(先月21日のカーニバルに興じるキューバ市民 ラテン系のノリで、“国内では経済・社会的な不満が高まっており・・・”といった様子は感じられませんが、それはそれ、これはこれ、別問題なのでしょうか。
“flickr”より By chandimak
http://www.flickr.com/photos/digitalmelon/3302653083/)
【閣僚解任 自己批判】
すべてのことがめまぐるしく移り変わる今日ではすでにかなり古い話にもなりますが、キューバ政府は今月2日、27の省庁を25に再編し、閣僚評議会(内閣)のメンバー11人を交代させる大幅な内閣改造を発表しました。
省庁再編は、兄フィデル・カストロ前議長から権限を委譲され「緩やかな改革」を進めるラウル・カストロ国家評議会議長の公約課題でもありましたが、この内閣改造において、カストロ兄弟の後継者と目されていた若手幹部、カルロス・ラヘ執行委員会書記(57)とフェリペ・ペレス外相(43)が解任されたことが話題となりました。
ふたりは単に要職を更迭されただけでなく、“自己批判”の公表という形で、“失脚”に追い込まれています。
****キューバ:若手2人完全失脚…閣僚解任 自己批判を公表******
キューバ共産党機関紙は5日、閣僚評議会(内閣)メンバーから解任されたカルロス・ラヘ前執行委員会書記(57)とフェリペ・ペレス前外相(43)が「過ち」の責任を取り、すべての要職から辞職するとした両氏の手紙を掲載した。同国の将来の指導者候補として国内外で注目されてきた若手2人は、完全に失脚した模様だ。
手紙は2人が閣僚を解任された翌日の今月3日付で、ラウル・カストロ国家評議会議長にあてたもの。両氏はともに、国家評議会、共産党中央委員会のメンバー、国会議員を辞職するとし、「過ちを犯したことを認め、責任を取る」としている。「過ち」は複数形だが内容は明らかにされていない。ラヘ氏は国家評議会副議長を務め、将来の指導者候補とみられていた。
フィデル・カストロ前議長は3日発表した論評で、名指しはしなかったものの、解任された2人について「権力の蜜(みつ)で不適切な役割に向かうという野心が生まれた。外敵が彼らを幻想でいっぱいにさせた」などと批判していた。
カストロ前議長に近く国際的にも知られたラヘ、ペレス両氏の閣僚解任は、さまざまな憶測を呼んだが、前議長は「報道機関はフィデル派だのラウル派だのと騒いでいる」と、派閥争いとの観測を一蹴(いっしゅう)している。
キューバで更迭された要人の手紙が発表されるのは極めて異例。ラヘ、ペレス両氏は国民に人気があったため、国民の動揺を回避する狙いもあったとみられる。【3月6日 毎日】
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【憶測を呼ぶ政変の背景】
今回の“政変”の背景については、フィデル・カストロ前議長自身が触れているように、前議長に近いとされている両者を排除してラウル・カストロが自前の政権作りに着手したという見方もあります。
「今回の内閣改造はラウル議長がカストロ前議長の相続人としてではなく、自身の政権の体制を整えたものだ」(カナダ軍事大のクレパック名誉教授)【3月3日 毎日】
あるいは、今回改造でベテラン軍人の起用が目立ったことから、軍人や革命世代による統治が強まるという“革命世代の揺り戻し”の観点で見る向きもあります。
また、キューバでは他の社会主義国家同様、これまでも権力者カストロの後継者と目される人物が失脚するということがままあり(92年のカルロス・アルダナ、99年のロベルト・ロバイナ)、今回もそのひとつという見方もあります。
何らかの権力闘争があったのは事実でしょうが、今日この話題を取り上げたのは、3月25日号Newsweek誌であまりに面白い記事「暴かれたカストロ降ろし」(ホルヘ・カスタニェダ)を読んだからです。
カスタニェダ氏は元メキシコ外相だそうです。
以下、カスタニェダ氏の語る“陰謀”を簡単に紹介します。
【チャベスも巻き込む“陰謀”】
ラウル・カストロは議長就任直後に国民の携帯電話所有を認めるなど、「改革派」としての姿勢を内外にアピールし、さらに私営タクシーを解禁したほか、食糧増産の一環として遊休地を約4万5000人の農民に提供するなど「緩やかな改革」を進めています。
ただ、カスタニェダ氏によると、国内では経済・社会的な不満が高まっており、フィデルが死亡した場合ラウルの力では混乱を抑えきれないおそれがあるとのこと。
その場合、ラウルが取り得る唯一の即効性ある処方箋は対米関係を正常化し、大幅な経済・政治改革へ踏み切ることだそうです。
しかし、今回失脚したラヘたちにすると、これは革命への裏切りであり、キューバ社会主義体制の終わりの始まりを意味するとのこと。
そこでラヘたちはラウル失脚を狙ったクーデターのような陰謀を画策していた、更にこの計画への支援をベネズエラ・チャベス大統領に依頼、チャベス大統領は他の中南米諸国指導者にも話を持ちかけた。(話を持ちかけられたドミニカのフェルナンデス大統領は関与を拒否)
この動きを察知したラウルは兄フィデルに証拠を示し、今後も自分の後ろ盾となるか、ラヘやペレスの側につくか選択を迫り、フィデルは弟ラウルを選んだ。
次いでラウルは、チャベスをハバナに呼びつけ、陰謀から手を引くように迫った・・・。
ざっと、以上のような内容です。
まるでフレデリック・フォーサイスの小説のようです。
真偽の程はまったくわかりませんが。
【変わるかアメリカの対キューバ政策】
確かに、北朝鮮の崩壊を中国が嫌がるように、キューバが混乱して何万人もの難民が、麻薬・犯罪・テロなどともにアメリカに押し寄せる事態はアメリカにとっても困ったことではないでしょうか。
オバマ大統領は、キューバ系市民の母国への送金を自由化、定期的里帰りを認める・・・といった関係改善に踏み出そうとしています。
4月に開催される米州機構(OAS)首脳会議に先立ち、ブッシュ前政権下で強化された制裁が一部解除されるとの見方も報じられています。
今後、更に踏み込んだ関係正常化に進展することも考えられます。
ただ、90年代初頭、ソ連圏崩壊・アメリカの経済制裁によってキューバが最悪の経済危機に陥った際に、国民の個人営業認可や外貨保有解禁、観光振興や外資導入積極化など経済開放政策でこの事態を乗り切った中心人物がラヘだったと言われていますので、対米関係正常化を“革命への裏切りであり、キューバ社会主義体制の終わりの始まり”として云々・・・というのはどうでしょうか?
チャベス大統領云々はいかにもありそうな話ではあります。
今回政変の真相はともかく、アメリカの対キューバ政策がどう変わるのか、変わらないのか・・・4月の米州機構(OAS)首脳会議が注目されます。