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(5年前、マレーシアのコタバル(イスラム原理主義政党が州政府を掌握)を観光したときの写真 伝統的な遊びをデモンストレーションする女性達)
最近、漫画でイスラム教を揶揄したとして、著者等の殺害を警告する声明がだされた事件が話題になっています。
イスラム教と“表現の自由”の問題としては、1989年にイギリスで発表された『悪魔の詩』(あくまのうた、原題:The Satanic Verses)が有名です。
イスラム教を揶揄した内容のこの小説は、一部イスラム教徒の激しい反発を招きました。
当時のイランの最高指導者ホメイニ師によって、著者及び発行に関わった者などに対する死刑宣告がイスラム法の解釈であるファトワーとして宣告されました。
また、イランの財団より、ファトワーの実行者に対する高額の懸賞金(日本円に換算して数億円)も提示されました。
こうした流れのなか、日本語訳を出版した翻訳者が勤務先の筑波大学にて何者かに襲われ、喉を繰り返し切られて惨殺される事件、93年にはトルコ語翻訳者の集会が襲撃され37人が死亡する事件も起きました。
なお、ホメイニ師死去によりファトワーの撤回はできなくなりましたが、その後イラン政府は“今後一切関与せず、懸賞金も支持しない”との立場を表明しています。
【フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』】
この騒動は、各地のイスラム主義運動・反欧米運動に少なからぬ影響を与えたとも聞きます。
今回の騒動は以下のようなものです。
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【9月16日 AFP】国際テロ組織アルカイダを名乗るイラクのグループが15日、預言者ムハンマドを侮辱する風刺画を描いたスウェーデン人2人を殺害した者に対して懸賞金を支払うとの声明をインターネットを通じて発表した。
懸賞金がかけられたのは、漫画家のLasrs Vilk氏と漫画が掲載されたNerikes Allehanda紙の編集主任。それぞれ10万ドルと5万ドルの懸賞金がかけられた。
また声明では、謝罪が無いのであればスウェーデンの企業に対して圧力を加えると警告している。
問題となった風刺画は8月18日付の同紙に掲載されたもので、犬の胴体を持つ預言者ムハンマドの姿が描かれていた。同紙が本社を置くOerebroの街ではイスラム教徒による抗議活動が行われており、また表現の自由をめぐってスウェーデン国内では議論が交わされている。
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同日の【読売】から補足すると、名乗りをあげたのはアルカイダなどが一方的に樹立を宣言した「イラク・イスラム国」の指導者だそうです・
「イラク・イスラム国」というと、今月13日イラクでアメリカに協力するかたちでアルカイダ討伐を行っていたスンニ派有力部族長を爆殺したと発表したのも同組織でした。
また、スウェーデン企業というと、携帯電話会社エリクソンや、自動車メーカーのボルボなどのようです。
渦中の漫画家は、「屈服してはいけない。わたしは年もとっているし、いつ死んでもかまわない」と語っているそうです。
また、スウェーデンのラインフェルト首相は、地元のイスラム教指導者らと会談後「冷静な対応と『熟考』を求める。暴力行為の呼びかけや、状況を悪化させるいかなる試みも許されない」と述べ、言論と表現の自由は守られなければならないと強調したと報じられています。
スウェーデン・メディアは15日、インターネットを通じて警告を非難する声明を発表。
発表紙の編集長は社説で「この国では、言論が原理主義者や政府により制限されることはない」と述べています。【9月17日 AFP】
表現の自由が守られるべきこと、殺害を求めるような言動が容認できないことは、そのとおりです。
ただ、正直なところ「どうしてこんな騒動を引き起こすのかな・・・」という苛立ちを感じます。
今イラクでもアフガニスタンでも、ややもするとイスラム対欧米的価値観の対立とも思われがちな紛争が火を吹き、大勢の市民がその被害を蒙っています。
欧米の兵士も犠牲を出しています。
また、世界各地でイスラム原理主義的な運動が強まり、その対応、テロの恐怖に苦慮しています。
今回の騒動は結局イスラムの人々を刺激し、より過激な方向へ向かわせるだけのものに思えます。
言論・表現の自由は大切ですが、本来それは抑圧されている人々を救済するためにこそ使われるべきものです。
社会風習や文化の違いに配慮して、いたずらに相手に不快感を与えないのが良識というものです。
今回のような表現は、単に自分たちの価値観をひけらかし、相手を貶めるだけの自己満足的な愚行にすぎず、デリケートな世界の情勢を無神経にかき回すような行為です。
「いつ死んでもかまわない」と英雄的な満足感に陶酔するのは勝手ですが、著者一人が死んで済む問題ではありません。
イスラムの国々は断食月のラマダンに入っています。
家族を失い、戦乱のなかでラマダンを向かえる難民もいれば、石油産出国の大富豪・王族もいます。
イスラム教では信者同士の助け合いを、貧者への施しが重要視されていますが、ラマダン期間中世界中のイスラム教徒が一斉に日中の断食を行なうことで、世界的規模でそのような宗教意識が高まるとされるています。
来週1週間ほど、ピラミッドなどの物見遊山でエジプトに出かけます。
エジプトでは社会問題省の指導でイスラム系慈善団体が結集し、貧しい家庭に対して食糧などを入れた「ラマダン・バッグ」を配っているそうです。(昨年の記載で、今年のことはわかりません。)
配布を受ける人は、700万人、全人口の約10%にのぼるそうです。
政府とは一線を画すムスリム同胞団などのイスラム組織も、独自の「ラマダン・パック」を困窮する人々に配布して、支持拡大に努めるのもこの時期だそうです。
(川上泰徳氏 朝日新聞アスパラクラブ“中東ウォッチ”より)
エジプトのラマダンでは、夜のランタンの灯りがきれいだそうです。
そんな暮らしぶりを感じることができれば・・・と楽しみにしています。
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(ラマダンのエジプト ランタン屋さん 店番のおじいさんの後ろにずらっと並ぶのがランタン “flickr”より By Dmitry Gudkov)
ラマダンにあわせたのでしょうか。
こんなニュースも。
「ドバイで19日、アラブ首長国連邦のムハンマド・ビン・ラシド・マクトム副大統領(ドバイ首長、首相兼任)が子どものための新たなチャリティー計画「Dubai Cares」を立ち上げた。
同計画は、発展途上国の百万人の子どもたちに教育の機会を与えるための資金集めを目的としている。」【9月20日 AFP】
計画内容は全くわかりませんが、有り余る資金の使いみちとしては、喜ばしい限りです。
ついでに、ラマダンとは何の関連もないですが、イスラム関連のニュースがもう1本。
著名なイスラム法学者がアルカイダのビンラディン批判を行ったそうです。
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イスラム系ウェブサイト「イスラム・オンライン」はサウジアラビアのイスラム法学者、サルマン・ビンファハド・アウダ師が国際テロ組織アルカイダのウサマ・ビンラディン容疑者にあてたとする公開書簡を掲載した。書簡は「我々イスラム法学者はウサマの行為を拒絶する」と同容疑者の言動を批判している。
同師はサウジが国の根幹に据えるイスラム教スンニ派の一派ワッハーブ派の高名な法学者。反王室派としても知られ、米軍のサウジ駐留に反対してきた点ではビンラディン容疑者と一致していた。ビンラディン容疑者を批判した公開書簡について、専門家は「アルカイダの思想にとって大きな痛手だ」と論じている。
書簡は「兄弟ウサマよ」と呼びかける形式。「イラクやアフガニスタンのような国家の破壊から我々は何を得たのか」と問い、「内戦の悪夢はムスリム(イスラム教徒)にいかなる喜びももたらさない」とアルカイダによる暴力の妥当性に疑問を投げかけた。
さらに「殺人と暴力の文化を普及させた責任は誰に」「泣き叫ぶ母親や子供たちを残し、若者が戦地へ向かう責任は誰に」とたたみかけ、「アルカイダは刑務所が若いムスリムで満たされる原因だ」と断じている。【9月19日 毎日】
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自爆テロに走るイスラムの若者に再考を促すものとなるなら、これも喜ばしいものかと思います。
しかし、インターネットなどで“西欧に踏みにじられる屈辱感”を煽るサイトなどによって、過激な行動に駆られる若者は後を絶たないとも言われています。
冒頭のような愚かしい“自由”が、そういった動きを加速させないことを願います。