透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「維新革命」への道

2018-12-02 | A 読書日記



 『「維新革命」への道 「文明」を求めた十九世紀日本』苅部 直/新潮選書を読み始める。

この本のことは毎日新聞(2017年6月25日付)の読書欄「今週の本棚」で知った。三浦雅士さんがこの本を**近代西洋思想に共感できる下地があった**というタイトルで紹介していて、**西洋との出会いがなければ、日本列島住民は自ら西洋を作ったに違いないと思わせるからだ。**と結んでいる。

この書評を読んで夏目漱石の『私の個人主義』に収録されている「現代日本の開化」という講演録のことが浮かんだ。記憶が定かではないが、高校の国語の教科書にも載っていたような気がする。漱石は講演の中で、日本の文明開化を外発的と評していたように記憶している。自然に開く花のようにではなく、外からの力によって無理やり開かされたのが日本の文明開化だ、といった内容だったように思う(違っているかな)。この本は手元にあるから、読み直してみればはっきりするが・・・。私も同様の認識だ。

これから読む『「維新革命」への道』は漱石の批評とは逆の「内発的」だったというような内容ではないのかな。




早いものでもう師走。年越し本はどんな本になるだろう・・・。

 


ブックレビュー 1811

2018-12-02 | A ブックレビュー

 

■ 自分の読書歴をさらすなんて裸を見せるよりイヤ、という知人もいるが私は気にしない。注意深く確認すれば、読書傾向が分かるかもしれないが、それでもかまわない。

先月読んだ本は次の4冊。

『戦後と災害の間 溶融するメディアと社会』吉見俊哉/集英社新書

『情報生産者になる』上野千鶴子/ちくま新書
上野式研究及び論文作成指導マニュアル公開

『四人組がいた。』高村 薫/文春文庫
帯には**現代日本が抱える矛盾をブラックな笑いであぶりだす怪作。**とある。この作家の作品のトーンは暗い。読了後、例えば有吉佐和子や山崎豊子のように、この国が抱える様々な問題に真正面から取り組んで欲しい、と思った。いや、おそらく高村さんもそのつもりだろう。これは気楽に書いた作品なのかもしれない。遠藤周作や、北 杜夫だって、そうしていた。

『草枕』夏目漱石/新潮文庫
巻末に柄谷行人の「『草枕』について」と題する解説文が載っているが、その中に**われわれはたんに『草枕』の多彩に織られた文章のなかを流れて行けばよい。立ちどまって、それらの言葉が指示する物や意味を探すべきではない。**という件がある。なるほど、確かに。明治の知識人を代表する漱石の「教養」に圧倒されながら、『吾輩は猫である』と同様に物語性の乏しい文章を読み進むことそのものを楽しんだ。


 


建築に秩序を与える方法

2018-12-02 | A あれこれ


富山県美術館 撮影日181201

















TOYAMAキラリ 撮影日181201





「富山県美術館」と「TOYAMAキラリ」

■ TOYAMAキラリの外装は御影石、ガラス、アルミ。異なる素材のランダムな組み合わせによるデザイン。富山美術館にもガラスとアルミが使われているが、両建築の外観デザインは全く違う。

建築をシンプルな幾何学的形態で構成し、その構成要素も同じものを規則的に繰り返す(私はこのことを「繰り返しの美学」と捉え、このブログでも取り上げてきた)。これは近代建築の生産の工業化に伴う合理性に裏付けられた原理でもある。内藤 廣さん設計の富山県美術館はこのような方法で秩序づけられた建築だ。端正で美しく、身を置いていても落ち着く。

隈 研吾さんのTOYAMAキラリはこのような方法によって秩序づけられてはいない。2階から6階まで、斜めに伸びた吹き抜けを見上げていても、そこに空間を構成する幾何学的で単純なルールを見い出せない。隈さんは地元富山県産の杉材のルーバーを繰り返し繰り返し使うことで空間に秩序を与えている。ただし、ルーバーはそれぞれ幅も違うし取り付け角度も違う。

ここ何年かTOYAMAキラリで採られたこのような方法で構成された建築が出現するようになった。今後、このような建築がますます増えるだろう。単純な幾何学的ルールによる秩序付けではなく、絞り込んだ材料の繰り返し使用など、他の方法による秩序付け。

これから出現してくる様々な建築の読み解き、解釈の試みを続けよう・・・。