孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  「世界最大の民主主義国」の総選挙  ばらまき選挙、犯罪者議員、「ダリットの女王」

2009-03-26 22:43:32 | 国際情勢

(07年、ウッタル・プラデシュ州の首相を手にした「ダリットの女王」マヤワティを報じる新聞各紙 当時、彼女は「次の目的地はデリーだ」と豪語したそうですが、その可能性もなくはない・・・そんな展開のようで
“flickr”より By counterclockwise
http://www.flickr.com/photos/xclockwise/530720366/)

【インド流ばらまき公約】
「世界最大の民主主義国」インドの総選挙が4月16日から5月13日まで5回に分けて実施されます。
計82万8,000カ所の投票所に110万台の電子投票機(読み書きができない多数の有権者が存在するため、候補者名と、政党のマークをボタンで選ぶもの)を設置して、有権者7億1400万人を対象に行われます。

投票は地方ごとに行われるようですが、開票というのか集計結果の公表は5回の投票が全て終了してから行われます。
ただ、各回の出口調査結果は発表されるそうで、当然その結果が次回投票に影響します。

インドの総選挙は5年に1回行われる一種のお祭りみたいなもの・・・という見方があるぐらいで、各党は膨大な貧困層からの得票を狙って、盛大なばらまき公約を行います。

****「電気代ただ」「食料破格値」の公約やめて=ばらまき選挙に苦言-印商工会****
インド商工会議所連合会は25日、4月に迫った総選挙に関し、電気の無料供給や、コメなど食料の極端に低価格での販売を農家や貧困層向けに公約しないよう各政党に呼び掛ける声明を出した。
これらは選挙のたび批判の的になりながら、長く続いているインド流ばらまき公約の典型例。声明は、公約を実行した結果生じる財政負担が経済成長を阻害しかねないと懸念を表明した。【3月25日 時事】 
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ちなみに、インド最大与党、国民会議派のマニフェストにも「低所得者層にコメ25キロを3ルピー(5円強)で供給」という項目があるそうです。【3月25日 読売】

【「全員落選することを望む。」】
“ばらまき”も問題ですが、近年選ばれる国会議員に殺人犯を含む犯罪者が増加しているという、とんでもない実態があります。
前回04年総選挙で当選した543人の国会議員のうち、犯罪の嫌疑をかけられた経験のある人物が128人(殺人が84件、強盗が17件、窃盗及び恐喝が28件)いたそうで、犯罪とのかかわりを指摘される議員が多すぎて議会が混乱状態に陥ったこともあって、この1年間で審議を行った日数は史上最低の46日。
殺人で有罪判決を受けて辞職した閣僚もいたとか。【3月18日号 Newsweek日本語版】

そう言えば、映画にもなった“女盗賊プーラン”なんて女性もかつていました。
プーランは1980年代にインドで最も恐れられた山賊の1人で、自分を集団暴行した男たちに報復するため、バレンタインデーの22人射殺した件で有名です。彼女は83年に投降、94年に釈放され、96年には国会議員に当選しています。
大体、“盗賊”なる集団が存在すること自体に、当時驚いた記憶があります。

話を元に戻すと、インドというより、世界の核管理体制に大きな転機をもたらしたアメリカとの原子力協力協定をめぐり、内閣信任案が“かろうじて”成立した際も、与党側は刑務所に服役中の議員(殺人罪の2名を含む)を刑務所から議事堂に移送して採決に加えています。
また、この採決をめぐっては反対する左派政党が連立を離脱しましたが、党首が汚職容疑で刑事捜査を受けていた社会党の支持を取り付けることで乗り切りました。
前出【3月18日号 Newsweek日本語版】によると、この社会党党首の捜査は信任投票後打ち切りになったとか。

先月26日の議会閉会の際、チャタジー下院議長が再選を目指す議員達に、「あなたたちは国民の血税を受け取る資格がまったくない。全員落選することを望む。」と述べたそうです。
しかし、こうした議事堂に犯罪者が溢れる傾向は今後も続きそうで、国民会議派広報担当は「職業的犯罪者や常習的な犯罪者を擁立することはしない」と発言しています。
1回や2回程度の犯罪ならOKということのようです。

【「ダリットの女王」がキングメーカーに】
肝心の選挙の中身の話についてですが、国民会議派のソニア・ガンジー総裁は24日、連立与党が勝利すれば、シン首相を続投させる方針を正式に発表しました。
(ソニア・ガンジー総裁自身は、ネール王朝の血を引き母インディラ・ガンジー同様暗殺に倒れたラジブ・ガンジーの妻ですが、もともとはイタリア人のため、前回は首相就任を辞退しています。)
シン首相は1月に心臓バイパス手術を受けたため、ガンジー総裁自身や、長男のラフル・ガンジー幹事長(38)が首相候補になるとの見方が出ていましたが、総裁の発表はこうした憶測を打ち消し、現首相を担いで選挙戦に臨む態勢を打ち出したものと見られています。【3月25日 読売】

これに対抗するのが、前回選挙で予想に反して敗北したアドバニ元副首相率いるヒンドゥー至上主義の最大野党・インド人民党(BJP)、更に、インド共産党マルクス主義派(CPI-M)と小政党の連合が「第3戦線」を形成という構図ではあります。
しかし、近年、全国規模の大政党の力が弱まり、特定民族・カーストに基盤を置く政党が台頭しており、今回選挙についても、国民会議派にしても、インド人民党にしても、苦戦を強いられそうな予測がされています。
現在でも与党国民会議派は単独では過半数に届かず、連立でしのいでいます。

そういう状況で、台風の目になるのではないかと注目されているのが、ウッタル・プラデシュ州の地域政党である大衆社会党(BSP)の女性党首で、「最下位カースト・ダリット(「抑圧されし者」を意味する)の女王」と称されるマヤワティ氏です。

****注目の女性党首 *****
いま大きな注目を浴びているのはクマリ・マヤワティ大衆社会党(BSP)党首だ。
インドで最も人口の多いウッタル・プラデシュ州の首相も務める。
国民会議派率いる連立与党「統一進歩同盟」と野党BJPが中核となる「国民民主同盟」の双方が弱体化するなかで、ウッタル・プラデシュ州に堅固な基盤を持つBSPのマヤワティ氏が、次の中央政府首相を決めるキャスチングボートを握っているといえる。
マヤワティ氏は女性で、かつ、ダリット(低カースト)出身だ。インドの国家の将来は、かつて卑しまれた階層の手に握られている。インド版「オバマ旋風」が巻き起こる可能性もありそうだ。【1月30日 朝日】
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マヤワティ氏は、今回のインド総選挙でキングメーカーになる可能性があります。
インドの人口の六分の一を占めるダリットが、もし彼女のもとに団結すれば、従来“ばらまき公約”などでダリット票を頼りにしてきた全国的大政党は痛手を受け、インドの政治力学はこれまでとは様相が一変します。
“巨大州・ウッタル・プラデシュ州の首相の座についたマヤワティは、上位カースト・ブラーミン(僧侶階級)の支持も取り付けて、さらなる野望を隠そうともしない。
「ウッタル・プラデシュで起きたことは、これから全国で起きることの前触れに過ぎない」。勝利宣言の後、彼女は豪語した。「次の目的地はデリーだ」。つまり、狙いはインド首相の座である、と。”【08年7月 フォーサイト】

BSPは総選挙は独自に戦うが、総選挙後はインド共産党マルクス主義派等の「第3戦線」と連携してマヤワティ氏がその首相候補になるのではないかといった報道も最近ありました。

日本の総選挙がいつになるのかも分かりませんし、“不人気比べ”の様相を示していますので、他国インドの総選挙でも楽しむことにします。


コメント
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