(写真はネパール南部のチトワン付近の農民 “flickr”より By Ronnie Macdonald)
昨日、ネパール王室関連のニュースが2本ありました。
ひとつは通貨の話。
ネパールの中央銀行は6日、新たに発行された2ルピー硬貨からギャネンドラ国王の名前が削除されたことを明らかにした。同国では王権の排除が進んでおり、これもこうした動きの一環。
新硬貨では同国王の名前の代わりにエベレストが描かれ、裏は畑を耕す農民の姿が刻まれている。
紙幣からも近く国王の肖像が消え、やはりエベレストの図柄に取って代わられる予定。【9月6日 時事】
もうひとつは皇太子の話。
ネパールのギャネンドラ国王の長男、パラス皇太子(35)が6日、心臓発作に襲われ、カトマンズの病院に担ぎ込まれた。一命は取り留めたが、重度の発作と伝えられている。
皇太子は高級クラブ通いや無謀運転によるひき逃げなどの乱行で知られる。王室が存亡の危機にひんする中、国民の評判は国王と並んですこぶる悪い。【9月6日 時事】
国民の信頼が篤かった前国王が2001年に10人余りの王族とともに王宮内での銃乱射で殺害されるショッキングな事件のあと王位についたキャネンドラ現国王は、評判が非常よくありません。
この王族殺害事件の真犯人ではないか・・・とすら噂されるぐらいです。
事件の真相は明らかにされていませんが、事件の1ヶ月前ネパールを旅行していて、同伴者が現地在住の日本人の方から「近く大変なことが起こる・・・」という話を聞きました。
それがこの事件のことだとしたら何者かによる計画的犯行だったということにもなります。
キャネンドラ国王は専制的な親政を行いましたが、農村部を実効支配するネパール共産党毛沢東主義派(マオイスト)の攻勢を受け、また、議会・政府を廃止して絶対君主制を導入するなどで国民の不評は更に高まり、2006年民主化闘争によって権限を剥奪されました。
その後、06年11月、復活した政府はマオイストと無期限停戦と和平を誓う「包括和平協定」に調印、暫定政権が樹立されました。
暫定政権は今年7月に発表された予算案で、ギャネンドラ国王と王室メンバーへの予算を初めてゼロにしました。
財務当局者は「すべての権限をはく奪された国王にもはや任務はない」と語ったそうです。【AFP】
また、首都カトマンズの王宮をはじめ、国内各地にある王室所有の宮殿7か所を国有化したと発表しました。【8月24日 読売】
ネパール王室の存廃は、今年11月に行う制憲議会選挙後に決まりますが、暫定政府を構成する8政党のうち、共和制移行を唱えるマオイスト以外は王室を儀礼的な存在として残したい意向とも言われています。
マオイストは現在議会の4分の1ほどの議席を持ち、政府閣僚も出しています。
なお、マオイストといいつつも、中国とは無関係だそうです。
毛沢東主義を謳っているものの、中国共産党とのつながりはほとんど無く、また思想的には毛沢東思想よりもむしろ南米の共産主義勢力によるアンデス山脈の農民開放運動に影響を受けている。
そのため、ネパールと外交関係のある中華人民共和国は活動開始当初から「マオイスト(毛沢東主義者)とは無関係」「毛沢東の名を汚す利敵行為」として主張し、対立する国王派を援助していた。
中国は、国王が実権を失った直後、当局がマオイスト指導者と接触するなど、マオイストに対して寛大な措置に転換している。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
観光的には、トレッキング中に武器を所持したマオイストに遭遇して、通行税などの名目で金品を要求されることがあります。
【マオイストとの遭遇時の注意事項】
トレッキングルートでマオイストに遭遇し、通行税名目で金品を要求された場合は自分で対処しようとせず、同伴ガイドなどに交渉させてください。交渉後、やむを得ず通行税を支払う場合は、領収書を受領して他の場所でマオイストに遭遇した場合に提示してください(重複徴収の防止)。
また、日本大使館にもその旨お知らせください。(外務省海外安全ホームページ)
数年前の情報では、相場は1人1000ルピー(1600円)ほどで、高額を要求されても値引き交渉に応じてくれることが多いと言われていました。
いずれにしても、領収書まで出してくれますので、世界各地の山賊・強盗などに比べれば安心です。
しかし、国民生活的には「金品の要請を断ると後が怖い・・・」というように、彼らを恐れる声もあります。
そんなネパールの首都カトマンズで、今月2日、ほぼ同時に3件の爆発があり、少なくとも2人が死亡、30人が負傷しました。
3件の爆発があったのは、通勤客で満員のマイクロバスの車内、市の中心のバス停、軍司令部の外でした。【9月3日 AFP】
総選挙を実施すれば議席を減らすことが確実視されているマオイストの犯行かとも疑われましたが、犯行を否定。
その後、南部の低地テライ地方の分離を掲げる「テライ軍団」と「ネパール人民軍」と名乗る2組織が犯行声明を出したことが報じられています。【9月3日 読売】
“テライ地方”とは聞きなれない地名です。
ネパールは東西に長い地形です。
北上すると高度を高めヒマラヤに至りますが、南下するとインドに隣接する平野部が東西に広がり、この地域がテライ地方と呼ばれています。
普通“ネパール”と聞いてイメージするカトマンズ、ポカラなどの都市は北半分の比較的高地にあります。
低地テライ地方で観光的に訪れる場所といえば、サイなどの野生動物が見られるチトワン国立公園ぐらいでしょうか。
(写真はチトワン国立公園のサイ “flickr”より By Lisa de Vreede )
しかし、テライ地方は総人口の48%が居住し、ネパールの工業、農業の中心地だそうです。
この地に暮らす“マドヘシ族(マドヘス族)”は数十年前にテライに住み着いたインド系の人々で、その殆どはネパール市民ですが、市民権を持たない者の数も多く、社会的に差別を受けているとの主張があります。
このマドヘシ民族運動を進めているゴイトが率いるテライ・ジャンタントリック解放戦線(TJLF)は、従来マオイストと協調して活動していましたが、昨年夏からマオイストと袂を分かち、「テライはマドヘス族のもの」と完全主権・独立を主張して、テライ丘陵地に住む入植者「パハディヤ族」の追い出しを開始しました。
マオイストからの分離の背景には、マオイスト内部の権力闘争、マオイスト内部にもマドヘシを見下すような風潮があった(と思われている)こと、マオイストが連邦制導入に関してテライを東西に分割したことはマドヘシの力を弱めようとする策謀だとの主張などがあるそうです。
(http://www.janjan.jp/world/0609/0609040638/1.php)
今年1月15日可決の暫定憲法を批判して、テライでは12日間に及ぶ大規模な騒乱が起こりました。
コイララ首相は1月31日にテレビ演説に臨み、政府とマオイストの前日の合意を踏まえ今後採択される新憲法で連邦制を導入すること、及び南部テライ地方住民の政治参加を拡大する方針を正式に発表しました。
首相は演説で、各地方の人口に 応じた選挙区の新たな配分を行うとも語り、テライ地方に住むインド系住民マドヘシ族代表の議席拡大が促進されると説明した。
また、騒乱の収束を訴え、内務大臣に対し抗議を続けるマドヘシ・グループとの話し合いを行うよう指示した。【2月1日 読売】
しかし、マドヘシの不満は解消しておらず、今回の爆弾テロがその関連だとすると今後の制憲議会選挙に向けて更に厳しさを増すことも考えられます。