
(グリーンランドのチューレ 飛行機でお手軽に北極観光が楽しめるようですが・・・ “flickr”より By Erik Charlton
http://www.flickr.com/photos/erikcharlton/332142723/)
【4個目、発見できず】
世の中には、関係者にはよく知られているが世間にはあまり知られていない・・・という話が多数あります。
グリーンランドで米軍が紛失した核兵器をそのまま遺棄していたという下記の話もその類でしょう。
グリーンランド自治政府は以前から核兵器が発見されていない事実を承知していたそうですが、私などは初耳です。
****米軍、冷戦期に行方不明の核兵器をグリーンランドに遺棄 英BBC ****
英国放送協会(BBC)は10日、1968年に核兵器を搭載した米軍のB52爆撃機がグリーンランド北部チューレの米空軍基地近くに墜落した際、米国は懸命の捜索にもかかわらず行方不明となった核兵器を発見できず、そのまま遺棄していたと報じた。関係者の証言や情報公開法によって入手した機密文書によって明らかになったという。
チューレの米空軍基地は1950年代初めに建設され、北極上空を飛んでくるミサイルを警戒するレーダーを備えるなど、ソ連(当時)との冷戦において戦略的に非常に重要な基地と位置付けられていた。
米政府は、ソ連が米国本土への核攻撃の前段階として同基地を攻撃してくることを懸念していた。そのため、米軍は1960年から同基地に核兵器を搭載したB52爆撃機を配備し、周辺の警戒にあたらせた。同基地がソ連から攻撃を受けた場合は、B52はただちにモスクワに向かうことが可能だったという。
だが、BBCによると、1968年1月21日、同基地に配備されていたB52のうち1機が、基地から数マイル離れた場所にある氷原に墜落。その際、ほかの爆発物は爆発したものの、搭載されていた4個の核兵器自体は爆発しなかったという。
捜索によって、放射線を浴びた破片を含んだ氷など数千個にも及ぶ破片類が回収されたが、4個の核兵器のうち1個が回収できなかったという。同年4月には海中の捜索も行われたが何も発見されず、結局、捜索は打ち切られた。
米国防総省は、以前に発表されていた4個の核兵器すべては「破壊された」とする公式見解に言及するのみで、今回のBBCの報道についてはコメントを避けた。【11月12日 AFP】
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本来“見つからない”ではすまないものですが・・・。
発見できなかったこともさることながら、そのことを公にしてこなかった隠蔽体質が気に入りません。
隠蔽体質は米軍だけでなく、日本国内を含め、あちこちで見られることではありますが、核兵器となると周辺住民の生命にかかわります。
【人間にも関心を向けるべき】
****米軍核兵器遺棄問題で、周辺住民の健康診断要請 グリーンランド****
デンマーク領、グリーンランドの自治政府高官は14日、米軍が40年前に核兵器を遺棄したチューレ周辺の住民の健康診断を求める方針だと語った。
グリーンランド出身で、デンマーク議会でグリーンランド問題を扱う委員会の委員長を務めるLars-Emil Johansen議員はAFPに対し、「核兵器をなくした『犯人』を見つけることは問題ではなく、チューレに住む先住民イヌイット(エスキモー)の健康への影響が懸念される」と語った。(中略)
Johansen氏は「海洋環境や魚類およびほ乳類への調査は多数行われているが、住民に対してはほとんどない。人間にも関心を向けるべきだ」と語った。
一方、グリーンランド自治政府のPer Berthlesen外相は12日、BBCの報道について、自治政府は以前から、核兵器が発見されていない事実を承知していたと述べたうえで、環境への「影響はない」とした。Berthlesen外相は、BBCの報道を受け、米国およびデンマーク両政府からの応答を待っていると語った。【11月15日 AFP】
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遅まきながら・・・というところでしょうか。
確かに、紛争地で生命を脅かされている人々、飢餓に苦しむ人々、人権を侵害され過酷な人生を強いられている人々・・・そんな“どこにでもある”辛気臭く面白くもない話より、クジラやシロクマ絶滅の危機といった話の方がお茶の間での関心を引きやすい・・・というのは現実世界の事実です。
【“持ち込まずは有名無実で誰が見ても無理”】
先日、NHKスペシャルで「こうして“核”は持ち込まれた~空母オリスカニの秘密~」という番組を観ました。
日本政府の非核三原則にもかかわらず、朝鮮戦争からベトナム戦争までの27年間アメリカ第7艦隊の主力空母として日本を拠点に活動していた空母オリスカニには核兵器組み立て工場があり、核兵器が日本に当たり前のように持ち込まれていたという事実を関係者の証言等で明らかにしたものです。
番組によれば、空母オリスカニだけでなく、相当に広範な艦船に核兵器が積み込まれているようです。
冒頭の核兵器遺棄問題とは異なり、三原則の“持ち込ませず”については空文にすぎない・・・ということは、ある意味では周知のところではあります。
核保有については時折政治家の発言が話題になることがありますが、持込については最近は話題にすらなりません。
ただ、そのように皆が薄々感じているところではありますが、政府も未だ非核三原則を公式に否定している訳ではありません。
“否定せず堅持すること”に、まだそれなりの意味あいもあるのでしょう。
番組で最も印象的だったのは、核持込の事実よりも、元防衛事務次官夏目晴雄氏が「作らず、持たずはよいが、持ち込ませずは有名無実で誰が見ても無理。アメリカが『ない』ということだから、『ない』ことにしておこうということだった」といった趣旨の“そんなこと皆知っているじゃない。何を今更・・・”という感じの発言を、実に楽しそうに笑いながらしていたことでした。
元防衛事務次官という立場でそんなことを軽々に語っていいのだろうか?と非情に不可解に感じた次第です。
田母神前空幕長の一件といい、上記の元元防衛事務次官の開けっぴろげな言い様といい、“戦後レジーム”は空洞化しただけでなく、やすやすと踏み潰される存在に成り果てたようです。
番組でもうひとつ印象に残ったのは、アメリカの核抑止力を守るべく自衛隊が三海峡を封鎖してロシア海軍を封じ込める戦略について、米軍関係者が日本列島を“盾”と表現していたことです。
アメリカの核の傘の下に安穏としているつもりが、アメリカの核戦略を守る“盾”になっている・・・というのも皮肉な感じです。
“不沈空母”ではなく“沈まぬ盾”です。
“盾”ということであれば、当然攻撃の矢面に立つことになります。
【ポストSTART1】
話が横道に逸れてきました。
核軍縮について、第1次戦略兵器削減条約(START1)が、来年09年12月に失効します。
“次”をめぐっての米ロの交渉が伝えられています。
*****米露:新たな戦略核削減条約へ協議開始*****
米国とロシアは12日、09年12月に失効する第1次戦略兵器削減条約(START1)に代わる枠組みに関する協議をジュネーブで開始した。米国が進める東欧へのミサイル防衛(MD)配備と密接に関連しており、同1月のオバマ米次期政権発足後に本格化する交渉では、MD計画に慎重姿勢を示してきたオバマ氏の姿勢が問われる。
ロイター通信によると、米国はすでに▽東欧に配備されたMDをロシア側が査察できる▽新条約で核弾頭の数を制限する--の2点提案した。
だが、ラブロフ露外相は8日、ライス米国務長官との会談後に米提案への不満を表明するとともに、オバマ次期政権との対話に期待を示唆した。
冷戦終結直後の91年に調印されたSTART1は、核弾頭を載せた弾道ミサイルの数などを制限している。ロシア側は、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大などで安全保障環境が劇的に変わったとして、「START1に代わる核軍縮に関する新たな条約を作ることが重要」(メドベージェフ大統領)と主張している。
【11月13日 毎日】
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使うとお互い破滅に至ることがわかっている兵器を大量に保持して威嚇しあう愚かさ自覚して欲しいのですが。
日本を盾に使われては困りますので。