(テロで命を落としたブット元首相 彼女が生きていればパキスタンの政治混乱も今とは違った展開になったでしょうか・・・・?
“flickr”より By innocent_tauruscian
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【シャリフ元首相のデモに屈したザルダリ大統領】
パキスタンについては3月15日ブログで、その政治情勢の窮状について取り上げたところです。
チョードリー前最高裁長官の復職を要求する弁護士・市民グループと、これを機に政権に揺さぶりをかけるシャリフ元首相のグループが仕掛けた大規模デモに対し、政府は火に油をそそぐような、シャリフ元首相を自宅軟禁にするという措置で対抗、政権側はこの事態を一体どうするつもりなのか・・・というのがそのときの内容でした。
部族支配地域ではイスラム武装勢力が跋扈し、アメリカからはこれを押さえ込むように要求され、一方国民の反米感情は高まり・・・といったパキスタンの大統領なんて、誰がやってもうまくいきそうには思えません。
しかも、ザルダリ大統領は、過去の汚職という古傷があり、前長官を復職させればこの古傷から血が噴出しかねない、しかも、ザルダリ大統領は暗殺されたブット元首相の夫というだけで、政治的実績もなく人気も低い、軍はおろか党内にも確固たる支持基盤がない・・・こんな状況ではいかんともしがたいところでしょう。
よくこんな困難なポストに手をあげたものだと感心します。
現在の困難な情勢は当初から予想されたものですが、いよいよザルダリ大統領の立場は危ういものになりつつあります。
自宅軟禁されたシャリフ元首相は軟禁を突破し支持者に合流、デモがラホールに迫るなかで、デモ勢力の要求を容れる形で、チョードリー前長官の復職を認めることをギラニ首相がTV演説で発表しました。
この決定でシャリフ元首相はデモ中止し、ひとまず混乱はおさまりました。
ひとまずはおさまりましたが、チョードリー前最高裁長官はザルダリ大統領の過去の汚職罪を「無罪」とした前ムシャラフ政権の「国民和解協定」や、同協定を認めた新憲法に反発しています。
前長官は昨日復職しましたが、今後新憲法の破棄を命じ、大統領失職を宣告する可能性もあり、新たな政治的混乱が予想されています。
【“復職”決定の背景】
なお今回の混乱に際し、アメリカのクリントン長官は、ザルダリ大統領やギラニ首相、大規模デモを計画したシャリフ元首相らに電話し、混乱が続けばパキスタンへの資金援助が止まる恐れがあると“圧力”をかけたようです。
01年の米同時多発テロ以降、アメリカはパキスタンに100億ドル以上の経済、軍事支援をしてきています。
今後、アメリカの圧力がどこまで通用するか・・・。
政府幹部によると大統領周辺は今回のシャリフ元首相らのデモに対し軍の「鎮圧出動」を検討したそうです。
しかし、前政権の非常事態宣言で国民の反感を買った軍は出動を嫌がったとか。【3月16日 毎日】
ザルダリ大統領は政権第一党のパキスタン人民党総裁ですが、最近は「ブット氏の側近を遠ざけ、党内の自分の側近を重用している」と批判され、党内基盤が揺らいでいるとも言われています。
今回の混乱でも、ザルダリ氏と数人の側近以外は、チョードリー氏の復職要求を受け入れるべきだという考えだったようです。
ギラニ首相も“復職止む無し”の立場で、国軍トップのキアニ陸軍参謀長もギラニ首相を支持し、今回決定に至ったと報じられています。【3月17日 産経】
【勢いを増すシャリフ元首相、次の標的は“大統領権限”】
一方、反政府デモを主導したシャリフ元首相は国民的人気が高く、今回要求を認めさせたことで、政権に対する発言力を強めるとみられています。
パキスタン政府はギラニ首相の命令で19日、刑事事件で有罪判決を受けたことを理由に、最大野党を率いるシャリフ元首相と、弟のシャリフ元パンジャブ州首相の被選挙権を無効とした最高裁決定を不服として、最高裁に再審を請求しています。
これは今回のデモ中止の際にギラニ首相が、チョードリー前長官の復職と併せて、シャリフ氏らの被選挙権停止について再審を求める考えを示していたことによるものです。
そのシャリフ元首相は18日、東部ラホールで「ザルダリ大統領は大統領権限を首相に戻す約束をまだ果たしていない」と演説するなど、再び対決姿勢を強めています。
“ムシャラフ前大統領は対テロ戦争の推進を理由に、最高裁長官や陸軍参謀長の任免権などを首相から大統領に移し、反対勢力を力で押さえ込んできた。
前大統領と対立していたシャリフ氏と故ブット元首相(07年12月暗殺)は06年、大統領権限の縮小に向け共闘関係を構築。ブット氏の夫であるザルダリ氏も昨年9月の大統領就任前に権限縮小を約束しながら、就任後もこの問題を棚上げしていた。”【3月19日 毎日】という背景があります。
【ギラニ首相とシャリフ元首相の連携】
次第に追い詰められるザルダリ大統領、勢いを増すシャリフ首相、ザルダリ大統領を見限るようなギラニ首相・・・そんな感じの展開ですが、下記の記事はそのあたりの事情を裏付けています。
****パキスタン:首相とシャリフ氏連携へ 反大統領で呉越同舟
パキスタンで22日、ギラニ首相と最大野党「イスラム教徒連盟ナワズ・シャリフ派」のシャリフ元首相が会談し、政局の安定化を目指す模索が始まった。「連立政府樹立に向けた協議」としているが、ギラニ氏側は、国民の人気が高まっているシャリフ氏の圧力を借りてザルダリ大統領の政治権限を首相に戻すのが狙いなのに対し、シャリフ氏側は与党「パキスタン人民党」を分裂させて政権奪取につなげたい考えで、思惑は異なる。呉越同舟の2人の急接近は、政局を逆に不安定化させる可能性もある。
会談は、政府が16日にチャウダリー最高裁長官の復職を決定(22日復職)した後、シャリフ氏が呼びかけた。開催地はシャリフ派の拠点・東部ラホールで、同派の優位性を印象づけた。
人民党内の有力幹部の間には、ザルダリ氏への反感が根深い。カリスマ指導者だった故ブット元首相(07年12月暗殺)の夫ではあるが、「党内の意思決定を無視する独裁ぶり」(党幹部)が目立つからだ。大統領は首相解任権など強大な権限を持ち、ムシャラフ前大統領はその強権ぶりを非難されたが、ザルダリ氏は党内の反発勢力の巻き返しを恐れ、手放そうとしない。
シャリフ氏はチャウダリー氏の復職などを求めた大規模デモの前から「ザルダリ氏とは話をしない」と繰り返し、一方でギラニ氏には「信用できる政治家」とラブコールを送って人民党内の対立をあおった。
この結果、デモ中に閣僚2人が辞任する騒動に発展。ザルダリ氏が大統領の権限削減に応じれば、人民党は分裂し、シャリフ派が最大勢力となる可能性が高まる。
両党は90年代、激しい権力闘争を繰り広げた政敵で、今も相互不信は根深い。ギラニ氏がシャリフ氏の思惑を承知しながら会談に応じたのは、シャリフ氏の圧力を利用するだけ利用して「ザルダリ後」は党内融和を図る考えとみられる。
ザルダリ氏が権限削減を拒否し続ければ、シャリフ派は大規模デモを再開する構えだ。その場合、米国が「対テロ戦争」でのパキスタン支援の条件として求める政情の安定は望めなくなる。人民党内には、シャリフ派に主要閣僚ポストを与えて連立を結ぶべきだとの意見もある。【3月22日 毎日】
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どこの国でも政治の世界は狸とキツネの化かし合いのようなところがありますが、シャリフ元首相とギラニ首相の関係もそんな感じです。
「ザルダリ後」なんて言われるザルダリ大統領も少し哀れです。
最後に笑うのはシャリフ元首相か、ギラニ首相か?
ザルダリ大統領の粘りがあるのか?