(アフガニスタン 道路脇に身を寄せる女性ふたり 今後の展開が彼女等が暮らしやすくなる方向で進めばいいのですが・・・
“flickr”より By N_Creatures
http://www.flickr.com/photos/anitzsche/269206226/)
【8月のアフガニスタン大統領選挙】
オバマ大統領派はアフガニスタンへの米兵1万7000人の増派を承認しましたが、大統領はできれば6週間ほどあとに届くアメリカの戦略について詳細な検証報告を待ちたかったとのことです。
報告を待てず、見切り発車を余儀なくされたのはアフガニスタンで行われる大統領選挙の日程のためです。
アフガニスタンでは現在のカルザイ大統領の任期が5月21日に切れますが、当然、大統領選挙は任期満了前に行うことが憲法では規定されています。
しかし、タリバンの攻勢によって東部と南部の大半で有権者登録ができていない現状があって、8月20日に延期されることが決まっています。
(任期満了から選挙までの空白期間は、暫定統治機構の設置などで乗り切ることが検討されています。)
この8月20日までに治安を安定させ、大統領選挙を有効に行うためには、速やかに増派を承認する必要がありました。
実際に増派が始まるのは5月後半とのことで、それから配備された部隊が現地を掌握する時間を考慮すると、増派承認をこれ以上待てなかったとのことのようです。【3月4日号 Newsweek】
大統領選挙に向けては、米軍だけでなくNATO加盟国の協力も必要になります。
2月20日にポーランド南部クラクフで開かれた北大西洋条約機構(NATO、加盟26カ国)国防相会議で、ゲーツ米国防長官はアメリカ以外の加盟国にも増派を強く要請しました。
ゲーツ長官は会議後、記者団に対し「ここ数日間に19もしくは20カ国が文民か軍部隊、訓練要員の増派を表明した」、「4月初めのNATO首脳会議に向け良いスタートを切った」と語っています。【2月21日 時事】
しかし、“数百人規模の追加派兵を発表したドイツ、イタリア以外から新たな増派方針の表明はなかった模様だ。英仏は増派に消極的で、米国が提案している「NATO即応部隊」のアフガン派遣案にはドイツが難色を示しているという。”【2月20日 毎日】とも報じられています。
とにもかくにも、8月に遅らせた大統領選挙に間に合うようになんとかしようとしているアメリカですが、一方でカルザイ・アフガニスタン大統領は逆に4月中の実施を求めています。
****アフガン:大統領選、4月実施も カルザイ氏が前倒し要求****
アフガニスタンのカルザイ大統領は28日、選挙管理委員会が8月に実施すると決定した大統領選について、憲法規定通りの実施を要求、5月の任期満了前に選挙日程を前倒しする考えを明らかにした。国営テレビが伝えた。4月中に実施される可能性が出ている。
カルザイ氏は再選に向けて出馬の予定で、前倒しで他候補の選挙運動を妨害する目的もあるとみられる。反発は必至で、日程確定までには曲折がありそうだ。【3月1日 毎日】
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現在のところ、カルザイ大統領以外に有力対抗馬も出ていないことから、投票前倒しで選挙を有利に進めたい狙いがあるとみられており、野党側が反発するのは必至の情勢です。
当然ながら、選挙を瑕疵なく行って、その後のアフガニスタン“民主化”戦略の基盤にしたいアメリカの思惑(アフガニスタンをベトナム化させず、アメリカにとっての“出口”を確保していくことを含めて)とは逆方向です。
今この時期に“4月中実施”と言っても、現実的に無理なような気もしますが。
【パキスタン 武装勢力と和解】
アフガニスタンでのタリバン等の活動を支え、アルカイダの温床となっているとして、アメリカが重要視しているパキスタン北西部のアフガニスタン国境隣接地域でも動きが見られます。
****パキスタン混迷 米国との連携に影 国境にタリバン侵食*****
パキスタンの北西辺境州などでは、地元政府とタリバンの停戦や、タリバン勢力同士の協力強化が進んでいる。スワト地区周辺ではタリバンが無期限停戦を表明したのに続き、同州西隣の部族地域バジョール地区でもタリバンと軍が暫定的な停戦で合意。南北ワジリスタン両地区では対立関係にあったタリバン組織の“和解”が成立した。
一連の動きは関連しているとの見方がもっぱらで、背景にはアフガンのタリバン最高指導者オマル師の存在がささやかれている。オマル師が、パキスタン国内の武装勢力に対し「戦力をアフガンの米軍や北大西洋条約機構(NATO)軍に集中させるべきだ」と指示したとの報道もあり、米軍のアフガン増派を見据えた動きだとみられている。地元関係者は「武装勢力は南ワジリスタンからスワトなどへと移動しながら兵を増やしてきた」として、武装勢力が拡大する可能性を指摘している。【2月28日 産経】
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スワト地区での恒久停戦の条件として、イスラム法の導入のほか駐留政府軍の規模縮小や政府の掃討作戦で殺害された武装勢力兵士の遺族への賠償などが含まれているとされ、「政府が一方的な譲歩を強いられており、すんなり停戦が実現するか予断を許さない」(地元記者)との見方もあるようです。【2月22日 朝日】
いすれにしても“政府側の譲歩”という形で、次々と停戦が進む背景には、無人機による空爆など、アメリカ主導の闘いによる民間人被害増大に対する地元住民の反発があります。
****国境の武装勢力、政府と次々「停戦」 タリバン支援を強化*****
バジョール管区は米国などが、「(アルカイダ指導者の)ビンラディン容疑者が潜伏している可能性がある」と指摘。パキスタン政府軍は昨年8月から空陸からの掃討作戦を本格化させた。
しかし、多数の住民が戦闘に巻き込まれて死傷し、約5万人が北西部ペシャワル郊外で避難生活を送っている。国内では「なぜそこまで米国に協力するのか」との政府批判が高まっている。武装勢力は、世論に配慮せざるをえない政府の足元を見ているとみられる。今後については「政府軍との戦闘を回避することで、タリバン支援に乗り出す」(地元記者)との分析が多い。
米軍が越境ミサイル攻撃を続ける部族地域の北・南ワジリスタン管区は、三つの主要な武装勢力のうち、これまで「政府支持」の立場だった2勢力が20日、政府との協力解消を表明。07年12月のブット元首相暗殺の「黒幕」と名指しされたベイトラ・メスード司令官率いる反米・反政府勢力と共闘することで合意したと発表した。
3勢力はタリバン最高指導者オマル師の影響を強く受けているが、2勢力は軍の掃討対象から外され、メスード司令官の勢力と戦う「代理掃討作戦」を担ってきた経緯がある。声明で2勢力は「政府は米軍の越境ミサイル攻撃を止められず、住民は犠牲を強いられている」と非難した。【2月26日 毎日】
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【“くさびを打ち込もうとしている”】
こうした武装勢力との“停戦”の動きについて、パキスタン側は「スワトには異なる二つの集団がいる。ひとつはタリバン、もうひとつは69年から存在する地元の武装勢力だ。一方を話し合いに加え、もう一方を孤立させるのが私たちの狙いだ。」(政府当局者)、「私たちはアルカイダやタリバンの武装組織と、イスラム法の復活を目指すスワトの武装組織の間にくさびを打ち込もうとしている。」(駐米パキスタン大使)と説明しています。
アフガニスタン・パキスタン担当のホルブルック米特別代表は、スワト地区でのイスラム法の適用を認める合意が成立したことに関して、「ザルダリ大統領と電話で協議し、懸念を表明した」、「同国北西部のスワト地区で成立した合意を理解するのは無理だ」との認識を示しています。
パキスタン政府の対応は、どちら側を向いているのかよくわからないところがあります。
国民の対米追随批判に押されてアメリカの越境攻撃を批判もしていますし、将来の“ポスト・アメリカ”をにらんでタリバンとの関係を継続しているとも言われます。
しかし、昨年9月以降パキスタン情報担当局とアメリカCIAの連携は劇的に改善されたそうで、アルカイダ関係者の所在に関する情報の精度、空爆の成功率ははるかに増したそうです。【3月4日号 Newsweek】
パキスタン・ザルダリ政権にとっては、政敵であるシャリフ元首相との対立が再燃し、国内でデモや暴動が続発しているという内憂もあります。
こうした内憂外患に悩むパキスタンとアメリカがどのように連携をとれるのか・・・。
アメリカはホルブルック米特別代表を軸に、アフガニスタン・パキスタンでの枠組みを再構築していく意向ですが、アフガニスタン、パキスタン双方、国内事情でそれぞれ走り初めており、今後どのように展開していくの不透明さを増しています。