(写真はQawawisというパレスチナ人の村。周辺にできた違法なイスラエル人入植地からの脅しにあって一旦は村を捨て避難しました。その後、国際支援のもとで村に戻りましたが、今でも毎日イスラエル人入植者の“visits”を受けています。
パンを焼く三世代の家族 “flickr”より By frecklebaum )
先日パレスチナ関連で面白いニュースがありました。
ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが、イスラム教の聖典コーランの暗記を条件に服役囚を減刑するなど、独自行政を展開しているとのことです。
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この新施策は8月6日に始まった。
刑期の3分の2を過ぎた模範囚を対象に、コーランの1章の暗記で2カ月間、5章なら1年間を残余刑期から免除する。
250人の囚人全員が挑戦中という。
発案者のエフメイド管理官は「刑を終えても彼らには『犯罪者』のレッテルがつきまとう。
しかし、コーランを覚えていれば周りの見る目も変わる」と意義を強調した。【9月4日 毎日】
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この記事を気に入った理由は、“コーランを覚えれば人格的に向上する”というステレオタイプな主張ではなく、“犯罪者というレッテル、周囲の見る目”を意識して取組んでいる点です。
犯罪者の更生を妨げているのは本人の努力の問題と同時に、周囲の視線です。
日本でも参考にしていい取組みだと思います。
この記事では併せて、“「ハマス内閣」の活動を取り上げない番組を放送禁止にしたり、ジャーナリストの抗議デモを鎮圧するなどハマスの強硬な側面も現れ、深まるばかりの孤立化も相まって住民は不安を募らせている。”とも伝えています。
また、“ハマスに武力制圧された後、身を隠すようにしていた穏健派ファタハの関係者は自宅に黄色のシンボル旗を掲げ、「非ハマス」を鮮明にし始めた。別の自治区・ヨルダン川西岸を基盤とするファタハ出身のアッバス自治政府議長が、欧米の支援凍結解除などを受け、ハマス以外の公務員に対する給与払いを再開したためだ。”とのこと。
更に、同記事は次のようにも述べています。
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住民によると、孤立化の影響で経済的疲弊が強まっている。
西岸地区が主な出荷先だった食品や飲料水の製造工場が相次いで操業停止しているほか、シャッターを下ろしたままの商店も増えている。
タクシー運転手の男性(38)は「車を流してもガソリンが無駄なだけ。特別な仕事がなければ家で寝ている」と不満をぶちまけた。【9月4日 毎日】
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先月31日にはガザ地区で1万人以上が参加する、ガザ制圧以来最大規模のハマスに対する抗議集会が開催されました。
集会後には複数のデモ行進が発生、ハマス治安部隊が鎮圧にあたり、投石があるとデモ参加者をこん棒で殴ったり足でけったりし、計約20人が負傷したと伝えられています。
また、取材中のフランス人記者ら2人が一時拘束され、2人の欧米人ジャーナリストが負傷しました。
南部ラファでも5000人規模の集会があり、ハマス治安部隊と衝突したようです。【9月1日 AFP】
ハマスは取材メディアのビデオカセットを押収したりしており、このような取材妨害の目的について、「治安を掌握しているところを世界中に見せたいので、混乱した場面を隠したいのだろう」とも言われています。【9月2日 朝日】
最新の世論調査によると、ハマスの地盤のガザでも、ファタハの支持率は37.5%なのに対し、ハマスは28.4%と人気に陰りが見られるそうです。
ただ、今後いよいよ生活が苦しくなると、結局ガザではハマスに頼るしかないとの声もあります。
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ガザの企業経営者協会のシャワ代表によると、ハマスのガザ制圧後の封鎖で人道援助を除く物資の輸出入が完全に止まり、縫製などの工場の9割以上が閉鎖、6万人以上が失職した。
「余裕ある人はガザを脱出して外国へ行けるけれど、大多数の貧困層はとどまり、ハマスにすがって生きるしかない」。
シャワ代表は、イスラエルの封鎖がこのまま続けば住民は反発を募らせ、ハマスへの支持が復活するとの見通しを示した。【9月2日 朝日】
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(写真はphysio(手相?)に興じるガザの若い女性 “flickr”より By julioetchart )
ガザ地区を包囲するイスラエルは、ガザ地区からの連日のロケット弾攻撃に対抗するため、ガザ地区への電力、水道、燃料の供給を停止する検討を始めたそうです。【9月6日 共同】
また、イスラエルとガザ地区武装勢力の間で衝突が起きています。
6日にも、(イスラエル側の主張では)イスラエル軍を急襲し同軍兵士を拉致する計画だったとみられるパレスチナ戦闘員へのイスラエル軍による攻撃があり、パレスチナ人武装勢力の戦闘員6人が死亡しました。
また、ガザ市南部でも同日イスラエル軍の攻撃があり、パレスチナ武装勢力の戦闘員4人が死亡しています。【9月7日 AFP】
なお、7日読売によると、死亡したパレスチナ戦闘員はファタハ系の「アルアクサ殉教者旅団」と、イスラエルへのロケット弾攻撃を続ける「イスラム聖戦」のメンバーとみられているそうです。
一方、ファタハが支配するヨルダン川西岸地区では、パレスチナ武装勢力の一部がアッバスPLO議長の指示に従って、イスラエルとの取引合意のうえで、武装解除を始めているそうです。
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イスラエルのオルメルト首相が7月にアッバス議長と会談した際、議長支援策の一環としてこの試みを提案した。
議長の出身母体であるファタハ系の武装集団「アルアクサ殉教者団」のうち西岸地区の約180人が対象で、彼らが武装放棄して攻撃中止を誓約すれば「手配者リスト」から削除し、3カ月間の経過観察後に西岸内の移動の自由を保証する。
引き渡す武器の種類によってパレスチナ自治政府が「補償金」も支払う。
150人以上が既に放棄に応じた。
西岸地区では、ハマスより小規模なイスラム原理主義組織「イスラム聖戦」も「武装解除する用意がある」といい、自治政府は対象者の拡大をイスラエルに求めている。
イスラエルには「穏健派」の武装解除を進める一方で、ハマスら「過激派」の掃討をいっそう強める狙いがある。しかし根強いテロへの警戒感から、さらなる拡大には消極姿勢も示している。
ガザのハマス報道官は西岸でのこうした動きを「(反イスラエルの)抵抗精神を損なう」と反発している。【9月4日 毎日】
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今後、この“武装解除”の動きが拡大すれば、パレスチナ情勢に大きな影響をもたらすように思えます。
今回の取組みについて、武装メンバー側は和平交渉を動かすためだと強調し、和平に具体的な進展がなければ「再び行動を起こす」と警告しているそうです。
それはそうとして、やはり「手配者リスト」とからはずれてイスラエルによる暗殺・拘束の恐怖がなくなり、しかも“補償金”ももらえるというのは、武装勢力にとっても魅力的な提示のようです。
これで武装解除が進み、和平が近づくなら結構なことと言えます。
もうひとつ、今後に影響しそうなニュースがありました。
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アッバス議長は2日、議長と自治評議会(国会)の選挙法を改める議長令を出した。
候補者になる条件として、アッバス氏の率いるファタハがほぼ独占するパレスチナ解放機構(PLO)を「パレスチナ人の唯一正当な代表」と認めることを義務づけている。
評議会選は選挙区制との併用をやめ、比例代表制だけにした。【9月3日 朝日】
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ファタハに対立するイスラム過激派ハマス(前回選挙で大勝し、今でも自治評議会の多数派を占める)の排除が狙った措置です。
ハマスは世俗主義的なPLO、その主力のファタハとは出自が異なり、もともとはイスラム原理主義的なエジプトの組織“ムスリム同胞団”のパレスチナ支部としてガザにつくられた組織です。
確かに“パレスチナ自治政府”は、イスラエルと“パレスチナ人の代表者”としてのPLO(アラファト議長)の間で交わされたオスロ合意に基づいて94年設立されています。
PLOは、自治政府ができてからは二重組織のようであまり存在感がありませんでしたが、ここにきて意味を持ってきました。
自治政府には参加しましたが、PLOとは一線を画しているハマスには難しいハードルで、今後相当に揉めそうです。
日本政府が国連を通じてパレスチナ自治区に送った支援用の食糧が5日、ヨルダン川西岸の町ヘブロンに到着したそうです。【9月6日 AFP】