ぐいぐいと引張っていくドラマ作りは骨格がしっかりしていました。これぞ映画館で見る映画だというほんまもんの映画でした。 好きな女優が三人出ているのと、原作が松本清張だという理由でこの映画を見に行きました。 女優3人とは広末涼子、中谷美紀、木村多江のことです。「おくり人」の広末涼子、「嫌われ松子の一生」と「白洲次郎」の中谷美紀、
「上海タイフーン」の木村多江。それぞれが今、旬の役者さんばかりで、3人それぞれがその個性をだして役割をリアルに演じていました。 この映画は太平洋戦争の結果、突然社会の下層に落とされた それまでは普通に暮らしていた生活者と、そこにからむ新婚夫婦の突然の暗転を描いた映画です。 結婚した夫がどんな人間か殆ど知ることがないまま、夫が失踪する。夫の過去を以前の任地である金沢に訪ねるしかない新妻。ある意味推理小説仕立てですが、それは本題ではありません。 松本清張と太宰治。一人の人気作家が心中で死んだ頃、もう一人は全く無名の小説家志望者でした。その二人が共に今年生誕100年だそうです。 二人の生まれ育ちは両極端というほど違いますが、二人が生み出した作品は今も沢山の読者に読まれている。凄いことだと思います。 三島由紀夫が編集委員の一員で発行されたある日本現代文学全集。三島由紀夫が一人がんとして松本清張の作品を全集に入れることを反対して清張は外されたそうです。 この『ゼロの焦点』という原作は読んでいませんが、小説が取り上げた人間とその人生は、この映画を見る限り三島の審美眼、彼の生きた世界とあまりに違いすぎて、 三島にとってはおぞましく見たくもない日本人たちだろうと思います。
そのぶん、私には松本清張にとっては書かずにはおれなかった 彼が生きた時代の歴史の証言、あるいはその時代を生きた自分の仲間たちへのレクイエムのような気がしました。 冬の能登半島の荒涼とした風景や金沢の町並みはCGも使われているのかもしれませんが、エンドクレジットで韓国Unitの多くのキャストの名前が流れ、 ああ韓国でロケした場面が多いのだと知りました。 主役は広末涼子ではなく、実際は中谷美紀だと思いましたが、いずれにせよ木村多江と三人三様、 プロの女優が互いに火花を散らして演じるのを見せてもらいました。 引き込まれて見終わりましたが、なぜ耐火煉瓦会社(中谷美紀役の夫)の社長が自殺したのかは、 自分には唐突でした。しかしよく出来た脚本のわずかなこのキズは、この映画全体の価値を貶めるものではありません。 それにしてもラストの「オンリーユー」の曲の使い方を見ても、この監督の遊び心があちこちにあるのがわかり、この映画も海外マーケットを視野に入れているのだろうと思いました。 キャストとスタッフが力をあわせ、今年発表された日本映画のラインアップの中でも上位にいく映画を作り上げた。秀作だと思いました。 本稿は Yahoo 映画レビュー欄に掲載clickされた。 |
2009年11月20日(金)「阿智胡地亭の非日乗」掲載
最新の画像[もっと見る]
- 旧中川の遊歩道 9月のいつもの定点観測地点は真夏日で人は誰もいなかった。健康麻雀を楽しんだ後に。 16時間前
- 旧中川の遊歩道 9月のいつもの定点観測地点は真夏日で人は誰もいなかった。健康麻雀を楽しんだ後に。 16時間前
- 新小岩の韓国料理店「キュンちゃん」の明太子豆腐チゲが格別に旨かった。 2日前
- 新小岩の韓国料理店「キュンちゃん」の明太子豆腐チゲが格別に旨かった。 2日前
- 新小岩の韓国料理店「キュンちゃん」の明太子豆腐チゲが格別に旨かった。 2日前
- ムラサキ山芋のツルに新しいムカゴがいくつも 月下美人に新しい花芽 が出てきた。 2日前
- ムラサキ山芋のツルに新しいムカゴがいくつも 月下美人に新しい花芽 が出てきた。 2日前
- ムラサキ山芋のツルに新しいムカゴがいくつも 月下美人に新しい花芽 が出てきた。 2日前
- ムラサキ山芋のツルに新しいムカゴがいくつも 月下美人に新しい花芽 が出てきた。 2日前
- ムラサキ山芋のツルに新しいムカゴがいくつも 月下美人に新しい花芽 が出てきた。 2日前
「「過去の非日乗&Shot日乗」リターンズ」カテゴリの最新記事
- 庭をイタチが走った! YouTube 2016年4月20日掲載
- 神戸市東灘区から 兵庫県の室津を訪ねた 2002年3月 日本...
- 長崎「焼き場の少年」広がる共感 原爆「悲しみ」を発信 [長崎県]、西日本新聞。...
- 長崎原爆の爪痕を残していた浦上天主堂。 解体されてしまった理由は?
- 天皇陛下が靖国参拝を中止されるようになった理由は? 富田メモ ...
- 神戸市東灘区から兵庫県揖保郡の「綾部山の梅林」を見に行った。 2002年...
- 「戦争とマスコミ」 「ジャーナリズム」の本質
- 松坂選手の会見に見る、日本とアメリカのスポーツ記者の質問の仕方の真逆 ...
- 大阪・九条の茨住吉神社の祭礼で、獅子舞が「伍久楽」にご祝儀躍り込み!! ...
- 北山杉と聖者が街にやってくる。その2 2002年8月 日本あち...
とても素敵なカット写真を見て映画を思い出しております。
貴兄の解説も興味深く拝読いたしました。
松本清張と太宰治の二人が生誕100年だったんですか!
知りませんでした。
実に対照的ですね。
>なぜ耐火煉瓦会社(中谷美紀役の夫)の社長が自殺したのかは、自分には唐突でした。
これは私も分かりませんでした。
本を読んだら答えが載っているかも知れませんね。
>三島由紀夫が一人がんとして松本清張の作品を全集に入れることを反対して清張は外されたそうです。
私は、この作品は社会小説的な背景はありますが、松本清張は推理小説家であり、映画もミステリーだと思います。
三島は「純文学ではない」と言いたかったんですかね?
いや、三女優の共演は豪華な気がしました。
私は「おくり人」も観ましたが、年齢なのかキャリアなのか中谷美紀、木村多江の方が、広末涼子よりランクは上に勝手に思っています。
この映画では広末涼子が主演だとは思いますが・・・。
なんだか1961年の野村芳太郎版も観たくなってきましたね(笑)
有難うございます。