早朝部屋の雨戸を開けると、西吉野の山の半分に白い幕を引いたような、川霧が目に入る。我が家からの冬の風物詩である。こんな日には霧が晴れると、青空いっぱいの日になる予告でもある。
思い立って當麻寺にいったのもこの日だった。 体調が今よりよくない頃だったので、写してきた写真の整理もせずそのままになっていた。 外に出ている時だけが、気の紛れる時だった。(撮影日・11月8日)
仁大門の前の桜の紅葉を通して、二上山が静かに迎えてくれる好きな風景だ。
広い境内に入ると、二上山が更に迫ってくる。常緑樹の前のこれも桜の木である。
春の華やかさもいいが、紅葉した桜の佇まいもいいものだ。
鐘楼に沿うようにこれも桜の葉の紅葉である。
この日の目当ては西南院だ。
江戸初期に造られた、池泉回遊式庭園の、登りと下りの2箇所にある水琴窟の、妙なる地底からの呼びかけのような音に、耳を澄ませて永らくそこに佇んでいても、訪れる人の少ないこの日は、庭園みんなが私のもののような気分だった。
ここからは、東西両塔の望める位置であることが、なんと贅沢なことであると実感する。
目の前の西塔の姿が池に映りこんで、まるで三つの塔を見ているような感じがする。
西塔から東塔を望むと、いち早く紅葉した楓の紅が、これから紅葉しようとしている楓の中によく映えて、こんな時期にお参りしたことがなかっただけに、巡り来る冬の前のひと時の庭園の静寂が、この頃の私の心身を癒してくれたのは事実である。
西南院で迎えてくれた、花や実。 ふうせんかずら 花茄子 つわぶき せんりょう
この写真を撮った日から10日経っている。この頃よりも体調はいくらかよくなっている。 そして紅葉はもっともっと進んでいるに違いない。訪れる人の少ない頃だったが、今はもっと多くの人が訪ねているだろうと思う。