感じさせた。「中国語」と言えば、多くの人が「北京語」のことだと思いがちだが、当時台湾人が使っていたのは「台湾語」(中国語の一方言)である。「北京語」を台湾人に強制したのは、蒋介石政権に他ならないのだが、そのへんの説明はすべて省略されてしまっている。
昨年、台湾総統選挙で民進党・陳水扁候補が敗北して以来、台湾は急速に大陸に接近し、今や併合寸前とも言える状況になっている。これに危機感を抱く本省人たちは、台湾の独自性、つまり民主主義国家としての台湾、多様な多民族国家としての台湾を主張している。
台湾映画史上、最大のヒット作になった「海角七号」に対しては、両岸委員会の中国代表・陳雲林が「皇民化の大毒草」であると批評したと伝えられる。現在でも、中国では「皇民化」は死語になっていないのだ。
このように今なお政治カードとして使われる「皇民化」を、NHKは本当に腹をくくって採り上げたのだろうか? 番組を見る限り、とてもそのようには見えない。むしろ、中国の眼を気にしながら、おずおずと制作したような印象を受ける。
これから「朝鮮」や「中国」をNHKがどうとりあげているのかで、おおよそのことは分かってくるだろう。
NHKスペシャル「150年前世界デビューしたJAPANの軌跡」第1回「アジアの”一等国”」を見る。
北朝鮮が日本に向けてミサイルを発射した同じ日、たまたまこの番組がスタートしたわけだが、日本の近代をどうNHKが総括するのか、実に興味津々だ。
今日のテーマには、「日本初の植民地・台湾 発見・幻の皇民化映像」というサブタイトルが付けられている。
まず注意すべきは、日本の台湾統治について、台湾では李登輝氏が総統に就任して以来、従来の「大中華主義」的歴史観が改められ、プラスの側面もきちんと評価しようとする動きが見られることだ。これは、「反日教育」を進める南北朝鮮や大陸中国とは決定的に異なる点である。
NHKスペシャルは、いつも丹念に作られていて、注目度も信頼性も極めて高い。日本人にとって「生涯学習」の役割を果たすことのできる数少ない番組である。それが今回、近代日本150年の歴史を総括するのだから、社会的責任は大きい。
日本の近代は、「西洋の衝撃」(Western Impact)によって始まった。アジア諸国が次々と植民地化されるなか、日本はやむをえず欧米と対抗できる”一等国”を目指したに過ぎない。番組ではきちんとこのことには触れていて、「フランスは日本を植民地化する計画を持っていた」というフランス人研究者のコメントも添えている。
台湾の統治は、欧米に日本の力量を誇示するモデル・ケースだった。そのため後藤新平は、台湾総督府という近代的組織をつくり、樟脳などの産業振興、保健医療・教育の普及を行った。後藤は、台湾人を皇民化することは考えず、台湾を国内法とは異なる特別法で統治した。後に大陸で日中戦争が起きるに及んで、台湾内部での反日運動を押さえるために、「皇民化」政策が推進されたのだった。このあたりの経緯は、わかりやすく整理されている。
番組は、今や80歳代半ばになる旧制・台北一中の同窓会の模様を映し出す。日本統治時代には本省人と日本人との間に、進学や就職、出世などに大きな差別があったことを何人もが証言した。一方、台北の公園では、旧日本軍兵士であった老人たちが集まり、軍歌を歌う光景…。
映像の印象は強烈なので、素朴な平和主義者は、「日本人は悪いことをした」「戦争はイヤだ」という感想を持つのだろうが、ことはそれほど単純ではない。彼らが今なお、日本を懐かしみ、日本を恨むのは、日本人であった彼らをある日突然、日本が見捨てたからなのだ。
この番組では、誰に遠慮したのか分からないが、蒋介石が台湾人の指導層を狙って三万人を虐殺した「二・二八事件」(1947年)については、「二・二八」という名称は使わず、軽く触れただけだった。民主化された台湾では、旧総督府前にある「新公園」を「二・二八平和記念公園」と改称したほどで、永らく封印されてきた「二・二八事件」のタブーはもはや存在しない。したがって、NHKが台湾に遠慮しているとは考えられない。
この番組の最後では、「今でも親日的であると言われる台湾」とコメントしながらも、同時に「皇民化」を強要した日本を批判的に結論づけている。これでは、何故台湾人が今なお親日的なのかその理由が分からない。蒋介石政権は、本省人にとって日本とは比較にならないほど野蛮で残虐な支配者だった-この事実に全く触れられていないのだ。NHKは誰に遠慮しているのだろうか?まさか中国に遠慮しているとは思いたくないのだが…。
日本人は「中国語」を奪い、「皇民化」を強要したとする点にも納得がいかない。「中国語」というと、多くの人が中華人民共和国で話されている北京官話(普通話)だと思ってしまうが、これは正確には台湾語(中国語の一方言)である。このあたりも、中国への遠慮なのか?
繰り返しになるが、日本の敗戦時、台湾は日本に次ぐアジア第二の工業国になっていて、教育、医療、鉄道等のインフラは大陸中国より遙かに優れていた。その日本を祖国だと思って戦った台湾人は、日本の敗北により突然はしごを外された状態に陥り、大陸から逃亡してきた蒋介石政権に「敵性人」として弾圧されたのである。この番組では、そうした経緯がさらりとしか触れられていないので、極めて分かりづらい。
個人的には、この番組を見たあと、台湾映画「海角七号」を見ることをぜひお勧めしたい。台湾映画史上、最高のヒット作となったこの映画が、「…棄てたのではない。泣く泣く手放したのだ」という印象的な日本語で結ばれているのは、決して偶然ではない。これを見れば、日本と台湾の”絆”が伝わってくるはずだ。
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