コミュニティセンターの片隅で、懐かしい二宮金次郎さんと出会った。
昔は、どこの小学校でもよく見られたものである。この土地はひょっとしたら小学校の跡地なのかもしれない。
『しばかり なわない わらじをつくり おやのてだすけ こうこうをつくし~~~』
いつの頃習ったのか今もこの像を見ると歌が口をついて出てくる。『てほんは にのみやきんじろう』と
このような像の残っている長閑な山里の桜を見に来たのである。
道不案内なので友人の車に乗せてきてもらったが、途中の川向こうにもこのような桜が川に沿って見えた。
町のソメイヨシノが三部咲きなのに、山間で気温の低いこの地方にはこんな花の満開が見られるなんて思いもよらなかった。
丁度、バス停に向かっていたこの土地の人らしいおばさんに「あれ、桜ですか?」と尋ねたら「そうです。一番早く咲くケイオウサクラというのですよ」と教えてくださった。
帰ってから調べると『春先を飾る一足早い春のディスプレーとして、喜ばれています。 啓翁桜は支那桜桃と彼岸桜を交配したものです 』という説明文を見つけることが出来た。
そのような品種を、この山里では川の岸辺や、家の畑や土手に植えて育ててきたのだろう。
有名な花見の場所でもなく、元西吉野村城戸から、十日市へ、そして吉野郡下市町に通じる、山の中を走る、ドライバーの目を楽しませ、あの早咲きの桜をまた見に来たいという思いを抱かせてくれる。
本当に春の訪れの喜びを純朴な形でこの地の景勝としたように思えた。
どこに止まっていたのか、足音に驚いて飛び立つ鶯もあり、こんないい環境の山歩きに満足した。
コミュニティーセンターに戻った時、行く時には気がつかなかった、青年団の記念碑を見つけた。
村で生まれ、村から出た人も、村に残って農業や、林業をする人も、この山里にこのような美しさと、癒しの場所つくりを夢とした人が多くいたのではないかと思った。
『恋風トンネル』という素敵な名前のトンネルを通り夕方、啓翁桜の里を後にした。