(“flickr”より By cactusbones
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【「オスロ・プロセス」とCCW】
クラスター爆弾については、多くの不発弾が残存し、民間人が長期にわたって被害に苦しむ現状があり、その使用禁止・制限に向けた国際的な取組みが「オスロ・プロセス」とCCWの二本立てで進められてきました。
「オスロ・プロセス」はノルウェーなど有志国や非政府組織が主導する軍縮交渉です。
今年5月、爆弾2個の最新型などしか例外を認めない、ほぼ全面禁止と言ってもいいような厳しい内容で、日英独仏など107カ国が合意しました。
来月12月3日、ノルウェーの首都オスロでクラスター爆弾禁止条約の署名式が開催されます。
この条約により、署名国はクラスター爆弾の使用、製造、輸出入、保有などのほぼ全面的禁止が求められます。
また、同条約ではクラスター爆弾の被害者への補償や不発弾の処理なども規定されています。
周知のように、米国やロシア、中国、インド、イスラエル、パキスタンなどのクラスター爆弾の主要製造国や保有国は「オスロ・プロセス」ダブリン会議を欠席しています。
米中露などクラスター爆弾保有国はオスロ・プロセスには参加せず、国連に事務局を置く「特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)」締約国会議でクラスター爆弾の規制について議論していますが、今年1月に始まった交渉は、骨抜きを狙うロシアなどの存在もあって進展せず、今月11月の会議で決裂しかけましたが、一応、仕切り直しで来年引き続き合意を目指すことにはなっています。
【欧州の対応変更、困惑する日本】
ほぼ全面禁止を合意した5月の「オスロ・プロセス」ダブリン会議では、英独仏など主要国が従来の主張を捨てて禁止の方向で大きく舵を切るなかで、日本政府の周囲を窺う消極的な姿勢が際立ちました。
****「全面禁止」合意 被害国意向受け、人道配慮を最優先*****
英独仏など主要国はオスロ・プロセスが始まった昨年の段階では全面禁止に強い難色を示していた。しかし、英国はブラウン首相が会議に合わせ、英軍が保有するクラスター爆弾の見直しを発表。さらに28日、全廃を政治主導で決断した。
受け入れを表明した英政府代表は28日、「私たちは、罪なき市民の人命を左右する変革を実現する、その直前まで達した」と、人道的配慮を重視したことを明らかにした。
フランスも主体的に廃棄を決断。保有するクラスター爆弾の9割強にあたる旧式爆弾の配備停止を決め、仏政府代表は28日の協議で「政府に条約案を速やかに承認するよう勧告する用意がある」と述べた。
ドイツは日本と足並みをそろえて、禁止までの猶予期間の設定を求め、認められなかった。しかし、条約案には不満を残しながらもやはり人道的な配慮を優先。「この条約案を受け入れる」と表明、米国などを念頭にオスロ・プロセスの参加国を拡大する必要性を強調した。
これに対して途上国の評価は高く、アフリカ諸国からは賛辞が贈られた。
欧州主要国の政治主導の合意決断に比べ、日本があいまいな態度に終始したのは会議で際立っていた。【5月29日 毎日】
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日本政府の当時の反応は、“進展する事態に困惑”といったところでした。
*****「全面禁止」条約案合意 日本、賛否明言せず*******
町村信孝官房長官は5月29日午前の記者会見で、ダブリン会議の合意について「今、審議中だ。詳細は聞いていない」と述べるにとどめた。高村正彦外相も28日、「首相の意思もあるので日本としては積極的に貢献し、良いコンセンサスを得られるようにしたい」と述べたが、具体的賛否は明言を避けていた。
政府は、オスロ・プロセスが事実上の全面禁止という予想外の厳しい内容で合意したことに困惑している。条約に加盟すれば「最新型」はないため、現有爆弾の全廃を強いられる。安全保障上の懸念から防衛省側は強く抵抗している模様だ。
日本は加盟の意思表示を12月の署名まで先送りするつもりだったが、英独仏など主要国が受け入れを表明する中、国際的孤立を深め、早急な政治決断を迫られている。【5月29日 毎日】
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周囲の様子を窺うこと、いたずらに突出しないことも、ときに外交上必要なことではありますが、日本外交の自己主張のなさは、いささかうんざりする感もあります。
【欧州議会 署名を求める決議】
ダブリン会議後も禁止に向けた流れは止まらず、EUの欧州議会は今月20日の本会議で、「オスロ・プロセス」のクラスター爆弾禁止条約にEU加盟27カ国を含むすべての国が署名するよう求める決議案を採択しました。
同時に、CCW締約国会議で例外規定の多い規制条約案が論議されている点について、これを支持しないようEU加盟国に求めています。
欧州議会の決議に法的拘束力はありませんが、態度保留国に政治的圧力をかける狙いがあるとされています。
EU加盟国のなかでも、対応を明らかにしていない国もありますが、禁止条約に署名しないことを明らかにしているのがフィンランドです。
“フィンランドはロシアに占領された歴史がある。地元メディアなどによると、バンハネン首相は「国境を守る上で必要。あくまで国土防衛のために使う」と説明した。一方で、代替兵器の配備や費用を検討した上で、将来的に調印する意向も示した。不発弾の除去など人道的な活動には協力するという。 ”【11月1日 朝日】
【日本も廃棄の方向で】
全面禁止への流れのなかで、日本政府もようやく思い腰を上げたようです。
****日本、全廃へ 最新型も保持せず*****
不発弾が市民に被害を与えているクラスター爆弾について、政府は、現有爆弾を全廃したうえで、欧州諸国が維持する「最新型」のクラスター爆弾も今後、導入しない方針を固めた。これで日本はあらゆるクラスター爆弾を保持しないことになる。人道面を重視したためで、代わりに子爆弾をまき散らさない単弾頭の爆弾を整備するため、約73億円を09年度予算に計上する。
日本は、子爆弾を数百個まき散らし、不発率が極めて高い「旧型」や「改良型」のクラスター爆弾を4種類保有している。政府は12月3日、クラスター爆弾禁止条約に署名する予定で、09年度から廃棄方法の調査を始める。批准後は8年以内に廃棄する義務を負う。【11月21日 毎日】
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例外として保有が認められており、欧州各国が導入するとみられる「最新型」についても、不発弾による被害が完全になくなる保証がなく、コストもかさむため、導入を見送る方針です。
日本は、海岸線から上陸する敵の「着上陸侵攻」を、大量の子爆弾をまくことで「面的に制圧」するため、クラスター爆弾を配備してきました。しかし、現在は着上陸侵攻の可能性が考えにくく、「面的制圧」の効果を疑問視する見方もあり、防衛省や一部自民党内の反対を抑えて、必要性が低いと判断したとのことです。
12月3日にオスロで開かれる署名式では、署名国は110カ国を超える見通しで、日本からは中曽根弘文外相が出席し署名します。
【被害者支援】
****クラスター爆弾:被害者支援などに6億円拠出へ 日本政府*****
政府はオスロで12月3日に行われる軍縮交渉「オスロ・プロセス」のクラスター爆弾禁止条約署名式で、クラスター爆弾による被害者支援などを含む不発弾対策に今後1年間で約600万ドル(約6億円)の拠出を表明する方針を固めた。禁止条約の中には、こうした条約としては異例の「被害者に対する支援」が組み込まれており、日本としては平和構築の分野で積極的な姿勢をアピールする狙いがある。
署名式には中曽根弘文外相が出席の意向を固めている。署名式で行う演説の中では、不発弾が無差別に市民を殺傷するクラスター爆弾の使用回避などを訴える。また、戦後復興支援のための国際協力を呼び掛ける。
市民団体「地雷廃絶日本キャンペーン」によると、97年締結の対人地雷禁止条約では、政府は100億円以上の国際協力を実施した。だが、地雷除去の調査研究費や機材などハード面に偏り、被害者支援は全体の11%未満にとどまった。クラスター爆弾の被害者支援の拡大は今後の課題でもある。【大谷麻由美 11月26日 毎日】
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「オスロ・プロセス」にはクラスター爆弾保有国が参加していないとは言っても、国際世論は確実に“禁止”に向けて流れを強めます。
昨今の世界情勢においては、たとえ紛争においても国際世論の動向を無視できません。
署名しないクラスター爆弾保有国も、今後その使用は大きく制約されることになります。
また、CCWの議論にも影響を与えることが予想されます。
米中ロといった超大国以外の国々が世界の流れをつくっていくという意味においても、意義がある取組みです。
これまで取組みが遅れた日本政府ですが、“被害者支援などを含む不発弾対策に今後1年間で約600万ドル(約6億円)の拠出”というのは評価できる対応かと思います。
今後とも、こうした方面での国際的イニシアティブを発揮してもらいたいものです。