後刻か後日にといって、そのままになっていたYouTube - Broadcast Yourselfの動画の感想。バッハ以外の曲を、演奏家中心にいろいろ楽しみましたが、そのなかで気になったのが、カウンターテナーのフィリップ・ジャルスキー Philippe Jaroussky (EMI Classics - Philippe Jaroussky - Biography)です。
カウンターテナー好きということもあって、ジャルスキーについては、デビュー後、早い時期から知っていましたが、気になったのは、「Philippe Jaroussky」とか「Jaroussky」で検索すると、動画がざくざく(もっとも同一のものも多々)というほど人気が高いこと。まだ、デビューして10年なのに。
そんな多数の動画のなかで、「Philippe Jaroussky」での検索トップにある「Philippe Jaroussky - Vivaldi aria」は、ヴィヴァルディのオペラ「ジュスティーノ(ユスティヌス) Il Giustino」からのアリア。すなわち、ビサンチン帝国皇帝アナスタジオのアリア「この喜びをもって会おう Vedrò con mio diletto」です。
このアリアはいろいろなコンサートなどで歌っているのでしょう、驚くことに4種類の動画がアップロードされています。声域的にもあうということもあるのでしょうが、「この喜びをもって会おう」は、ジャルスキーの、いわゆる「手荷物アリア arie di bagaglio 」といったところです。
以下に、4種の「この喜びをもって会おう」を撮影順に並べてみました。ただし、日付はまちがっているかもしれません。なお、「Philippe Jaroussky, Vivaldi, Vedro con mio diletto」は、オフィシャルな撮影ではないようで、画も音もいまいちです。
オーケストラは、すべてスピノジ指揮のアンサンブル・マテウスですが、ジャルスキーの歌唱、どれをきいても、艶のある美声で、ほぼ技巧的にも、芸術的にも完成されていて、すばらしいものだと思います。人気の一因には、若くてイケメンということもあるでしょうが、この歌唱ならば、人気もとうぜんでしょう。
ところで、ジャルスキーでヴィヴァルディの声楽作品、とりわけオペラをききはじたかたには、ぜひほかの演奏でもきいてほしいと思います。たとえば、イタリアの歌手ソニア・プリナ(Sonia Prina - Official Website)、アントニーニ指揮、イル・ジャルディーノ・アルモニコの「この喜びをもって会おう」は、またちがった魅力があります。
プリナは、容姿的には背が低いこともあり、英雄としての舞台ばえはしませんが、ジャルスキーとくらべ、はるかに野太い声(ほめことば)で、よりヒロイックな雰囲気があります。ダ・カーポ後の「Vedrò con mio diletto」の装飾では、高低それぞれで、両者の特長がでています。
ジャルスキーの歌唱は、プリナとくらべると、線がやや細い感じで、「ジュスティーノ」であれば、タイトル・ロールである、若いジュスティーノのほうがふさわしく感じます。もっとも、コンサート・ピースとしては、これはこれですばらしい歌唱です(それにアリアそのものが美しい)。
ジャルスキーの繊細さゆえに、スピノジのあの指揮とも、たがいにうまく補完しあえているのでしょう。スピノジは、イマジネーション豊かな解釈で、繊細かつ、力強くゴリゴリと演奏しています。過ぎたるはなんとか、といえるかもしれませんが、それがスピンジの特長で、おもしろいところ。
ついでに、ジャルスキーとプリナをききくらべるのにおもしろそうなアリアを紹介しておきます。やはり、ヴィヴァルディのオペラ「オルランド・フリオーソ(怒れるオルランド) Orlando furioso」から、オルランドのアリア「深い闇の世界へ Nel profondo」です。ついでのついでに、マリ=ニコル・レミュー と、マリリン・ホーンの勇姿もくわえておきます。