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ゴンドラから降り外に出ると、きりっとした冷たさが、僅かに出ている鼻先に来る。
麓との気温の違いを実感する。
3コースのうち初心者コースを選んで滑り出す。暫くぶりなので、「怖いなあ」という気持ちが先に立って、緩斜面を選びながら、感覚を取り戻そうと体重の移動や、沈み込みの練習をしながらゆっくり滑る。
幸いコースが空いているので貸しきり状態がありがたい。
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少し慣れた所でほっと一息。辺りの景色に目を移す。
スキーをしたいというよりも、こんな雪の中に自分を置きたかったのだと、木々に被さる雪や、枝先の霧氷の美しさが嬉しい。
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真っ青な空の中の。木に咲く氷の花。今まで幾度このような風景の中を滑ったことだろう。
若い頃は、スキーそのものに夢中になって、周りの美しさが、当たり前のことと捉えていた。
それに感動する心がなかったことに今気が付いた。
「これが、最後になるかもしれない」
日常的でない暮らしをふとそう思うことがしばしばある。加齢とはそういうものだと納得する。
2キロのコースの半分位の所からは、やや取り戻したすべりの感覚を、楽しみながら、麓に向かって滑降する気持ちよさを味わうことが出来た。
それまで、ずっと付いていてくれた弟とは、別行動で、自分の体力と疲れ具合を頭に入れて、滑りを心行くまで楽しむことが出来た。