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(窓から外を眺めるスーチー いつ頃の写真かはわかりません。“flickr”より By jeffrey_hellman )
新聞等でも伝えられているように、ミャンマーの新憲法制定に向けた国民会議が3日、93年の開始から14年がかりで新憲法の基本原則を採択して終了しました。
現在の軍政から民政へ移管し民主化を実現するロードマップの第一段階完了という訳です。
旧憲法は88年の軍のクーデターで停止されています。
今回の新憲法では、国会は二院制をとるようですが、両院とも議席の4分の1が選挙ではなく国軍司令官指名の「軍人議員」となるとのことです。
国家元首は軍政トップの国家平和発展評議会(SPDC)議長から、新設の大統領へ移るそうです。
14年間もの熟慮を経て作成された今回のものはあくまでも“基本原則”です。
今後は新憲法の草案を作成し、国民投票にかける。
その後、総選挙を実施。
上記のステップが残されていますが、その期限については設定されていません。
いつになったら手が届くものやら・・・。
そんななかで、3日のAFPは「アナリストらは、新憲法が実質的かつ大きな変化をもたらすことはないとみる。新憲法の文言には政府における軍の役割が正式に盛り込まれ、総選挙の実施により、現在軟禁下にあるアウン・サン・スー・チーさんが大統領に選出されることが予測されている。」と報じました。
「スー・チー大統領?いくら形式的“神輿”でも軍がスーチーを担ぐかな?世界的サプライズ人事だね・・・」と腰を抜かしたのですが、同日朝日新聞では「大統領は、両院の民選議員と軍人議員が選んだ計3人の候補から全議員の投票で決まるが、候補者には「軍事の見識」も求められ、軍経験者以外は排除される可能性がある。
タン・シュエSPDC議長が転身を狙っているとの説も根強い。
また、大統領や議員には「外国から影響や利益を受けていない人」との要件も設けられた。
軍政が「欧米諸国などと結託している」と非難する自宅軟禁中の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チー氏や、同氏が率いる国民民主連盟(NLD)は事実上、排除される懸念もある。」とのこと。
まあ、この朝日の報道が常識的でしょうね。
結局民政移管、民主化と言いつつも、中身は軍政を引き継ぎ、軍部の意向で運営される仕組みのように思えます。
一方、8月23日のこのブログでも取り上げたように、先月15日のガソリン価格の大幅引き上げに対し、軍政下では異例の抗議デモが行われました。
これは、「物価高騰への抗議」との体裁をとりながら、軍事政権への不満を表明する狙いがあると伝えられています。
軍政側は指導者を拘束。
19日のヤンゴンでのデモを主導したとして拘束されたミン・コー・ナイン氏は、88年にネ・ウィン軍事政権に反対する学生民主化運動を主導し、現在の軍政によるクーデター後、約16年間収監され、出所したばかりだったそうです。
デモはヤンゴンからピー、イエナンジャン、バゴー、シトウェと、もぐら叩きのように地方へ拡大、その動向が注目されていました。
国際世論もデモ参加者の拘束に対しいち早く警告を発していました。
米政府は22日、軍事政権を強く非難、拘束者の即時解放を求めましたが、その後も米下院・上院の有力議員が29日ブッシュ政権に対し、ミャンマー軍事政権による民主化活動家の拘束に関して緊急国連安全保障理事会の開催を要求するよう求めています。【8月29日 AFP】
31日には、ブッシュ米大統領のローラ夫人が国連の潘基文事務総長に電話をかけ、軍事政権によるデモ参加者への弾圧を非難するよう求めたそうです。
ローラ夫人は同時に、国連安全保障理事会が軍事政権の更なる暴力・抑圧防止の行動を起こすよう求めたと言われています。
ローラ夫人はかねてよりミャンマーの人権問題に関心があり、昨年は国連総会での討論会を開催したことがあるそうです。
なお、今回のように国連事務総長に電話するというようなことは殆どないそうです。【9月1日 時事】
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(このスーチーの写真も時期は不明です。 “fickr”より By jeffrey_hellman )
しかし、ここ数日ミャンマーでのデモ等のニュースは目にしません。
指導者を拘束されたこと、石油関連製品以外の食料品などの価格が比較的落ち着いていることから、運動が広範な国民運動に展開することなく、当局の押さえ込みが功を奏したのでは・・・と感じています。
以前もブログで書いたかと思いますが、ミャンマーを旅行した際にガイド氏は「ミャンマーで生活するのはそんな難しくないです。もし仕事がなければお寺に行けば雑用などもらえて食べていけます。」なんて言っていました。
電気が使える時間より停電時間のほうが長いような電力事情も、慣れてしまえばなんとかなるのでしょう。
身の危険を冒して立ち上がるほどには生活は逼迫していないということでしょうか。
権力にある側も必死でしょう。
万一権力を失えば、単に既得権益を失うというだけでなく、これまでの人権侵害の責任を追及されることになります。
自分たちの保身のために、権力は絶対に手放さないでしょう。
日本や欧米のように、まがりなりにも政治的自由が保障され、選挙を通じた政権交代の仕組みが存在している国とは異なり、ミャンマーのような政治的自由もなく、政権交代の枠組みもない国でどのように民主化を実現していくのか・・・。
結局は多くの国民が飢えに苦しみ、大勢の活動家が銃弾に血を流すような事態にならない限りは変化はないのか・・・。
なお、アメリカとイギリスは軍事政権にアウン・サン・スー・チーを始めとする全ての政治犯の即時釈放を求める非難決議を提出し、今年1月12日国際連合安全保障理事会で採決しました。
しかし、中国とロシアが拒否権を発動し、否決されています(賛成は米、英、フランスなど9か国。反対は中、露、南アフリカ共和国の3か国。棄権はインドネシア、カタール、コンゴ共和国の3カ国)。
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