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透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

オマージュ

2008-06-15 | D 建築を観察する 建築を学ぶ 建築を考える


『磯崎新の「都庁」』より以下同じ

 『磯崎新の「都庁」』平松剛/文藝春秋にはこんな話が出てきます。

横浜港国際客船ターミナル(横浜大桟橋)国際コンペの審査員の磯崎さんは同じく審査員としてオランダからやってきたレム・コールハースと東京駅で落ち合い車で一緒に横浜に向かったそうです(1995年のことでした)。余談ですが横浜大桟橋は私も見学に出かけたことがありました。

コールハースは途中で工事中のある建築を目にして磯崎さんに言ったそうです。「おい、磯崎、あそこに君の都庁が建ってるじゃないか。コンペには負けたんじゃなかったのかい?」磯崎さんは「え?・・・・ああ・・・・・いや、違うんだ。あれは丹下さんの仕事なんだよ(笑)」(会話の部分は本書より引用しました)

上の断面図は磯崎さんの新都庁舎案ですが、立体フレームに球体が載っています。球体の材質はチタンだと本文に出てきます。これとよく似たビルで丹下さんの設計といえば・・・。そうお台場にあるフジテレビ本社ビルですね。建築に詳しくない方でもピンときたでしょう。テレビにも時々登場しますから。

コールハースは丹下さんの設計であることをちゃんと知っていて磯崎さんをからかったのかも知れないと平松さんは書いています。

ところで磯崎さんが丹下研に入った当初、旧都庁第一庁舎がちょうど建設工事中だったそうです。磯崎さんは旧都庁第一庁舎は日本の1950年代の建築の代表作だと思っているそうですが、磯崎さんの新庁舎低層案のプロポーションはこの旧都庁第一舎によく似ています。


丹下さんの旧庁舎


磯崎さんの新庁舎立面図

磯崎さんの新都庁舎案は丹下さんの旧都庁舎へのオマージュだった・・・。そしてそのことに気が付いた丹下さんがフジテレビ本社ビルで磯崎さんに応えた・・・。

こんなふうに想像して眉唾な説をもっともらしく語るって楽しいです。 


 


東京都新庁舎建設の影で

2008-06-15 | D 建築を観察する 建築を学ぶ 建築を考える



 この本には完成した新庁舎の詳細な紹介の他にコンペ関係者の座談会(磯崎さんや審査員のひとり菊竹さんも参加しています)、丹下さんへのインタビュー記事、評論などが掲載されていてなかなか充実しています。「日経アーキテクチュア」も常にもう少し内容が充実しているといいんですけどね。

工藤国雄氏は「世界は今何時か」と題する評論で「丹下健三」は氏にとってミケランジェロであり、コルビュジエであり、日本でただ一人の“The”アーキテクトでさえあった、と断った上でイデオロギー的に低層案の磯崎に負けているとし、**テレコミュニケーションの発達している今日、中規模都市の人口に匹敵する都の職員が、このように過度に「一点」に集中する必要はない。**と指摘し、新庁舎をまるで時代錯誤の江戸城ではないかと手厳しく批判しています。

都知事を頂点とする官僚的なツリー状の組織を可視化するというのはコンペの暗黙の了解事項だったのかも知れません。

工藤氏は旧都庁舎の取り壊し問題についても触れて、**いかなる事情にせよ、いかなる分別にせよ、いかなる政治にせよ、これは許されるべきではない。**と書き、**あれはもはや丹下個人の作品ではない。かけがえのない日本の歴史的風景なのだ。(中略)我々戦後を駆け抜けた「民主主義の世代」が、記憶を失い、風景を失い、文化を失うのだ。(後略)**とまで書いています。