「春寒し 猫いっぴきの 通学路」
「猫の子一匹いない」という諺を巧みに利用。否定を
肯定に変え諧謔性を加味。聞き覚えのある諺なので惹
きこまれ詠んでしまいます。当句は人影のない通学路。
コロナ禍による休校を詠んだものと思われます。しか
し、数年後、この句を詠んだら作者の真意が伝わるだ
ろうかという疑問が頭を離れません。また、時事に捉
われなければ、荷風のように洒脱で奥行きのある句に
なった気もします。<下記参照>
いまや犬より猫が多い日本。しかし縄文時代から飼わ
れていた犬と比べ、古事記や日本書記に猫の記述はあ
りません。その後、奈良時代に貴重な経典を鼠から守
るため中国より輸入。長い間、猫は愛玩動物ではなく
鼠を捕まえるハンターでした。猫がいまのようにのん
びりできるのは江戸時代になってからのようです。
俳句における猫の存在はきわめて重要。猫の恋、うか
れ猫、猫の妻、猫の夫、はらみ猫、猫の子、子猫。こ
れらはすべて春の季語。かまど猫、へっつい猫、灰猫、
かじけ猫、こたつ猫は冬の季語。犬と比べさまざまな
顔を持つ猫。漱石と子規は親友。漱石が犬ではなく猫
を選んだのも必然かもしれません。
「色町や 真昼しづかに 猫の恋」<永井荷風>
遅足氏の代筆にて駄文お許し願います<殿>