「新聞紙の詩」
けふ此頃の新聞紙をみろ
此の血みどろの活字をみろ
目をみひらいて讀め
これが世界の現象である
全世界を手にとるやうにみせる一枚の新聞紙
その隅から隅まで目をとほせ
活字の下をほじくつてみろ
その何處かに赭土の痩せた穀物畠はないか注意せよ
そしてその畝畝の間にしのびかくれて
世界のことなどは何も知らず
よしんばこれが人間の終焉であればとて
貧しい農夫はわれと妻子のくふ穀物を作らねばならない
そこに殘つた原始の時代
そこから再び世界は息をふきかへすのだ
此の黄金色した幻想に實のる希望よ
山村暮鳥「新聞紙の詩」は1918年に刊行された詩集
「風は草木にささやいた」に収められています。この
年、スペイン風邪が世界的流行となり日本における感
染者数2,380万人、死者は38万人。そして102年とい
う時を経て新型コロナウイルス感染症の爆発的感染。
暮鳥「血みどろの活字」が再び紙面を襲います。<殿>