年寄りの漬物歴史散歩

 東京つけもの史 政治経済に翻弄される
漬物という食品につながるエピソ-ド

たくわんとサッカリン

2006年10月17日 | タクワン
昭和10年11月18日朝日新聞
たくわんとサッカリン
今の程度なら食べても心配なく、ただし業者から目を離すな
前述したのは急性中毒を起こす極量を定めるため作為的に行った実験であるが、これに反して希釈溶液による慢性中毒の方はどうのと言えば、家兎に毎日0.12g与えたのはかえって好影響を示すのではないかと疑う位であって、試験中では生活状態はなんら通常と異なるところなく、91日目に解剖したところ内臓の臓器に全く異常がなかった。
 つまりサッカリンは前記程度の濃度で連日与えても慢性中毒を起こす懸念がない訳である。
 またサッカリンは消化酵素に抑圧的に作用する説を確かめるために、ジアステーゼ・ペプシン・パンクレアチン等の消化器官中に存する諸種の酵素に対して実験してみたところが0.1%以下の濃度では全く影響は認められていないのである。
 以上の諸種の結果は、これを要するにサッカリンはその毒性が弱いものであっても,濃厚液の場合においても局所を刺激する性を現すものであるから、その使用濃度を注意さえすればよいと言う結論に達するのである。
 それは今日各家庭における実際問題として市場で販売されている沢庵漬や奈良漬は果たして毎日食用に供していても慢性中毒を起こす恐れがないのかというのかどうか、これは我々の日常生活と切り離すことの出来ない重大事であって、この点を明確にしておかねば気苦労で消化器系に及ぼす精神作用からして確かに悪影響を与える恐れがある。
 ところで我々の舌はサッカリンに対してどの位の判別があるか先ず試験してみることにする。
 これを試験するには食塩とサッカリンと色々な割合の濃度に調合してなめてみてその甘味濃度と実際沢庵を絞って出た液の甘味と比較してみるのである。
 この実験は我々が心配するほど不正確なものでなく実際定量分析した結果と照合してもまずたいした誤りがないのである。例えば食塩1%の溶液に一万分の一のサッカリンを混和しても舌頭試験をしてみると即時には甘味を感じないがしばらくするとこれを感じるのである。それ故これと同じ舌感覚が沢庵漬の搾り汁にあれば一万分の一程度のサッカリンが含まれていると見てよい。
 ところで我々が食膳のだす沢庵漬の輪切り一片は一体どのくらいかをいうと重量が約14g大きさは直径5.1cm厚さ0.4cm。しかもこれを上記の味覚試験で試してみると製造所によって多少は違うが大体五千分の一程度に含まれているのがわかる。
 この事実から逆に勘定すると4斗樽一本中に(大根が20貫目入っているとして・約75kg)サッカリンは15g(4匁)である計算となる。それ故我々が毎日前記の大きさの沢庵漬を五片食用に供すると毎日服用されるサッカリンの量は0.21gとなる。
 これを人体1kgに対する値に換算すると0.0042g。ところが家兎の致死量は前にも述べた如く1kg当たり8gであるから勿論急性中毒は問題ではない。また慢性中毒の方といえば家兎の体重は大抵2kgないし2.5kgであってそれが前の実験では毎日12gのサッカリンを与えても慢性中毒を起こさなかった。つまりkgあたり0.05g与えても大丈夫だというのであるから人間の0.004gは先ず心配ない。仮に一日15片食膳にのせたところで0.012gなるに過ぎないのでのだから沢庵漬も製造者が現在程度にサッカリンを使用しているとすれば口を大きくしてこれを食用に供しても、決して心配無用ということになる。但し、内務省令は依然として設けておかねばならぬ。それはある製造者の如く往々多量のサッカリンを使用するものがある恐れのある場合、十分に怠ってはならないのである。

解説
なぜ、多量のサッカリンを使用するのかといえば急に生大根を製品にすると浸透力の具合でサッカリンの濃い部分が偏り違反となるのだろう。
 戦前はサッカリンの危険性は慢性中毒を心配していたようで消化器系統を検査していた。戦後は膀胱ガンの疑いで一時禁止され、今では使用制限して食品に用いられるのが世界の流れである。それは糖分を制限している人に適当な人工甘味料がないためと思われる。
『たくわんとサッカリン 今の程度なら食べても心配なく、ただし業者から目を離すな』のタイトルにはまいったな。いまでも新聞の人たちは色眼鏡で漬物業者を見ている気がする。ふるさとの味・おふくろの味という先入観で業者の作ったものは添加物だらけという考えが感じられる。当時は家庭でのサッカリン使用は合法使用であった。
コメント
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