■あこがれの魚■
今から40年も昔、小学校生活の中盤を向かえた頃にボクの釣り人生が正式に始まった。
それまで父の故郷である和歌山県の川で竿は出していたものの、自分の竿を買ってもらって本気で始めたのが、同級生間での釣りブームが起こった小学3年生のことだったと記憶している。
その頃は、近所の甲子園浜と今津港で竿を出し、釣り場に行けない時は自宅から一駅先の阪神電車今津駅近くにあったフィッシングサービス山本(のちに「サンフィッシング」と改称)という店に自転車で足繁く通っていた。そこで諸先輩のオジサン達の話す自慢話に耳を傾け、時にはアドバイスを聞きながら知識を蓄積して、少々頭デッカチな釣り小僧として成長していた。
その釣り小僧のあこがれが、店内に魚拓になって飾られていた大型グレだった。サイズは72cm、釣った場所は高知県の沖の島ということだった。当時は尾長グレと口太グレの区別はされていなかったが、今考えると、その大きさから尾長グレに間違いない。そして、それを初めて見て以来、ボクにとってグレは特別な魚になった。
当然「金がない、車がない」子供同士で磯釣りに行くことは不可能であるから実物は見たことがなく、釣魚図鑑で色形を確認して妄想しているだけの日々が続いていたが、初めて実物を釣ったのは、淡路島の生穂という地区にある石積み防波堤だった。当然それは、いわゆる木っ端グレと呼ばれる幼魚ではあったが、とにもかくにも初めての実物との対面は小学6年生のことだった。
そしてその後、高校生の半ばになって青少年時代の釣りは一旦休止し、紆余曲折があって釣りを再開したのが、25歳を過ぎた頃だった。その頃には自分の車を持っており、行動半径が広がっていたこともあって、再スタートは勿論あこがれのグレ釣りからだった。以来中休みはあったものの、グレ釣りには20年以上も真剣に取り組む日々が続いた。
■グレの釣り味■
素人目には判りづらいのかも知れないが、上述したようにグレには幾つか種類があって、今では明確に分けられている。その種類は釣り人の多くから口太グレと呼ばれる「メジナ」、同様に尾長グレと呼ばれる「クロメジナ」が釣りでのターゲットで、その他、標準和名で「オキナメジナ」と呼ばれる種もあるが、これは例外的に釣れる数が少なく、狙って釣る魚ではないため、ここでは触れない。
口太グレは希に60cmクラスも釣り上げられるが、普通に狙う場合で最大クラスは50cm台となり、尾長グレも同様で、希に70cmクラスやそれ以上も釣り上げられるが、60cm台が普通に狙う場合の最大クラスとなる。
グレ釣りの魅力は、彼らが持つ警戒心の強さから来るのであろう、釣り人がよく言うところの「頭の良さ」と「引きの強さ」だと思う。
今までに様々な釣りを体験したが、その全てを振り返ってみてもグレ釣りほどテクニックの多彩さを要求される釣りは他にないように思う。
マキエサ一つをとっても「ただ撒けば寄ってくる」といった単純なモノではなく、ひどい場合は山のようになって押し寄せるエサ取りをかわしつつ、本命を釣らなければならない。そのため、寄ってくるエサ取りの種類と量に合わせてマキエサの打ち方を変え、少しでもグレにサシエサが届く確率を上げるテクニックが要求される。
また、潮読みでは沖を流れる本流と、磯の周囲を流れる潮流をトータルで捉え、それを3Dで考え無ければならないうえ、その流れ自体が常に変化して一定ではないから、その時その時での判断が迫られる。
更には、タナのとり方も、単にグレが食いに来るタナを探るためのウキ下(ウキからハリまでの距離)調整だけではなく、道糸の張り具合の調整までをも考えなくてはならないし、「食わせるためのハリスや道糸、そしてウキ、更にはハリやオモリ選び」といった「食わせる為の道具選び」や、竿、リールといった「獲る為の道具選び」も重要になる。
そしてようやく魚が掛かったとしても、大型を獲るためには、「柔よく剛を制す」の言葉の下、己が持つ能力の限界での竿さばきとリーリングが要求される等々…。”頭のイイ”グレを釣るためのテクニックを書き出すとキリがないほどの量になる。
「普通レベルのテクニックを持つ」と自称するボクの場合、口太グレの自己記録は愛媛県の蒋渕で釣った53cmで、このクラス近辺は10枚以上は釣っている。そのほとんどが2号ハリスを使用していて釣ったモノで、現在でも地形があまりに複雑でなければ、このハリスでこのクラスを獲る自信があるが、名人クラスはハリス1.2~1.5号で狙っている。細ハリスほど食いが良くなるのはエサ釣りの常であり、特にグレ類はその差が顕著なのでテクニックを磨くとボクなんかよりも更に釣果は伸びることは確実だ。
口太グレとの差が倍近くに感じるほど引きが強い尾長グレの場合、ボクの自己記録は男女群島の帆立岩で釣った60cmで、それに少し足らないクラスは数匹釣っている。ボクがこのクラスを狙うのは長崎県の遙か沖にある離島=男女群島なので、日中であれば4~5号ハリスを使用している。
このクラスよりも下の40~50cmクラスを例えば五島列島で狙う場合は、2~2.5号のハリスを使用するが、名人クラスはこの太さのハリスで60cmオーバーを高知県の沖の島や鵜来島あたりでゲットしているから恐れ入ってしまう。
グレ類はハリに掛かって危機を感じると「根」と呼ばれる海底の岩塊や、海溝に向かって緊急待避を始める。その傾向は口太グレの方が顕著で、その際には自身の持てる力を最大に発揮するため、モタモタしていたり、油断したりしていると、一気に走られてしまい、ハリスが周りの岩に擦れて飛んでしまう。運良く切れなくても岩の窪み等に張り付くため、多くの場合でにっちもさっちも行かなくなって、結局はハリスが飛んでしまうことになることが多い。(希に、張り付いた後に動き出して獲れることもあるが…)ただし、このフルパワーを一度しのぐと、大型の口太グレを獲る確率はかなり上がるので、馴れてくると何となくだが、対策がとれるようになってくる。
しかし、尾長グレの場合だとそうは行かず、「これでもか!」と言わんばかりに何度も執拗に締め込んでくる。尾長グレの場合は根に向かうばかりとは限らず、沖の深みへ一気に走るタイプなど様々だが、沖へ走る場合は、やり取りのスペースが広がるだけに、少しは楽な展開になる。
ただし、実はやり取りで苦労する前に、この尾長グレには関門がある。それは「歯の鋭さ」だ。
口太グレの歯はブラシ状になっており、ハリを飲まれても、と言うか、飲まれて血を吹き出すくらいの方が早く弱って取り込みが楽になるという説もあるほどなので、ハリに結びつけられたハリスのチモト部を歯で切られてしまうことはほとんど無い。しかし、尾長グレのそれは鋭く、と言っても手を当てても切れるというほどではないのだが、細~中庸なハリスを使っている場合はハリを飲まれてしまうと、高確率でチモト部が切られてしまうのだ。
その対策にハリスを太くすれば食いが極端に悪くなる。これは、例えば高知県沖の島や鵜来島の磯では上から見えるほどの水深まで浮上した大型の尾長グレが、ハリ&ハリスの付いたエサを避けてマキエサのみを食うシーンは当たり前のように展開され、実映像が何度となく撮影されていることでも実証されている。だから、釣り人は引きの強さに対して明らかに細いハリスを使い、「如何にして飲まれることなく、口周りにハリを掛けるか?!」の対策をとらなければならない。その”神経ピリピリ度”は尋常ではなく、一部には「前アタリを察知し、その後の本アタリでウキが1cm動いた時点でアワせなければならない。」とまで言われているほどなのだ。
真剣に取り組んでいた時期が長いために思い入れが強くて、説明が長くなってしまったが、尾長グレにしろ、口太グレにしろ、結局は当日その磯で狙えるサイズに合わせて自分の持てる能力で扱える限界の細さのハリスを使って攻めることが多くなるので、その意味ではスリル感が半端ではない釣りの一つだ。
その”限界の細さのハリス”を使う限りにおいて、尾長グレの40cm台後半クラスから上は、テクニックの要求度が特に高くなるため、間違いなく釣り味は10段階の9になる。対して口太グレの場合は、経験を積むと展開がある程度は楽になることから10段階の8としておく。
■グレの食い味■
グレの食い味は口太グレ、尾長グレそれぞれに違いがある。
口太グレの場合は産卵期がハッキリしているので、それを中心に考えると判り易い。旨いのは11月下旬~1月下旬頃までの、産卵前までのモノで、夏場は味が落ちる。よく言われる「磯臭さ」は、夏場の方が出易いのだが、これに関しては今でも僅かに感じるものの、ほとんど過去の話のように扱われている。と言うのも、釣り人が入る磯の周りにはオキアミが恒常的に撒かれており、これを主食としているので臭いが身に乗らなくなっているからだそうだ。その昔は、離島などで釣った口太グレを眼前に持ち上げただけで臭っていたと言うから、この説は当たっているのかも知れない。
産地による違いも結構あって、ボク的には五島列島や、豊後水道のモノは旨く、紀伊半島のモノはそれよりも評価が落ち、瀬戸内海産はあまり旨くないように感じる。但し、評価の下がる瀬戸内海産を除けば、マダイよりも脂の旨味が多く、味わい深い感があるため、食い味は10段階の7としておきたい。
尾長グレに関しては、実は産卵期がよく判らない。今までに釣った場所は男女群島~伊豆諸島までと、かなり広範囲で、釣った時期もまちまちなのだが、確実にこの時期に抱卵していると言い切ることができないほどにバラバラの状態なのだ。しかも、漁業の対象になりにくい魚のため、生態の全般についても学者ですらよく解っていないということらしい。
そこで、ボク自身の経験談だが、一番脂が乗っているとの印象があるのが、6月に山口県萩沖に浮かぶ見島で釣った45cm級で、これは極ウマだった。そして多くの尾長グレを釣り続けている某名人も、「45~50cmの、回遊から離れて磯周りに居着いた体色が茶色い個体が一番旨い。」と言っていたので、恐らくこの判断は間違いではないだろう。そしてそのサイズであれば、10段階の8を付けるのが適当だと思う。
因みに両魚共、刺身を始め、煮物、焼き物何でも来いだが、我が家の場合は、軽く塩こしょうを振った皮付きの身をフライパンに乗せ、酒を振りかけつつ両面を焼いた後で、ポン酢で食べるのが格別としている。
■総合評価■
釣れる時期が長く地域も広い口太グレは、全国規模の大きなモノから小売店やクラブ主催の小さなモノまで、競技会も盛んに行われているが、単一魚を狙った大会の中では、恐らく開催数は最多の部類に入ると思う。それだけこの魚の良型を揃えて釣るには”腕”が必要となる。そして、狙える箇所は減るが、より難易度の高い尾長グレの場合であれば、ななおさらのことだ。そこで評価だが、尾長グレの場合は10段階の9、口太グレの場合は10段階の7.5としておきたい。
この釣りに対し、長きにわたって真剣に取り組んだことが、頭の中にある引き出しへの情報ストック量が増えた要因であり、これがあるお陰で他の釣りに移行しても理解が早くなることに繋がっているのだと思うだけに、この釣りの奥深さがそう評価させていると理解して欲しい。
釣りには「豪快だが、大味な釣り」、「繊細だが、迫力がない釣り」等々、スタイルが色々とあるが、「繊細なテクニックで豪快に釣る魚」は少ない。その少ない中の一つがグレ釣りだと思う。それを野球で例えるのなら、釣り人は「打率3割、30本塁打、30盗塁」のバッターを相手にするピッチャーのような立場だ。そんな相手から三振を日本のプロ野球界でとった瞬間が、大型の口太グレを玉網に収めた瞬間、それをメジャーリーグ界でとった瞬間が、大型の尾長グレを玉網に収めた瞬間と言えば解ってもらえるだろうか?って、それは言い過ぎか…?。
今から40年も昔、小学校生活の中盤を向かえた頃にボクの釣り人生が正式に始まった。
それまで父の故郷である和歌山県の川で竿は出していたものの、自分の竿を買ってもらって本気で始めたのが、同級生間での釣りブームが起こった小学3年生のことだったと記憶している。
その頃は、近所の甲子園浜と今津港で竿を出し、釣り場に行けない時は自宅から一駅先の阪神電車今津駅近くにあったフィッシングサービス山本(のちに「サンフィッシング」と改称)という店に自転車で足繁く通っていた。そこで諸先輩のオジサン達の話す自慢話に耳を傾け、時にはアドバイスを聞きながら知識を蓄積して、少々頭デッカチな釣り小僧として成長していた。
その釣り小僧のあこがれが、店内に魚拓になって飾られていた大型グレだった。サイズは72cm、釣った場所は高知県の沖の島ということだった。当時は尾長グレと口太グレの区別はされていなかったが、今考えると、その大きさから尾長グレに間違いない。そして、それを初めて見て以来、ボクにとってグレは特別な魚になった。
当然「金がない、車がない」子供同士で磯釣りに行くことは不可能であるから実物は見たことがなく、釣魚図鑑で色形を確認して妄想しているだけの日々が続いていたが、初めて実物を釣ったのは、淡路島の生穂という地区にある石積み防波堤だった。当然それは、いわゆる木っ端グレと呼ばれる幼魚ではあったが、とにもかくにも初めての実物との対面は小学6年生のことだった。
そしてその後、高校生の半ばになって青少年時代の釣りは一旦休止し、紆余曲折があって釣りを再開したのが、25歳を過ぎた頃だった。その頃には自分の車を持っており、行動半径が広がっていたこともあって、再スタートは勿論あこがれのグレ釣りからだった。以来中休みはあったものの、グレ釣りには20年以上も真剣に取り組む日々が続いた。
■グレの釣り味■
素人目には判りづらいのかも知れないが、上述したようにグレには幾つか種類があって、今では明確に分けられている。その種類は釣り人の多くから口太グレと呼ばれる「メジナ」、同様に尾長グレと呼ばれる「クロメジナ」が釣りでのターゲットで、その他、標準和名で「オキナメジナ」と呼ばれる種もあるが、これは例外的に釣れる数が少なく、狙って釣る魚ではないため、ここでは触れない。
口太グレは希に60cmクラスも釣り上げられるが、普通に狙う場合で最大クラスは50cm台となり、尾長グレも同様で、希に70cmクラスやそれ以上も釣り上げられるが、60cm台が普通に狙う場合の最大クラスとなる。
グレ釣りの魅力は、彼らが持つ警戒心の強さから来るのであろう、釣り人がよく言うところの「頭の良さ」と「引きの強さ」だと思う。
今までに様々な釣りを体験したが、その全てを振り返ってみてもグレ釣りほどテクニックの多彩さを要求される釣りは他にないように思う。
マキエサ一つをとっても「ただ撒けば寄ってくる」といった単純なモノではなく、ひどい場合は山のようになって押し寄せるエサ取りをかわしつつ、本命を釣らなければならない。そのため、寄ってくるエサ取りの種類と量に合わせてマキエサの打ち方を変え、少しでもグレにサシエサが届く確率を上げるテクニックが要求される。
また、潮読みでは沖を流れる本流と、磯の周囲を流れる潮流をトータルで捉え、それを3Dで考え無ければならないうえ、その流れ自体が常に変化して一定ではないから、その時その時での判断が迫られる。
更には、タナのとり方も、単にグレが食いに来るタナを探るためのウキ下(ウキからハリまでの距離)調整だけではなく、道糸の張り具合の調整までをも考えなくてはならないし、「食わせるためのハリスや道糸、そしてウキ、更にはハリやオモリ選び」といった「食わせる為の道具選び」や、竿、リールといった「獲る為の道具選び」も重要になる。
そしてようやく魚が掛かったとしても、大型を獲るためには、「柔よく剛を制す」の言葉の下、己が持つ能力の限界での竿さばきとリーリングが要求される等々…。”頭のイイ”グレを釣るためのテクニックを書き出すとキリがないほどの量になる。
「普通レベルのテクニックを持つ」と自称するボクの場合、口太グレの自己記録は愛媛県の蒋渕で釣った53cmで、このクラス近辺は10枚以上は釣っている。そのほとんどが2号ハリスを使用していて釣ったモノで、現在でも地形があまりに複雑でなければ、このハリスでこのクラスを獲る自信があるが、名人クラスはハリス1.2~1.5号で狙っている。細ハリスほど食いが良くなるのはエサ釣りの常であり、特にグレ類はその差が顕著なのでテクニックを磨くとボクなんかよりも更に釣果は伸びることは確実だ。
●口太グレの自己記録”53cm”●
口太グレとの差が倍近くに感じるほど引きが強い尾長グレの場合、ボクの自己記録は男女群島の帆立岩で釣った60cmで、それに少し足らないクラスは数匹釣っている。ボクがこのクラスを狙うのは長崎県の遙か沖にある離島=男女群島なので、日中であれば4~5号ハリスを使用している。
●尾長グレの自己記録”60cm”●
このクラスよりも下の40~50cmクラスを例えば五島列島で狙う場合は、2~2.5号のハリスを使用するが、名人クラスはこの太さのハリスで60cmオーバーを高知県の沖の島や鵜来島あたりでゲットしているから恐れ入ってしまう。
グレ類はハリに掛かって危機を感じると「根」と呼ばれる海底の岩塊や、海溝に向かって緊急待避を始める。その傾向は口太グレの方が顕著で、その際には自身の持てる力を最大に発揮するため、モタモタしていたり、油断したりしていると、一気に走られてしまい、ハリスが周りの岩に擦れて飛んでしまう。運良く切れなくても岩の窪み等に張り付くため、多くの場合でにっちもさっちも行かなくなって、結局はハリスが飛んでしまうことになることが多い。(希に、張り付いた後に動き出して獲れることもあるが…)ただし、このフルパワーを一度しのぐと、大型の口太グレを獲る確率はかなり上がるので、馴れてくると何となくだが、対策がとれるようになってくる。
しかし、尾長グレの場合だとそうは行かず、「これでもか!」と言わんばかりに何度も執拗に締め込んでくる。尾長グレの場合は根に向かうばかりとは限らず、沖の深みへ一気に走るタイプなど様々だが、沖へ走る場合は、やり取りのスペースが広がるだけに、少しは楽な展開になる。
ただし、実はやり取りで苦労する前に、この尾長グレには関門がある。それは「歯の鋭さ」だ。
口太グレの歯はブラシ状になっており、ハリを飲まれても、と言うか、飲まれて血を吹き出すくらいの方が早く弱って取り込みが楽になるという説もあるほどなので、ハリに結びつけられたハリスのチモト部を歯で切られてしまうことはほとんど無い。しかし、尾長グレのそれは鋭く、と言っても手を当てても切れるというほどではないのだが、細~中庸なハリスを使っている場合はハリを飲まれてしまうと、高確率でチモト部が切られてしまうのだ。
その対策にハリスを太くすれば食いが極端に悪くなる。これは、例えば高知県沖の島や鵜来島の磯では上から見えるほどの水深まで浮上した大型の尾長グレが、ハリ&ハリスの付いたエサを避けてマキエサのみを食うシーンは当たり前のように展開され、実映像が何度となく撮影されていることでも実証されている。だから、釣り人は引きの強さに対して明らかに細いハリスを使い、「如何にして飲まれることなく、口周りにハリを掛けるか?!」の対策をとらなければならない。その”神経ピリピリ度”は尋常ではなく、一部には「前アタリを察知し、その後の本アタリでウキが1cm動いた時点でアワせなければならない。」とまで言われているほどなのだ。
真剣に取り組んでいた時期が長いために思い入れが強くて、説明が長くなってしまったが、尾長グレにしろ、口太グレにしろ、結局は当日その磯で狙えるサイズに合わせて自分の持てる能力で扱える限界の細さのハリスを使って攻めることが多くなるので、その意味ではスリル感が半端ではない釣りの一つだ。
その”限界の細さのハリス”を使う限りにおいて、尾長グレの40cm台後半クラスから上は、テクニックの要求度が特に高くなるため、間違いなく釣り味は10段階の9になる。対して口太グレの場合は、経験を積むと展開がある程度は楽になることから10段階の8としておく。
■グレの食い味■
グレの食い味は口太グレ、尾長グレそれぞれに違いがある。
口太グレの場合は産卵期がハッキリしているので、それを中心に考えると判り易い。旨いのは11月下旬~1月下旬頃までの、産卵前までのモノで、夏場は味が落ちる。よく言われる「磯臭さ」は、夏場の方が出易いのだが、これに関しては今でも僅かに感じるものの、ほとんど過去の話のように扱われている。と言うのも、釣り人が入る磯の周りにはオキアミが恒常的に撒かれており、これを主食としているので臭いが身に乗らなくなっているからだそうだ。その昔は、離島などで釣った口太グレを眼前に持ち上げただけで臭っていたと言うから、この説は当たっているのかも知れない。
産地による違いも結構あって、ボク的には五島列島や、豊後水道のモノは旨く、紀伊半島のモノはそれよりも評価が落ち、瀬戸内海産はあまり旨くないように感じる。但し、評価の下がる瀬戸内海産を除けば、マダイよりも脂の旨味が多く、味わい深い感があるため、食い味は10段階の7としておきたい。
尾長グレに関しては、実は産卵期がよく判らない。今までに釣った場所は男女群島~伊豆諸島までと、かなり広範囲で、釣った時期もまちまちなのだが、確実にこの時期に抱卵していると言い切ることができないほどにバラバラの状態なのだ。しかも、漁業の対象になりにくい魚のため、生態の全般についても学者ですらよく解っていないということらしい。
そこで、ボク自身の経験談だが、一番脂が乗っているとの印象があるのが、6月に山口県萩沖に浮かぶ見島で釣った45cm級で、これは極ウマだった。そして多くの尾長グレを釣り続けている某名人も、「45~50cmの、回遊から離れて磯周りに居着いた体色が茶色い個体が一番旨い。」と言っていたので、恐らくこの判断は間違いではないだろう。そしてそのサイズであれば、10段階の8を付けるのが適当だと思う。
因みに両魚共、刺身を始め、煮物、焼き物何でも来いだが、我が家の場合は、軽く塩こしょうを振った皮付きの身をフライパンに乗せ、酒を振りかけつつ両面を焼いた後で、ポン酢で食べるのが格別としている。
■総合評価■
釣れる時期が長く地域も広い口太グレは、全国規模の大きなモノから小売店やクラブ主催の小さなモノまで、競技会も盛んに行われているが、単一魚を狙った大会の中では、恐らく開催数は最多の部類に入ると思う。それだけこの魚の良型を揃えて釣るには”腕”が必要となる。そして、狙える箇所は減るが、より難易度の高い尾長グレの場合であれば、ななおさらのことだ。そこで評価だが、尾長グレの場合は10段階の9、口太グレの場合は10段階の7.5としておきたい。
この釣りに対し、長きにわたって真剣に取り組んだことが、頭の中にある引き出しへの情報ストック量が増えた要因であり、これがあるお陰で他の釣りに移行しても理解が早くなることに繋がっているのだと思うだけに、この釣りの奥深さがそう評価させていると理解して欲しい。
釣りには「豪快だが、大味な釣り」、「繊細だが、迫力がない釣り」等々、スタイルが色々とあるが、「繊細なテクニックで豪快に釣る魚」は少ない。その少ない中の一つがグレ釣りだと思う。それを野球で例えるのなら、釣り人は「打率3割、30本塁打、30盗塁」のバッターを相手にするピッチャーのような立場だ。そんな相手から三振を日本のプロ野球界でとった瞬間が、大型の口太グレを玉網に収めた瞬間、それをメジャーリーグ界でとった瞬間が、大型の尾長グレを玉網に収めた瞬間と言えば解ってもらえるだろうか?って、それは言い過ぎか…?。