
(少数民族シャン族の村の少女 医薬品の供給もままならない状況のようです。
スー・チー率いるNLDは1990年の選挙で81%の392議席を獲得、このときシャン諸民族民主連盟も23議席を獲得しました。しかし、軍政はこの選挙結果を認めないまま今日に至っています。
“flickr”より By Briebanofsky
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【「だれもスー・チーさんの名前に言及しなかった」】
先日タイ・ホアヒンで開催されたASEAN首脳会議では、ミャンマー軍政に対して民主化を求めたものの、結局「だれもスー・チーさんの名前に言及しなかった」といったことだったようです。
****ミャンマーに民主化促進求める-ASEAN首脳会議****
東南アジア諸国連合(ASEAN)は1日、タイ中部ホアヒンで首脳会議を開き、ミャンマー軍政に対して民主化のさらなる促進を求めたが、自宅軟禁が続く民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんの解放要求には言及しなかった。
議長国タイのアピシット首相は会議後の記者会見で、「各国首脳は(会議の中で)ミャンマーのテイン・セイン首相に対して国連と協力し、民主化ロードマップ(行程表)プロセスを促進するよう求めた」などと指摘。
一方、マレーシアのアブドラ首相は別の記者会見で、ミャンマーの民主化問題に関して「(将来の)総選挙の話は取り上げられたが、だれもスーチーさんの名前に言及しなかった」と説明した。
ASEANは今回の首脳会議で、域内の基本的人権を保護、促進する人権機構の年内設置で合意した。だが、同機構は人権侵害の実態調査や違反行為を罰する権限は付与されておらず、人権団体などはミャンマーのような人権侵害国に対しては無力だろうと批判している。【3月2日 時事】
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人権機構の規約草案では、ミャンマーがこだわった「内政不干渉」の原則が維持されており、意思決定も「全会一致が基本」とし、「外部の干渉からASEANを守る」との記述も入っています。
そうした“仕組み・制度”もさることながら、「だれもスー・チーさんの名前に言及しなかった」ような“意欲”の面ですでに、あまり期待できないものに思えます。
【「政府の善意を理解し・・・」】
ミャンマーは国際的な批判をかわす狙いか、「(囚人が)政府の善意を理解し、2010年の『自由で公正』な総選挙に参加できるようにするため」として、2月20日に6313人の受刑者の釈放を発表しています。
しかし、ミャンマーの最大野党・国民民主連盟(NLD)によれば、2000人ともされる政治犯のうち、今回釈放されたのは17人ほどにすぎないということです。
ミャンマー軍事政権は、密室法廷で民主活動家らに長期の禁固刑判決を連発し、民主勢力の排除を徹底しています。
“昨年11月から(今年1月までの)わずか3か月で300人近くが裁かれて有罪となり、最高刑は禁固104年。国際社会は非難を強め、1月31日には国連のガンバリ事務総長特別顧問も同国に入ったが、軍政トップがまともに応じる気配はなく、受刑者らが生きて出られる望みは薄い。”【2月2日 読売】
国連・アメリカは今回措置を一応歓迎しながらも、スー・チーさんを含め政治犯全員の釈放を促しています。
****ミャンマー軍政に全政治犯の釈放を促す=国連と米国****
国連の潘基文事務総長は記者団に対し、「スー・チーさんを含む全政治犯の釈放および速やかで前提条件のない政府と反対派の対話を改めて呼び掛けたい」と語った。潘事務総長は恩赦による政治犯釈放の発表を「より多くの釈放に向けた第一歩」として歓迎しながらも、政治的な理由で拘束されている受刑者はまだ非常に多くいると注意を喚起した。事務総長によると、今回釈放された政治犯は23人という。
また事務総長はミャンマーを再び訪問したいとの意向を示した。ただ、まだ何の決定も下していないとしている。事務総長は昨年5月に同国を訪問している。
米国も一部の政治犯が釈放されたことを歓迎している。国務省のウッド副報道官代理は「政治犯の釈放は歓迎する。しかし、われわれはビルマ(ミャンマー)に対して、スー・チーさんを含む全政治犯の釈放を求めている。今回の釈放がさらに多くの政治犯の釈放につながるかどうかを見極めなければならない」と語った。【2月24日 時事】
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【総選挙に向けての布石】
昨年5月、サイクロン犠牲者救済そっちのけで強行された国民投票によって制定された“新憲法”では、“国家元首は大統領(任期5年)とし、「政治、行政、経済、軍事」の見識が必要”、“国会は地域代表院と民族代表院の2院制で、各4分の1は国軍司令官が指名する。”“大統領と議員は外国人の影響や恩恵を受けていてはならない。”といった条項によって、軍の権力が維持される仕組みになっており、また、外国人を夫とするスー・チーさんは被選挙権も剥奪される内容となっています。
軍政は民主化運動を徹底的に封じ込める一方で、この“新憲法”にのっとり2010年に行われる予定の総選挙へ向けての準備を着々と進めています。
野党NLDは、総選挙をボイコットする構えだと言われていますが、軍政は有権者の約7割にあたる約2400万人が構成員とされる翼賛組織を、今年4月をメドに二つに分ける形で政党化する構想を進めていると報じられています。【1月1日 読売】
軍政としては、2党が争う選挙の体裁をととのえることで、「複数政党制が機能している」と国内外にアピールする狙いとのことです。
また、3年前にヤンゴンから遷都した人工都市ネピドーの建設も進行しており、総選挙後に新設される民族代表院(上院)と人民代表院(下院)が入る巨大な連邦議会の建設も進んでいるようです。
日本や国連など国際社会も、軍政が推し進める“総選挙”を受け入れる方向のようです。
このような動きを、野党NLDは批判しています。
****スー・チーさん側、不快感 総選挙めぐる日本・国連見解****
ミャンマー(ビルマ)の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんが書記長を務める野党・国民民主連盟(NLD)が、中曽根外相とガンバリ国連事務総長特別顧問のミャンマー情勢についての見解を批判する声明を出した。
反軍事政権系のイラワジ誌(電子版)が20日伝えた。中曽根、ガンバリ両氏は日本で12日に会談。日本外務省によると、来年実施される総選挙が国際社会に祝福される形となるよう軍政に働きかけることで一致。中曽根外相は「ミャンマーの前向きな動きには前向きに対応することが重要」と述べた。
これについて声明では、NLDが圧勝して軍政が無効とした「前回90年の総選挙結果を尊重するとした国連の立場と異なる」「前回結果に基づく国会開会などのNLDの要求とも一致しない」などと批判した。
NLDは、民主化運動家らを拘束したまま進められる「民主化プロセス」や、総選挙後の新体制に向けて軍政の権力維持を図る条項が多く含まれた新憲法(08年5月成立)の見直しを求めている。【2月21日 朝日】
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【今年11月で軟禁・拘束期限の6年】
ミャンマー軍政の思惑に沿って事態は推移しています。
当面注目されるのは、スー・チーさんの処遇です。
軍政は軟禁・拘束期限は6年間との法的解釈を示しており、今年11月に自宅軟禁の期限を迎えるスー・チーさんへの対応が注目されています。
しかし、いくら上記のような軍政主導の総選挙・政治枠組みを確立しつつあるとは言っても、総選挙前にスー・チーさんを野に放つようなことはしないでしょう。
いったん解放しても、またすぐに何らかの理由で拘束するのでは・・・。
明るい兆しがまったく見えないミャンマー情勢です。