孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

リビア  国際関係進展 カダフィ大佐「地政学的な力の均衡回復を促進する」

2008-11-03 13:51:09 | 国際情勢

(今年3月 シリア・ダマスカスで開催されたアラブ連盟首脳会議に出席したときのカダフィ大佐。 この人は昔から女性親衛隊を組織していると聞いていますが、写真後ろの女性がそうでしょうか。
“flickr”より By Ammar Abd Rabbo
http://www.flickr.com/photos/21499556@N04/2568931874/)

【イタリア政府 空爆情報をリーク】
1986年4月15日にアメリカがリビアの最高指導者カダフィ大佐を狙って、首都トリポリの居宅などを空襲するリビア爆撃事件というものがありました。
当時極端な反米路線をとっていたリビアはアメリカからテロ支援国家の指定を受けていましたが、リビアのテロで西ベルリンのディスコが爆破され米国人2人が死亡した事件に対する報復として、カダフィ大佐を“砂漠の狂犬”と呼んでいたレーガン大統領が決行した攻撃でした。
この爆撃でカダフィ本人は難を逃れましたが、彼の養女を含む41人が犠牲になっています。

****カダフィ大佐:命拾い? 1986年の米空爆、イタリアがリビアに事前通報****
1986年に米軍の空爆を受けたリビアに対し、イタリア政府が直前に空爆の機密情報を伝えていたことが、明らかになった。
リビアのシャルガム外相が30日、ローマでの2国間会議で明らかにした。当時、イタリアのクラクシ左派政権は米レーガン政権の強硬策に反対していた。米軍の空爆は、リビアの最高指導者カダフィ大佐を狙ったものだっただけに、結果的にカダフィ氏を救った形だ。
(中略)リビアはイタリアの旧植民地。伊ANSA通信によると、当時、リビアの駐イタリア大使をしていたシャルガム外相は、出撃の前日、イタリア政府から空爆の情報を聞いた。情報伝達は、クラクシ首相(当時)とアンドレオッティ外相(同)の決断だったという。【11月1日 毎日】
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イタリアのリークが一撃必殺を狙っていたアメリカの意に反するものだったのか、それともアメリカはリークがなされることを前提に、“脅し”として決行したのか・・・そのあたりはわかりません。
リビアはこの事件の後、報復と思われる88年米パンナム機爆破(犠牲者270名) 、更に89年UTAフランス機爆破(犠牲者170名)を起こしています。

【口実はいかようにも・・・】
航空機爆破テロは論外ですが、リビア爆撃も相当に荒っぽい行動です。
西ベルリンディスコ爆破事件の報復と言うより、“力の行使”の意志が当初からあり口実を探していたというところでしょう。
口実がなければ、無理にでも作り出すまでです。ベトナムでも、イラク・アフガニスタンでも同じような世界です。

【リビア・カダフィ詣で】
一連の事件で反逆者として世界から孤立していたリビアですが、その後、航空機爆破事件の容疑者引渡しや遺族への補償、核兵器開発計画の放棄など、国際社会復帰への方針転換を図ってきています。
その甲斐あって、03年9月には国連安保理が対リビア制裁を解除。

そうなると、リビアはアフリカではナイジェリアに次ぐ石油産出量を誇る石油・天然ガスの資源大国(石油確認埋蔵量世界第9位)ですし、豊富な資源収益で武器や原子炉を購入してくれるお客様ですから、甘い蜜に引き寄せられる蟻のように各国首脳が次々とリビアを訪れるようになっています。

特に、リビアで児童をエイズウイルスに感染させたとして同国で終身刑を命じられたブルガリア人看護師ら医療関係者が、フランスの働きかけもあって昨年7月に解決した直後の、サルコジ大統領、カダフィ大佐の相互訪問、それに伴う海水の淡水化に使われる原子炉建設などに関する協定、武器購入、航空機の大型商談など目を見張るものがありました。(07年7月26日ブログ「フランス 電光石火!リビアと原子炉建設の覚書」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070726 )
セシリア仏大統領夫人(当時)の活躍など表舞台とは別に、水面下で進んでいたギブ・アンド・テイクの国際交渉が窺われ、興味深いものでした。

もっとも、サルコジ大統領、カダフィ大佐双方とも個性豊かな人物ですので、こんな話も。

***仏を公式訪問中のカダフィ大佐、物議醸す言動連発****
フランスを34年ぶりに公式訪問中のリビアの最高指導者カダフィ大佐の言動が物議を醸している。
大量破壊兵器開発やテロとの決別を宣言、欧米との関係強化に執心する大佐だが、「普通の国」の指導者と認知されるまでには、なお時間がかかりそうだ。
発端は、10日に行われた1度目の首脳会談後の発言。サルコジ大統領が報道陣に、「大佐には人権状況の改善を求めた」と語ったところ、カダフィ大佐は、「その話はなかった」と真っ向から否定。ホストの顔に泥を塗る形となり、「二人は互いをウソつき呼ばわりした」と仏メディアを騒がせた。
さらに、大佐は、アラブ、アフリカ系在仏移民を多数招いた11日の講演で、「フランスは人権を語る前に、自国内のアフリカ大陸からの移民の人権を守れ」と発言。クシュネル仏外相が「くだらん」と異例の言葉遣いで反発した。【07年12月13日 読売】
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この国と付き合うためには、ジャブを打ち合いながらテーブルの下で交渉するようなタフな付き合い方が必要なようです。

【「世界は変わった」】
今年9月には、ライス米国務長官がリビアを訪問してカダフィ大佐と会談。
米国務長官のリビア訪問は53年のダレス氏以来、55年ぶりで、背景には、イランや北朝鮮に対し、03年に核兵器開発計画を放棄したリビアが「モデル」になる、とのメッセージを発信したい米ブッシュ政権の思惑があったとか。(9月7日「アメリカ・リビア、トルコ・アルメニア  「永遠の敵はいない」」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080907 )

このとき、ライス長官は会談後の記者会見で「過去の教訓から学び、前向きに進むことの重要性について語り合った。米国に永遠の敵はいない」と発言。
会見に同席したリビアのシャルガム外相も「リビアは変わった。米国も変わった。世界は変わった。過去は忘れよう」と述べています。

“前向きに進む”ことはとてもいいことです。
その仇敵アメリカとの関係について、こんな記事が。

****リビア、米に15億ドル支払う=パンナム機爆破などの遺族補償で****
米国は31日、1988年に英スコットランド上空で起きた米パンナム機爆破事件などの犠牲者の遺族への補償として、リビアから15億ドル(約1500億円)が支払われたと発表した。これで両国関係の完全正常化に向けた最後の障害が取り除かれた。
支払い完了を受けて、ブッシュ大統領はリビアに対する訴訟を取り下げる大統領令に署名した。補償交渉に当たったウェルチ米国務次官補(中東担当)はワシントンで記者会見し、テロの犠牲者の遺族は数日以内に支払いの受け取りを開始することになろうと語った。同次官補はさらに、「これにより、米国とリビア間の関係正常化への最後の障害が取り除かれる」と表明した。【11月1日 時事】
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米パンナム機爆破事件犠牲者遺族への補償は03年に始まっていると聞いていますので、これは最後の支払いが済んだということでしょうか。
いずれにせよ、次期アメリカ大統領がオバマ氏になれば、過去にこだわらない方針のようですから、リビアとの関係も更に進展しそうです。

【地政学的な力の均衡回復】
一方、カダフィ大佐は欧米に偏らない“(世界の)地政学的な力の均衡回復を促進する”お考えのようです。

***リビア、ロシアにエネルギー協力呼びかけ 首脳会談****
ロシアを訪問中のリビアの最高指導者カダフィ大佐は1日、クレムリンでメドベージェフ大統領と会談した。
インタファクス通信によると、カダフィ大佐は石油・ガス分野での協力が急務だとし、民間レベルの交流拡大を呼びかけた。両首脳は軍事分野でも話し合う見込み。リビアの兵器は9割が旧ソ連製とされ、更新が必要な状況にある。
また、ソ連時代はリビアの港をソ連海軍が使っていた経緯があり、地中海沿岸のベンガジにロシア海軍基地を置くことも議題にあがるとの見方が出ている。【11月1日 朝日】
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カダフィ大佐は、力の均衡が崩れた結果、経済や安全保障の分野で危機が生まれていると指摘し、ロシアとの関係強化を進める考えを表明したそうです。
世界の危機についてカダフィ大佐からご高説を拝聴するとは、確かに「リビアは変わった。米国も変わった。世界は変わった。過去は忘れよう」・・・のようです。

コメント
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