年寄りの漬物歴史散歩

 東京つけもの史 政治経済に翻弄される
漬物という食品につながるエピソ-ド

べったら市 昭和10年

2006年10月16日 | べったら市
昭和10年11月16日朝日新聞
浅づけの季節(ベッタラ漬)にまた出るサッカリン問題
果たして害になるかならぬか最後的断定なる。
今は浅漬の季節であるが浅漬のあの甘味は無論多量の白砂糖を使って出さねばならない物である。ところが不正商人は砂糖が高くて使えないのでサッカリンを使用する。砂糖とサッカリン使用のものとでは無論舌触りが違うはずだが、しかし素人にはそれが容易に鑑別できない。ではその不正を見破るにはどうすれば良いのか、またサッカリン使用のものを食べたらマズイばかりでなく、人体にどんな差し障りがあるのか権威者の話を聞く。
 サッカリンは人工甘味料の代表的なものであってその甘味は砂糖の約300倍位であるという。しかも値段も安いのでしばしば使用され、内務省による禁止条項は殆ど有名無実の観を呈している。
 しからば実際問題としてサッカリンは衛生上一体有害でないのかどうか、これは久しく論議が戦われ、研究報道も枚挙にいとまない程あるがその内これを有害であると断定する者はサッカリンが防腐作用を有すると共に消化酵素に対して抑制的に働き,従って食物の消化吸収を妨げ、かつ局所に刺激作用を起こし、ひいては下痢等を招くという。ところが一方サッカリンその物の栄養価はないとしてもおそるに足らぬとされる。という見解をしている学者もある。そこで内務省令があっても官が迷う始末となっている。ところがこの二説の対立が社会に及ぼす影響を考えるとこのまま放任しておく訳にも行かない。
 そこで内務省衛生試験所では諸権威を動員して最後的断定を試みたのである。その主目的は単に一時的にサッカリンを用いる場合の毒作用についてのみだけだなく、それを人工甘味料として連続的に使用した場合も果たして慢性中毒を起こすかどうか。つまり今日、実際に使用されてる濃さの範囲の千倍から一万倍の濃度で使用された場合、わが国民の保健上有害であるかどうか決定することを目的としたのである。
それにはまずわが国において砂糖の消費が全部サッカリンによって置き換えられた場合を想像する必要がある。すなわち農林省農務局の調査によると大正14年から昭和2年の3ヵ年の内地及び樺太における年一人の砂糖の消費量は平均12.468kgで毎日35g舐めていることになる。これを全部サッカリンに置き換えると人は一体どの位の量になるかというと毎日0.12g弱で人体の平均体重を50kgと仮定すると体重1kgあたり0.0025g弱に相当する。それ故この理に従って試験動物に毎日食物と同時に投与した時いかなる結果と出るだろうか。
これはわが国の保健衛生上すべからく大事であるばかりでなく学問上から見ても興味深い問題であるといわねばならぬ。
その結果トノサマカエル
 このカエル対して致死量は体重1kgあたり10g
 ネズミの致死量は体重1kgあたり皮下注射では8g、静脈注射では3g
家兎では致死量は体重1kgあたり口から入れた時は8g、静脈注射では4gで致死量となる。
続く
実験動物としてトノサマカエルが使用されている。この頃は満州事変後の戦争の拡大で砂糖が不足になりつつあった状況だった。サッカリンが安全かどうかなんて科学的データの解釈が時代によって変わること。
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