孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ソマリア  横行する海賊行為 更に悪辣な連中も

2008-11-16 13:12:29 | 国際情勢

(ソマリア 海を眺める人々 写真の表題は“Hope” 無政府状態が続くソマリアで彼等が見つめる海のかなたにあるものは希望か・・・ その僅かな希望を食い物にするやからもいます。“flickr” By Abdi Cadani
http://www.flickr.com/photos/97603973@N00/2262089708/)

【海賊銀座 日本の被害も】
インドネシア近海と並んで海賊行為が横行するソマリアで、また14日、中国天津市の遠洋漁業会社所属のマグロ漁船「天裕8号」が武装海賊グループにより乗っ取られました。(正確には、事件発生場所はケニア沖ですが。)
船長は沖縄県出身の久貝豊和さんで、その他の乗組員は中国人15人、台湾人1人、フィリピン人3人、ベトナム人4人とのこと。

ソマリアとイエメンとの間のアデン湾は年間2万隻もの船が通航する要所ですが、無政府状態が続くソマリアでは約3000キロの長い沿岸を警備することが出来ず、海賊行為が野放しになっています。
アデン湾は、世界の石油輸送量の3割以上が通過するエネルギーの大動脈で、海賊の襲撃急増で保険料も昨年10倍に跳ね上がったそうです。

国際海事局海賊情報センター(クアラルンプール)が先月発表したところによれば、今年1-9月にソマリア沖とアデン湾の海域で海賊事件が未遂も含め計63件発生し、前年同期比で27件増加、世界全体199件の約3分の1に上ったそうです。

今年これまでに襲撃された船舶は60隻と、昨年からほぼ倍増していますが、支払済みの身代金総額は1800万-3000万ドルで、アメリカからテロ組織に指定されているソマリアのイスラム武装勢力アルシャバブの資金源になっているとも見られています。【10月20日 CNN】

日本関連の被害も急増しており、今年7月20日に日本の貨物船「ステラマリス」号が乗っ取られましたが、9月27日に200万ドル(当時レートで約2億1200万円)の身代金と引き換えに解放されています。
このほか、4月にはソマリア沖でタンカー「高山」が砲撃を受け損傷し、8月21日には同じくソマリア沖で日本が運航するパナマ船籍タンカーが乗っ取られています。
更に8月23日には貨物船「AIZU」が海賊からの攻撃を受けています。

【奪った積荷は戦車33両】
そんな多発する海賊行為のなかでも世界の注目を集めたのは、9月25日ソマリア沖で乗っ取られたウクライナの貨物船「MV Faina」号の事件です。
この船はケニア軍向けとされる旧ソ連製のT─72型戦車33台、砲弾、迫撃砲発射装置、小火器類などを積んでおり、ウクライナ人17人のほかにロシア人3人、ラトビア人1人の21人が乗り組んでいます。

海賊がこの積荷を最初から知っていたのかどうかはわかりませんが、海賊にはあまりにも“大物”すぎたようです。
アメリカ政府は兵器がソマリアの反政府武装勢力へ流出することを警戒しており、この海域をパトロールする多国籍艦隊の駆逐艦「ハワード」(米海軍第5艦隊所属)など軍艦3隻が海賊を直ちに追跡し、これを包囲しました。
ロシア海軍もフリゲート艦を現場海域に派遣しています。
最近では珍しく米ロ協調で対応にあたっています。

海賊側は当初3500万ドルを要求していましたが、その後2000万ドルに減額。
解放交渉は、海賊と運航企業、ウクライナ政府との間で行われていますが、今なお進展していません。
軍艦に包囲され、水・食糧も乏しくなるなかで、10月24日の報道では、苛立ちを強める海賊側は「攻撃を受けた場合は乗組員を殺害する」と警告しています。
(もし、海賊達が積荷のことを知らずに乗っ取ったのであれば、不謹慎な言い様ですが、ちょっとハリウッド映画にでもありそうな展開です。)

国連安保理は10月7日、ソマリア沖の公海上に海軍艦船や軍用機を派遣し、活動を活発化させている海賊制圧のため、武力行使を含む必要な措置を取るよう加盟各国に求める決議案を全会一致で採択しています。

これを受けてNATO各国の国防相は、ソマリア向け支援物資を積んだ世界食糧計画(WFP)の輸送船の護衛支援で、海軍艦船のソマリア沖派遣を承認。
WFPの輸送船の護衛と海賊対策を兼ねて、艦船7隻を派遣しました。
ソマリアのフセイン首相はこの派遣を歓迎することを表明し、NATOに領海内での軍事行動を認める考えを示しています。
領海内に逃げ込めば外国は手出しをできず、自国ソマリア政府は無政府状態で機能していないという“海賊の楽園”も若干勝手が違ってきているようです。

【暴かれる武器輸出の実態】
今回のウクライナ貨物船乗っ取り事件は、武器輸出に関する疑念をさらけ出す副産物を生んでいます。
アメリカ海軍は、積載されていた戦車などの兵器類が、ケニア向けではなく実際はスーダンに送られるものだったと主張、ケニア、ウクライナ両政府はこれを否定していました。

イギリスBBCは先月7日、「MV Faina」号の積荷目録だとする文書を公開し、同船が南スーダンに向かっていたことが明らかになったと報じています。
この文書によると、荷受人は「ケニア共和国、国防省」とされていますが、契約番号に書かれた「国防省」との文字のそばに「GOSS」とのイニシャルが書かれているとか。
これは最終使用者を示しており、GOSSは南スーダン政府(Government of South Sudan)の略称だと見られると報じられています。【10月8日 AFP】

ストックホルム国際平和研究所によると、ウクライナは2003年から2007年の5年間、武器輸出で常に世界のトップ10に入っています。
その一方で、1990年代、ブルキナファソ経由でリベリアへの武器輸出など、問題のある国家や政権に武器を輸出していた疑惑が持たれており、また、2002年には米国も、当時のサダム・フセイン政権下のイラクに対する経済制裁に違反し、ウクライナがイラクに軍事レーダーシステムを輸出していると非難しています。【10月3日 AFP】

こうした国際的な非難を機に欧米が積極的に関与し、その結果、現在のウクライナの武器輸出管理は、世界で最も優れたもののひとつになった・・・とも言われていましたが、やはり武器輸出という世界は秘密のベールに包まれたもののようです。

【海賊ビジネス】
ところで、事件を起こす海賊達については、元漁師が無政府状態で失業し転職したものが多いと報じられています。
“海賊の大半はハラゼレやホビョなど中部の漁村を拠点にしている。自動小銃やロケット砲で武装し、複数の高速艇で襲いかかるのが手口だ。約15年前から出没し始め、この1、2年で急増。漁業会社がそのまま漁船を使って「海賊会社」に衣替えしたケースがほとんどで、複数の武装集団に全体で300人ほどが属しているという。”【11月15日 朝日】

海賊の目的地とみられるエイルは、海賊ビジネスが“主要産業”の無法地帯で、BBCによると、現地では小型パソコンにスーツ姿の海賊用会計士や交渉人が闊歩し、街には人質用の特別レストランもあるそうです。【9月29日 産経 犬塚陽介】

【もっとあくどい所業】
海賊を弁護する訳ではありませんが、海賊の狙いは人質にとった船員の身代金で、実際に人質に危害を加えたと報じられた事例はほとんどないようです。
そうした点においては、海賊よりもっとあくどい連中がいます。
ひとつは、紛争地に武器輸出する連中。
もうひとつが、下記の記事のような連中です。

***移民希望者ら、「追加料金払え」とイエメン沖で海に投げ出される****
ソマリアから対岸のイエメンへ向かっていたボートで、最大40人が移民斡旋業者により海に投げ出され、うち12人の遺体がイエメンに漂着した。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が4日明らかにした。
生存者などの話によると、115人を乗せたボートはソマリア北部を前月31日に出発し、アデン湾の対岸にあるイエメンを目指した。
だが2日になって、斡旋業者がすべての乗客に対し、追加料金を要求。これを拒否、または払えなかった乗客は斡旋業者に殴打され、40人程度が海に投げ捨てられた。その大半がエチオピア人だったという。
乗客は全員、斡旋業者に前もって100ドル(約1万円)を支払っていたという。
残りの75人は、イエメンのAhwarにあるUNHCR事務所に到着し、手当を受けている。

UNHCRによると、今年1-10月にソマリアからイエメンに渡った移民希望者の数は3万8000人以上。前年は総計で2万9500人だったことから、急激な増加を示している。なお、航海中の死者・行方不明者数は、今年だけで既に600人を超えている。【11月5日 AFP】
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この種の話は以前から報じられています。
なけなしのお金を奪ったあげく、海に放り出す・・・背筋が寒くなる、人間性のかけらも感じられない行為ですが、こうした行為が横行しているのがソマリアの現実であり、私達が生きている世界です。

日本も、諸外国と同調し自衛隊を海賊対策のためこの海域に派遣すべく新法を検討しているとも言われていますが、このソマリアの現実をなんとかしない限り海賊も根絶できませんし、ソマリアに暮らす人々の明日もありません。



コメント (1)
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