日本男道記

ある日本男子の生き様

磯部の白波 1

2024年11月26日 | 土佐日記


【原文】 
二十一日。卯の時ばかりに船出だす。
みな、人々の船出づ。これを見れば、春の海に、秋の木の葉しも散れるやうにぞありける。おぼろけの願によりてにやあらむ、風も吹かず、よき日出で来て、漕ぎ行く。
このあひだに、使はれむとて、つきて来る童)あり。それがうたう舟唄、
なほこそ国の方は見やらるれ、わが父母ありとし思へばかへらやとうたふぞ、あはれなる。

【現代語訳
二十一日。朝の6時ごろに船を出す。
みんな、ほかの人々が乗る船も出航する。これを見ると、まるで春の海に秋の木の葉が散ったようである。格別な願掛けのせいだろうか、風も吹かず、良い日和になって、漕いで行く。
このとき、私たちに使ってもらおうとしてついてくる子供がいた。その子が詠う舟唄は、
なほこそ国…
(やっぱり国のある方角を遠くに眺めてしまう。自分の父母がいると思えばさ。帰ろうよ。)
と詠うのが、しみじみと心を打つ。


◆『土佐日記』(とさにっき)は、平安時代に成立した日本最古の日記文学のひとつ。紀貫之が土佐国から京に帰る最中に起きた出来事を諧謔を交えて綴った内容を持つ。成立時期は未詳だが、承平5年(934年)後半といわれる。古くは『土左日記』と表記され、「とさの日記」と読んだ。 

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