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『 市塵 』  藤沢 周平 (著)

2010年12月16日 | 本と雑誌

101216_book_shijin 市塵 しじん[単行本]  藤沢 周平 (著)

単行本: 409ページ
出版社: 講談社 (1989/05)

発売日: 1989/05

=====江戸中期、6代将軍家宣・7代家継の治世のいわゆる「正徳の治」の新井白石を描いた作品 歴史小説

5代将軍綱吉と8代将軍吉宗の間の時代

上下巻の文庫本でなく、一冊の分厚い単行本で読んでいると、専門の歴史書を読んでいるようだった。が、しかし、そこにはそれとは別に読者を最後までひきつけている淡い一本の糸があった。それは新井白石の弟子の一人、伊野佐一郎と申すもの。明るすぎる性格のせいか、学問の上で弟弟子に遅れをとり、あろうことか仕事上で知り合った町屋の亭主持ちの女と・・・。

権力の中枢に登りつめ、守旧派との権力闘争のなか、5代綱吉時代の生類憐れみの令の廃止や、国の威信のための朝鮮使節の待遇変更、通貨の改革、外国貿易の改善など、幕政改革(なんと現在の政治状況と似ていることか)を推し進める白石の仕事が緻密な歴史的事実の描写とともに重い展開で描かれる。その合間に、佐一郎と女のゆくえは、忘れた頃に簡単に触れられるだけだが、このさらりとした展開の描写もまた気にかかる。

白石の行なった文治主義とよばれる諸改革は、8代吉宗の享保の改革により相当部分が修正される。

そして権力の座を明け渡したあとの年老いた白石は佐一郎の現状を知る。そこでも佐一郎のことは多くは語られない。しかし、そこで市塵( しじん)というタイトルの意味を考えたとき、藤沢 周平がなぜ権力の中枢にいた新井白石を描いたのか、白石のどこに共感をおぼえたのか、しみじみと考えさせられた。なるほど、ひとかたならぬ力作にござりまする。

屋久島に着いたイタリア人シドッチの取調べのなかで白石が西洋の科学知識を吸収していく様子やキリスト教に対する白石の考え方などが興味深い。また白石は、朝鮮使節の待遇変更を推し進)めるなかで、江戸上りの琉球使節や薩摩藩士から得た情報を活用したりし、小説の最後には「南島志」(1719年(享保4)を書き進める白石のすがたも描かれている。

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新装版 市塵(上) (講談社文庫) 新装版 市塵(上) (講談社文庫)
価格:¥ 600(税込)
発売日:2005-05-13

新装版 市塵(下) (講談社文庫) 新装版 市塵(下) (講談社文庫)
価格:¥ 600(税込)
発売日:2005-05-13

南島志―現代語訳 (琉球弧叢書 (2))
価格:¥ 4,893(税込)
発売日:1996-05