孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

バングラデシュ 汚職一掃か批判弾圧か

2007-09-06 12:19:34 | 国際情勢

(人々、小船で賑わう首都ダッカの港、ショドル・ガット。オールド・ダッカにあって、運河の国バングラデシュを象徴する場所です。長距離航路のフェリーも多く見られます。外輪船もいるそうですが、旅行中には見ることができませんでした。
“flickr”より By babasteve )

大規模な汚職摘発が進むバングラデシュで、3日、7月からすでに自宅軟禁下にあった旧最大与党バングラデシュ民族主義党(BNP)党首のカレダ・ジア前首相と二男のアラファト・ラーマン容疑者が汚職容疑で逮捕されました。7月には政敵の最大野党アワミ連盟(AL)のハシナ元首相も汚職容疑で逮捕されています。

7月18日の当ブログで取り上げたように、バングラデシュでは1月予定だった総選挙が延期され、軍を後ろ盾とする選挙管理内閣が暫定内閣(首席顧問:ファクルッディン・アーメド)として続いています。
暫定内閣は非常事態宣言下で、「汚職に関わった政治家は立候補させない」という厳しい態度で汚職政治家の摘発を行っており、BNPのジア首相、ALのハシナ元首相という、これまで政界を牛耳ってきた大物女性政治家二名、ということは汚職と腐敗の中心にいた二名をそろって逮捕する荒療治を行いました。

前・元首相二名以外にも主要な政治家150人以上を逮捕していると伝えられています。【8月27日 AFP】
また、暫定内閣は汚職一掃と併せてイスラム過激派の逮捕も断行しています。

これまでバングラデシュの政情は、BNPとALの激しい抗争によって不安定な状態を続けてきました。
いたずらに政争が激化する背景には、権力=利権という図式があるものと思われます。
(日本でも同じです。数年前まで鹿児島のある島の選挙は異常に過熱しましたが、公共事業が基幹産業である島にあっては、選挙の勝ち組だけが仕事をもらえるという背景がありました。)

この構図を一掃しようという暫定内閣の試みを国民はおおむね支持しているとされていますが、非常事態宣言下で政治活動が認められないことへの不満も高まっていると言われます。【9月3日 朝日】

こうした状況で、ダッカ大学で20日に行われたサッカーの試合中、軍兵士が学生を連行したことを発端に大学からの治安部隊撤退を求める学生の抗議デモが起こり、抗議活動は更に全国に飛び火、デモ隊と警官の衝突が暴動化する事態となりました。
政府は22日、首都ダッカなど主要6都市に夜間外出禁止令を出しました。【8月24日、25日 AFP】

事態沈静化のため政府は大学教授、学生リーダーなど数十名を逮捕し、25日には外出禁止令は解除されました。
政府は“人権を尊重する姿勢”も強調したそうです。【8月25日 AFP】

政権の後ろ盾となっている軍の陸軍参謀長は、政府関係者への演説の中で、「腐敗した悪徳政治家らが、共謀して政府のイメージを損なおうとした」と前政権時代の複数の政治家を非難しています。【8月27日 AFP】

事実上の軍事政権とも思われる暫定内閣のもと、汚職一掃の取組みで28万人が拘束されたとも伝えられています。
地元メディアの一部は「政府は次期選挙で2大政党を抑え、骨抜きの議会を作ろうとしている」と指摘しているそうです。【9月4日 産経】

汚職政治家一掃は確かに歓迎すべきことですが、長期化する“暫定”“選挙管理”内閣のもとでの荒療治は、角を矯めて牛を殺すような事態も考えられます。
総選挙は来年末までに行うとされており、12日から公職選挙法改正に向けて、選挙管理委員会が主な15政党党首らから意見聴取を行う予定になっています。
民主的な選挙システムを確立するという本来の趣旨から逸脱することなく、すみやかな総選挙・民政復帰へむけて動くことが望まれます。

周辺各国については、周知のようにミャンマーの軍事政権は国際的批判を浴びていますが、タイも現在軍政下にあります。
民主主義というのはよく言われるように、なかなか手間暇のかかるもので、往々にして腐敗・堕落しやすいものです。
有効に機能するには社会的基盤が必要です。
そのような基盤が脆弱な地域では、どうしても“効率的”な軍事政権に頼りがちです。
ただ、この劇薬への依存は国民の批判を封じ、長期的にはあるべき姿から遠ざかることにもなりかねません。

コメント
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