いわき市の主宰する、新人作家の優れた文学作品を顕彰する「吉野せい賞」についてはよく聞いていたが、彼女については何も知らなかった。
早速、図書館で書庫から探してもらった作品集を借りて初めて読んだ。
70歳を過ぎて筆をとった彼女の代表作「洟(はな)をたらした神」は、彼女の人生そのものの土の匂いのする16編の随筆からなり、そのすべての作品に心打たれた。
串田孫一氏が感想に、吉野せいの文章のいたるところに人間の根源を照らす光があると述べている。
また、自分に対して偽りを許したことのない人間だけの持っている真実の輝きだと。
たしかに、これまで読んだことのない文章から、彼女の綴る辛い、苦しい人生にその光らしきものを強く感じた。
作品集の口絵写真には吉野せい自筆の色紙「怒を放し 恕を握ろう」とあり、彼女が自分に言い聞かせた思いと受け止めた。
彼女が生きていれば、この福島の怒りの状況をどう恕していこうとするのだろうか。
( ブログ「吉野せいと石牟礼道子」でいろいろ教えられた。
http://d.hatena.ne.jp/michimasa1937/20160319
ふるさとに作家、吉野せい。名前だけ知っていた彼女を初めて読んだ。)