孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラク 治安回復への途は遠く

2007-09-16 14:26:23 | 国際情勢

(イラク・アンバル州 2007.4.23 イラク・米英軍等が共同で展開する市民への医療支援で治療される両親を待つイラク少女 
“flickr”より By R.Brown )

爆弾テロは日常茶飯事のイラクですが、先日気懸かりな事件がありました。
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【親米・反アルカイダの部族長爆殺 イラク】
イラク西部アンバル州ラマディで13日、イスラム教スンニ派の有力部族長アブドルサッタール・アブリシャ氏の車列付近で路肩にあった爆弾が爆発。ロイター通信によると、同氏と護衛2人の計3人が死亡した。
 アブリシャ氏は昨年、同州の他の部族リーダーらとともに「アンバル救済評議会」を結成。駐留米軍とも協力しながら、国際テロ組織アルカイダ系スンニ派過激派の掃討にあたった。今月3日に同州を電撃訪問したブッシュ米大統領とも会談したばかりだった。
 イラク駐留米軍のペトレイアス司令官は10日の米議会証言で、同州の部族がアルカイダとの関係を断つことで治安が大幅に改善したことを「成果」とし、モデルに挙げていた。
 しかし、アルカイダ系過激派が、米側が頼みとする部族長らへの攻勢を強め始めたことで、治安が再び悪化し、今後本格化する駐留米軍の撤退に影を落とす可能性がある。 【9月13日 朝日】
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アブリシャ氏は、2006年9月にアンバル州の25の部族で結成された組織「アンバル救済評議会」の指導者で、私設民兵組織を創設し、地元警察へ人員を提供するなど、アルカイダの掃討に尽力していたそうです。
ブッシュ米大統領は13日、今後のイラク政策についてテレビ演説し、来年夏までにイラク駐留米軍を約3万人削減し、増派前の約13万人規模に戻す、との方針を表明しています。
その際、首都バグダッドともにアンバル州を例に挙げ、「わずか1年前、両都市は武装勢力の支配下にあった。それが今では学校や市場も再開され、市民に普通の生活が戻っている」と指摘し、3万人の増派による成果を強調しています。
そのアンバル州の治安回復に影響があった人物の死でした。

この事件に関しては、アルカイダ系の「イラク・イスラム国」が14日、ネット上に犯行声明を出しています。
声明では、アブリシャ氏を「ブッシュ率いる十字軍の犬」と呼び、「「イラク・イスラム国家」に属するあなた方の兄弟が、背教者アブドルサッタール・アブリシャを暗殺した」と述べられています。【9月15日 AFP】


(殺される2週間前に現地を視察するブッシュ大統領と会見するアブリシャ氏 “flickr”より By teddyone )


アンバル州と並び、ブッシュ大統領があげた治安回復都市バグダッドでは、
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バグダッドにあるシーア派地域サドルシティーで8日、警察署への攻撃に失敗した自爆テロ犯が爆破物を積載した車両を飲食店脇で爆破し、少なくとも15人が死亡する事件が発生した。
事件現場となったサドルシティーは、シーア派の反米指導者ムクタダ・サドル師が拠点とする地域。
スンニ派の武装勢力は、たびたびサドルシティーを攻撃対象にしており、今回の爆破事件は、サドル師の命令により6か月間にわたって武装活動を停止している同師派の民兵組織マフディ軍に対する挑発行為とみられている。【9月9日 AFP】
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活動停止を宣言したマフディ軍、バグダッドの治安が懸念される事件でした。
そのマフディ軍を率いるサドル師は、15日、シーア派政党中心の統一会派「統一イラク同盟(UIA)」からの離脱を表明しました。
今後は、すでにUIAを離脱している同じくシーア派のファディーラ党との連携を計画していると言われています。【9月16日 AFP】

この時期にUIC離脱に踏み切った背景には、サドル師派の強い反対にもかかわらず、米ブッシュ政権が実現を強く求める石油法案などの「親米政策」をマリキ政権が推し進めていることや、同派民兵組織マフディ軍とSIICのバドル軍との確執が限界に達したことなどがあるとみられるとのことです。【9月16日 朝日】

サドル師派とシーア派有力勢力のファディーラ党とは、イラク唯一の石油積み出し港でありイラク経済の生命線ともいえる地域であるバスラで、石油の利権をめぐり近年対立が深刻化しているという報道も以前ありましたが・・・。

サドル師派は既にマリキ首相率いる連立政権から閣僚を引き揚げていましたが、今回与党UIAからも離脱したことで議会運営が更に困難となり、マリキ政権の危機は一層深刻となったとも報じられています。【9月16日 時事】
マリキ政権は、37閣僚のうち、サドル師派、スンニ派、世俗派アラウィ元首相派の計17閣僚が離脱かボイコットで不在という異常事態に陥っています。

イラク武装勢力各派は単に宗派対立というだけでなく、石油利権や対米姿勢などをめぐって“自分達以外はすべて敵”というような対立を続けており、今後の治安維持がブッシュ大統領の期待するように進むのか懸念されます。

“局面の打開”のためには混乱のもとになったブッシュ大統領が退陣して、現実的にこの地域への影響力があるイランも取り込んだイラク支援の国際的枠組みの再構築に取り組むことが必要では。
イラン空爆など言及していては、イラクもイランも収拾しないと思うのですが。


(アクバル州ファルージャ 2007.8.9 作戦中の米軍海兵隊員とイラク子供達 “flickr”より By zerohour1971 )
コメント
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