
(ミンダナオ島の中心都市ダバオ 8月第3週に行われるお祭りKadayawan Sa Davao(季節の果物やランの花の収穫を祝うお祭り)を楽しむ少女
アメリカではオバマ氏が“ひとつのアメリカ”を訴えて共感を得ましたが、世界中のあちこちでは争いで引き裂かれた暮らしばかりです。
“flickr”より By ED :-)
http://www.flickr.com/photos/belarminoed/2791419669/)
【約40万人の避難民】
一昨日のインドネシア、昨日のカンボジアの話題に続いて、今日はフィリピン。
フィリピン・ミンダナオ島のイスラム反政府勢力「モロ・イスラム解放戦線」(MILF)とアロヨ政権との間の和平交渉の破綻については、8月23日ブログ「フィリピン ミンダナオ島 MILFとの和平交渉破綻 戦闘激化」で取り上げたところです。
一旦はMILFが拠点とするミンダナオ島にあるイスラム系住民の「ホームランド(先祖伝来の土地)」について、独自の治安維持、金融、行政事務、教育、法律などのシステムを認めるほか、天然資源の管理に完全な自治権を与えることなどが盛り込まれた合意の方向でアロヨ政権は動いていましたが、一部政治家らが「国の中にもう一つ国を作るようなものだ」、「憲法違反」だと反発、ミンダナオ島のキリスト教系住民も抗議デモを行う中、フィリピン最高裁が和平合意文書の調印を一時差し止める決定を下しました。
このため、8月21日、アロヨ大統領は和平合意を破棄することを発表しました。
これ以降、国軍とMILFとの戦闘が激化、8月以降、政府発表で一般住民を中心に91人が死亡、約40万人の避難民が出ています。
9月には、政府はMILFとの和平交渉団を解散。
アロヨ大統領は交渉再開の条件として、MILFの武装解除を求めていますが、MILF側は「軍事面のアプローチは交渉の最終段階の問題であり、(新交渉の枠組みとして)受け入れることはできない」として、現状では武装解除に応じないとの立場を崩していません。
MILFの内部も1枚岩ではないようで、国軍と特に激しくぶつかっているのは、それぞれ「カト」「ブラボー」という指揮官に率いられたふたつのMILF分派組織であると報じられています。
政府は、全面戦争を宣言した両指揮官に、残虐行為を行ったとして1000万ペソ(約2000万円)の懸賞金をかけ、行方を追っています。【10月31日 毎日】
【気がつくと冷たくなっていた・・・】
戦闘激化は住民に大きな犠牲を強いています。
****フィリピン:ミンダナオ島戦闘激化 物資届かず子供犠牲に****
フィリピン政府とイスラム反政府組織「モロ・イスラム解放戦線」(MILF)の和平交渉が決裂した、比南部ミンダナオ島。8月以降、激化した国軍とMILFの戦闘で、約38万人の住民が山間部の郷里の村を捨て、避難生活を強いられている。約4万人の避難民が流入した島西部のダトゥピアン町では、栄養失調や感染症で子供たちの命が失われている。町には援助物資も十分に届かず、飢えの危険も迫っている。
同島西部の中心都市コタバト市から車で1時間半。町へ向かう側道に入ると国軍の警備が急に厳重になった。
町は避難民であふれていた。「何もしてあげられなかった」。孫の3歳と1歳の兄弟を赤痢で亡くしたアユクダイさん(70)は、テントの前で声を押し殺すように話した。
国軍の空爆が迫ったため、9月初旬に息子一家と逃げてきた。間もなく、元気に走り回っていた3歳の兄はテントで横になる日が多くなり、弟も泣く回数が減った。
10日に1度配給される米を与えても、すぐに下痢をした。今月12日の夜、気がつくと兄が冷たくなっていた。ぼうぜんと夜明けを待つと、弟も後を追うように息を引き取った。
村への立ち入りを阻止する国軍に無理やり頼んで、2人の遺体を故郷の村に埋葬した。「孫のいる村に戻りたい」。アユクダイさんはそう繰り返す。(中略)
国軍は「危険」を理由に、町へ通じる道を通行止めにするため、国際機関からの援助の食糧や飲料水が十分に届かない。
地元の援助団体メンバーは「政府は、海外とつながりのある援助団体などを危険だとして町に立ち入らせない。
町の住民はイスラム教徒で、MILF側に物資が渡るのを恐れているからだ」と指摘する。 【10月28日 毎日 矢野純一】
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【「親友がわざと狙いを外しているように感じる」】
以前はイスラム教徒とキリスト教徒が共存し、普通に友人として暮らしていた村の生活も紛争で引き裂かれています。
上記同様、毎日・矢野純一のルポです。
****やまない銃声:比・ミンダナオ島の現場から/上 親友が「敵」の兵士に*****
「小学校時代の親友が率いるMILF小隊が、ここを攻撃してくる」。同島北コタバト州バリキ集落の代表、マリヨールカさん(51)はうつむきながら話した。
332家族が暮らすバリキ集落は、全員がカトリック教徒だ。まわりをぐるりとイスラム教徒の集落に囲まれている。親友は少年時代、隣の集落からバリキの小学校に通っていた。
親友が「敵」の兵士になっても、関係は変わらなかった。コメの収穫期には、親友が率いるMILFの下級兵士を農作業に雇うこともあった。「上官からの命令がない限り、攻撃はしないよ」。周辺を支配下に置く親友とは、互いの集落に立ち入るときは武器を持ち歩かないことも約束していた。
だが8月初旬、戦火は瞬く間に広がった。バリキ集落も3週間にわたって毎晩、MILFの砲撃を受けた。隣の集落との境界付近の5軒の家は、侵入してきた兵士に焼かれた。
住民の要望で、自衛のための民兵組織を作った。18歳以上の男性住民全員が武器を持ち交代で集落を守る。自動小銃などは軍や警察がくれた。自身も、家を出るときは拳銃を手放せない。
今も2、3日おきに交戦があるが、負傷者は一人も出ていない。「親友がわざと狙いを外しているように感じる」という。
イスラム教徒の集落は国軍の攻撃を受け、全員が避難している。マリヨールカさんは避難した住民に、バリキで一緒に暮らすよう呼びかける。
肥よくな土地のミンダナオには大規模な農園があり、豊富な地下資源が眠るといわれている。「我々の間には何も問題がなかった。戦闘は政治家の利権争いだ」。マリヨールカさんはつぶやいた。【11月11日 毎日】
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「親友がわざと狙いを外しているように感じる」というのは、感動的でもありますが、悲しすぎる現実です。