都月満夫の絵手紙ひろば💖一語一絵💖
都月満夫の短編小説集
「出雲の神様の縁結び」
「ケンちゃんが惚れた女」
「惚れた女が死んだ夜」
「羆撃ち(くまうち)・私の爺さんの話」
「郭公の家」
「クラスメイト」
「白い女」
「逢縁機縁」
「人殺し」
「春の大雪」
「人魚を食った女」
「叫夢 -SCREAM-」
「ヤメ検弁護士」
「十八年目の恋」
「特別失踪者殺人事件」(退屈刑事2)
「ママは外国人」
「タクシーで…」(ドーナツ屋3)
「寿司屋で…」(ドーナツ屋2)
「退屈刑事(たいくつでか)」
「愛が牙を剥く」
「恋愛詐欺師」
「ドーナツ屋で…」>
「桜の木」
「潤子のパンツ」
「出産請負会社」
「闇の中」
「桜・咲爛(さくら・さくらん)」
「しあわせと云う名の猫」
「蜃気楼の時計」
「鰯雲が流れる午後」
「イヴが微笑んだ日」
「桜の花が咲いた夜」
「紅葉のように燃えた夜」
「草原の対決」【児童】
「おとうさんのただいま」【児童】
「七夕・隣の客」(第一部)
「七夕・隣の客」(第二部)
「桜の花が散った夜」
作:都月満夫
オレは、スーパーで買い物をしていた。
帰り際に隣り合わせになったご婦人。互いに目が合う。あれ…、この人…。
ワタシは、いつものように買い物をしていました。帰り際で隣り合わせになった殿方。互いに目が合いました。あら…、この人…。
「佐希子さん?」
「桜井君?」
五十を過ぎて、高校時代の彼氏と彼女が、ご対面。
「どうしてたの?佐希ちゃん。」
どっ…。どうしてたの?って…。どうしよう。いまだに私、独身なんて言えないよ。きっとサクラ、結婚してるんだろうな。
「ええ…、マア…、普通に…。」
…、普通か。どうしよう。オレは結婚も出来ない、中年オヤジ、なんて言えないよな。
「佐希ちゃん、暇?」
…。あ、余計なこと聞いちゃった。
「ええ、まあ…。」
まっ…。まずいわ、お茶でもなんて言われたらどうしよう。
…。暇なのか、誘わないとまずいよな。
「そこのドーナツ屋で、コーヒーでも…、どうかな…。」
やっ…。やっぱりきたよ。暇って言っちゃったし…。
「ええ…、そうね。ちょっとの間なら、まだ…、旦那も帰ってこないから…。」
いっ…。イヤだ。旦那だなんて…、余計なこと言っちゃった…。
「ああ、旦那さんいるんだ。そうだよね。いて当たり前だよね。」
…。いるよな…。
二人はレジ袋を下げたまま、スーパーの店内にある、ドーナツ屋に入りました。
「佐希ちゃん、何にする?」
「コーヒーでいいわよ。」
「じゃあ、オレ、買ってくる。」
どっ…。どうしよう。旦那がいるなんて言わなければよかった。サクラは、結婚…、してるんだろうな。
「ハイ、お待たせ。」
いっ…。イヤだ。私、お弁当買ってる。それも、ひとつ。バレないように…。
佐希子は、レジ袋の向きを静かに回転させた。心臓が、相手に聞こえるんじゃないか、と思うくらいの音をたてる。
「ありがとう。」
ちょっとの間…、沈黙。ズズーっと、コーヒーを啜る音がやけに大きい。
「あの…。」
「ええと…。」
同時に話し出し、また沈黙。
「佐希ちゃん、変わらないね。若くて…、結婚してるように見えないよ。」
「そお…。アリガトウ。」
やっ…。ヤッパ、バレてんのかな…。普通の奥さん、こんなに髪伸ばしてないもん。
「サクラも、若いわ。サクラこそ、独身みたい。」
…。マズい。判るのかな。どうしよう…。あっ、オレ、弁当買ってる…。
「あれれ、サクラ、お弁当買ったの?ひとつじゃない。」
…。ああ…。白状するか。
「うん、実はオレ、一人なんだ。」
「一人って…、奥さん、どこかへ出掛けているの?」
「いやあ、そうじゃなく、独身。」
「あら、別れたの…。」
「そうじゃなく、ズーッと独身。」
「え、一度も結婚していないの?」
「そう、一度も…。面目ない…。」
…。何度も確認するなよ。
「別に面目ないってことはないわよ。」
わっ…。私も見栄を張らずに、言っちゃえばよかった。でも手遅れ…。このまま、既婚者を決め込むしかないわ。そこに触れないように話をすればいいのよ。
「佐希ちゃん、結婚生活ってどうなの?」
いっ…。いきなりかよ。
「別にどうってことはないわよ。普通よ、普通。」
「普通か…。じゃあ、専業主婦なの?」
どっ…。どうしよう。そう、仕事の話に持っていけばいいのよ。
「専業主婦なんて、ご大層な身分じゃないわよ。働いてるわよ。」
「パート、してるんだ…。」
「パートじゃなくて、社員。」
しっ…。しまった。パートって言えばよかった。そのほうが主婦らしい。
「へえ…、社員なんだ。よく…、社員になれたね。」
あっ…。ああ、そうだよね。
「いや…、結婚前から、働いてるとこ…。」
「ああ、そうなんだ。どこなの?」
そっ…。そんなに突っ込むなよ。
「いいじゃない、どこだって…。」
「そりゃあ、いいけど。言ったっていいじゃないか。」
いっ…。意外としつこい…。
「プロパンガスの事業組合。」
「あれ、意外と身近だったんだ…。」
「身近って何よ。」
「オレ、北海熱供って会社。そこの石油部で経理の仕事してるんだよ。ウチにもプロパン部があるから…、知ってるよね。」
こっ…。これじゃあバレバレじゃない。
「ええ、プロパンの人は来るわよ。でも、石油部の人は関係ないわよね。」
「ああ、関係ないよ。でも、こういうことってあるんだな。こんな身近にいたのに、知らなかったなんて…。」
「ほんとね、偶然…。」
「今度、覗いてみようかな…。」
なっ…。なに言い出すのよ…。
「いいわよ、よしてよ。趣味が悪い…。」
「ウソだよ。オレだって…、何か恥ずかしいしさ…。」
よっ…。よかったわ。何とかクリア…。でも、何で恥ずかしいのよ…。
「恥ずかしいって何よ!私と知り合いがいがイヤってこと…。」
なっ…。何てこと言ってんだよ…。
「なんとなく、照れるじゃない。どんな知り合い?なんて聞かれたら…。」
「そっか、そうよね…。」
でっ…。でも、釘を刺しておかないと…。
「絶対こないでよ。私だって恥ずかしいから…。来たら絶交よ。」
「絶交って何だよ。交際してるわけでもないのに…。」
あっ…。あら、またまずいこと言っちゃった。
「違うわよ。そういう訳じゃなく。言葉の綾よ…。」
「言葉の綾で絶交はないだろう…。」
さっ…。サクラ、本当に怒ってる?
「何でそんなにむきになるのよ…。」
「別に、むきになってるわけじゃ…。」
こっ…。この人、まだ私のこと好きなのかも…。
「もしかして…、私のこと、まだ…、好きだったりして…。」
「あっ、いや…、その…、嫌いじゃないけど…。」
しっ…。しまった。なんで旦那がいるなんていったんだ…。バカだね、ワタシ…。
「好きって言われたって…。」
「えっ、なに言ってるの…。好きとは言ってないよ。嫌いじゃないって言っただけだよ…。」
なっ…。なんてこと聞いたんだ…。
「嫌いじゃないってことは、好きってことじゃないの…。」
あっ…。あいやっ…。墓穴掘ったかも…。
「佐希ちゃんこそ…、オレのこと、まだ好きだったりして…。」
うっ…。うわっ。見透かされたか…。
「ワタシだって、嫌いじゃないわよ…。変な意味じゃなくて…よ。勘違いしないで…。」
ぼっ…。墓穴深くしちゃったかも…。
「変な意味って、どういうことだよ…。」
「だから…。そのまんま…よ。勘違いされたら困るから…。」
かっ…。勘違いしてもいいのよ…。
「勘違いで、人を好きになるほど、オッチョコチョイじゃあないよ。」
…。オレ、まだ佐希ちゃんのこと、好きなのかも…。
「本気だったら、迷惑よ。」
なっ…。何で言うのよ…。心、裏腹…。
「迷惑でも…、好きって言ったら…、佐希ちゃん、どうする?」
けっ…。結構大胆なこと言ってくれるじゃない…、サクラ。
「ワタシに、不倫を迫るわけ…?」
けっ…。結婚もしてないのに、不倫はないか…。
「不倫…?そんなこと言ってない…よ。ただ、どうするって聞いただけだよ…。」
…。こいつ、慌ててるよ…。
「そんなこと…、聞かないでよ。答えようがないじゃない…、バカ。」
ばっ…。バカなんて言っちゃったよ。
「バカはないだろう…。佐希ちゃん。」
「ゴメン…。今のは、失言。」
しっ…。失言はマズイか?
「失言ってことは、思ってるってことじゃないか。撤回してくれよ…。」
そっ…。そうよね…。
「失言は、失言でした。撤回します。これでいいんでしょ…。」
なっ…。何故、こんなこと言うんだ…。
「変わらないよな…、そんなとこ…。」
けっ…。結構、許してるのか…?
「変わらなくて、悪かったわね。どうせ、進歩なしの、おバカよ…。」
ほっ…。本当だ。いつもこうやって、喧嘩ばかりしてたのよね…。懐かしいわ。この感じ…。
「バカじゃないよ。いつもこうやって、喧嘩ばかりしてたけど、たまに、凄く懐かしく思うことがあってさ…。佐希ちゃん、どうしてるのかな…って。」
そっ…。そんなこと思ってたの。なら、連絡くれればいいのに…。サクラが大学に行ってから、音信普通だったし…。あのころは、携帯もなかったし…。ワタシだって…、チョッとは気にしてたのに…。サクラの家には電話しづらいじゃない。今更って感じで…。
「そうね…。ワタシも、時々思うことがあった。サクラ、結婚して、幸せなんだろうな…、って…。」
二人の思いが、一目散に時を賭け戻る間、ちょっとした沈黙があった。
「…、でもサクラ、結婚してなかったんだよね。何かホッとした。」
ほっ…。ホッとしたって何だよ…。
「オレも、佐希ちゃん、若くて、綺麗で、怒りっぽくて、すぐムキになって…、あの頃と同じだな…って、安心した。」
すっ…。スルーしてくれたよ。
「そっかー、同じだね。」
「コーヒー、お代りしようか?」
「うん。」
佐希子は、旦那がいるといったことなど、忘れていた。
「オレさ、家を持ってるんだ。自分の家。一人暮らしが侘しくて、家を建てて、庭を造って…。家の前に小川が流れててさ、いいところなんだ。」
なっ…。なに、こいつ、ワタシに何が言いたいの?
「家建てて、一人で住んでるなんて、尚更侘しくない?好きな人…、いなかったの?」
「うん、仕事が忙しくてさ…。そんな暇なかった。でも…、暇は作るもんだよな。今頃気づいても遅いか…。」
「遅いってことはないんじゃない。これからってことだって…。何が起こるかわかんないよ…。」
なっ…。何で励ましてんだろう。
「そういってくれるのは、佐希ちゃんだけだよ。オレ、ただのオジサンだし…。」
「そんなことないって…、まだまだいけるよ。ガンバンなよ、サクラ…。」
「会社では、若い子に結構人気があるけどさ…。それは、オジサンとしての人気であって、男性としての人気ではない…、ってことぐらい、自分で分かってるよ…。」
なっ…。なんだ、サクラ。急にショボクレてきたよ。
「サクラ…、何だよ、そんなにショボクレて…。そんなサクラ、嫌いだよ。」
「えっ、じゃあ、やっぱり、もしかして、オレのこと好きだった?」
「うん、好きだったよ。ずっとね。でもさ…、好きだってことだけじゃ、どうにもならないんだよね。好きだっていう言葉の空間を飛び越えなきゃ、それだけ…、なんだよ…。」
「そうだな、そうなんだよ。その空間は、いつも、こんなに近かったのに…。近すぎて見えなかったんだよ…。オレたち。」
二人は、互いの胸に湧き上がる想いを沈めるように、押し黙ってしまった。
このまま別れたくない。二人はそう思っていた。しかし、今更、そう今更なんだと、互いに思っていた。今更…。
「サクラ…、今度、サクラの家、見にいってもいいかな…?」
いっ…。言っちゃったよ。
「いいよ。佐希ちゃんなら、大歓迎だよ。いいとこだよ。毎日野鳥は来るし、家の前の小川には、虹鱒が泳いでいる。周囲も、結構緑が多いし、庭には、オレが作ったガーデンテーブルとベンチがある。天気のいい日は、そこに座ってコーヒーなんか飲んでさ…。」
「それって、よさそうだね。でも、そのコーヒーは、インスタントじゃダメだよ。サクラが、ドリップしてくれたやつでなきゃ…。」
「そりゃ…、そうだよ。美味いぜ、オレの落としたコーヒー。病み付きになるけどいいのかな…。」
「いいよ…。病み付きになってやるよ。本当に美味しいならだけど…。」
まっ…。また言ってるよ。素直になれ、佐希子…。
「美味しいさ…。美味しいに決まってるじゃない…。オレが佐希ちゃんのために落とすコーヒーが、不味いわけがないだろう…。」
「じゃあ、今度暇なとき、行ってやるよ。なかなか暇がないけどさ…。」
「いいよ…。佐希ちゃんの暇なときで…。」
「彼女の一人も作れないオヤジだけど、ワタシが相手になってあげますよ。言っとくけどね、なってあげるってとこ…、忘れないでよ。分かった…。」
「分かってるよ…。」
二人が高校生のような会話を始めてから、一時間が経過していた。
佐希子は、自分が結婚していると嘘を言ったことなど、完全に忘れていた。
「佐希ちゃん、そろそろ…、帰ろうか…。」
「えっ、いやだ。もうこんな時間…。」
「そろそろ…、帰ってくるんじゃないの。」
「誰?あ、ええ、そうよ、旦那がいたんだ…、ワタシ。どうしよう。」
「いいよ、佐希ちゃん。旦那なんかいないんだろ?分かってるよ。」
「何いってるのよ…。」
「旦那さんがいる人が、お弁当ひとつ買わないよ。今度、ご飯…、食べに行こうか。」
今朝は昨日に引き続き青空です。長雨の影響で咲き遅れていた水仙が花をつけました。
今日は朝撮りの「白水仙」を紹介しましょう。
水仙 (すいせん)
・彼岸花(ひがんばな)科。
・学名 Narcissus tazetta var. chinensis
(日本水仙)
Narcissus : スイセン属
tazetta : 小さいコーヒー茶碗 (イタリア語)
chinensis : 中国の
Narcissus(ナルキッサス、ナルシサス)はギリシャ神話の美少年の名前にちなむ。
・ 開花時期は、12/15頃~翌4/20頃。
・ 早咲きものは正月前にはすでに咲き出している(「日本水仙」「房咲き水仙」などの
早咲き系は12月から2月頃に開花)。
3月中旬頃から咲き出すものは花がひとまわり大きいものが多い。
(「ラッパ水仙」や「口紅水仙」などの遅咲き系は、3月から4月頃に開花)
・地中海沿岸原産。平安末期に中国から渡来。
したっけ。