孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  暴露戦術のタクシン元首相、退路を断って支配層との戦い決意

2009-03-30 20:49:36 | 国際情勢

(バンコクの首相府を包囲するタクシン派「反独裁民主同盟」(UDD)のメンバー 今日30日の様子 昨年の反タクシン派「民主主義市民連合」(PAD)は黄色がシンボルカラーでしたが、UDDは赤色がシンボルカラーです。
“flickr”より By adaptorplug
http://www.flickr.com/photos/11401580@N03/3398373194/)

【意外に安定したアピシット政権】
タイでは昨年、反タクシン派市民グループの「民主主義市民連合」(PAD)が、タクシン元首相によってその権益を脅かされている経済界・司法・軍などの旧支配層の支援も受けた形で、首相府を長期間占拠、更に空港に突入。
この混乱のなかで、タクシン派のサマック政権とソムチャイ政権が相次いで崩壊、現在の民主党の若きエリート、アピシット首相が誕生しました。

当然のこととして、今度はアピシット政権に対するタクシン派側の揺さぶり・攻勢が予想されていましたし、実際、タクシン派は昨年末から3回ほどの総選挙実施を求める大規模デモを行っています。
しかし、アピシット首相は大方の予想に反して、王室や軍、財界の強い支援で、政権基盤を固めつつあるというのが、もっぱらの見方のようです。

“政府は今月初め、昨年12月のバンコク国際空港占拠事件で延期されていた東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議を議長国として開催し、政治混乱からの回復を国際社会にアピールした。国内では、首相自身が地方を遊説して「国民和解」を訴えるなど、誠実な政治姿勢が国民の好感を呼んでいる。
私立アサンプション大学が今月初めに全国で実施した世論調査では、首相の支持率は79.3%を記録した。
実刑判決を受けて海外逃亡中のタクシン元首相は12日のビデオ会見で、「私は戦士であり、正義のために戦い続ける」と、復権をあきらめない姿勢を強調した。しかし、国民の政争疲れもあって徐々に求心力を失い、デモ参加者は回を追って減りつつある。” 【3月14日 毎日】

【タクシン派の首相府包囲】
そんなタクシン首相、タクシン派がここにきて、再度首相府を包囲する形で攻勢をかけています。

****タクシン元首相派が首相府包囲 最大規模の3.7万人****
タイのタクシン元首相を支持する「反独裁民主同盟」は26日、アピシット政権退陣を求めバンコクの首相府を包囲した。警察によると、約3万7千人が参加。元首相派の反政府集会としては最大規模となった。警察と軍が約9千人を動員し警戒にあたっている。
元首相派のプアタイ党はアピシット首相らの不信任案を国会に提出したが21日に否決されており、街頭活動以外に政権に圧力をかけるすべはない。幹部は「退陣まで続ける」と話しているが、資産を凍結された元首相からの財政支援は期待できず、反元首相派の「民主主義市民連合」(PAD)が昨年展開したような長期の活動は難しいとみられる。【3月26日 朝日】
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集会参加者のうち約3000人が集会後も首相府の包囲を続けています。
しかし、「民主主義市民連合」(PAD)の場合は、タクシン元首相と利権上の対立があった経済界からの潤沢な資金援助が噂されており、その結果あのような長期間の闘争が実行できた訳ですが、タクシン元首相は現在その膨大な資産を凍結され、また、どこにいるのかさえ定かでない状態であり、タクシン派の街頭活動支援は困難な状況です。
“金の切れ目が縁の切れ目”という現実です。

【06年クーデターの“真相”暴露】
そうした財政的な困難を補うためでしょうか、タクシン元首相は、自身が追放されたクーデターに枢密院議員スラユット元首相が関与していたとする“真相”を暴露することで、運動の活発化をはかっています。

****「クーデター、スラユット元首相ら関与」タクシン氏*****
タイのタクシン元首相を追放した06年9月のクーデターの前にスラユット元首相を中心とした謀議があったとタクシン氏が発言し、波紋が広がっている。タクシン氏はさらなる暴露を宣言し、王党派などの反タクシン勢力に揺さぶりをかける構えだ。
タクシン氏は22日にチェンマイで催された支持者の集会で、海外からビデオを通じて演説。謀議に招かれた退役軍人から聞いたとして、06年初め、枢密院議員だったスラユット氏がバンコクの邸宅にこの軍人を呼び、最高行政裁判所長ら裁判官らとともにタクシン氏の追放計画を練った、と話した。クーデター以外に暗殺の企てもあったという。
「王室を敬愛しない」ことが追放理由とされたが、タクシン氏は、スラユット氏が陸軍司令官をタクシン氏により解任されたことを逆恨みしたと指摘した。スラユット氏はクーデター後、軍に指名されて首相に就任。名指しされた判事らは枢密院議員や憲法裁判事になった。 【3月24日 朝日】
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更に、タクシン元首相は27日、国王側近のプレム枢密院議長を名指しでクーデターの黒幕と批判しました。
国王の番頭である議長を罵倒する演説は「一線を超えた」との受け止め方がされており、“議長側との和解を断念し、退路を断って枢密院、軍、司法、官僚といった支配層と戦う意思を示した”とも報じられています。

****「クーデター黒幕は国王側近」 タクシン元首相、名指し****
タイのタクシン元首相は27日夜、バンコクで開かれた反政府集会で国外からビデオ演説し、06年9月のクーデターの黒幕はプレム枢密院議長(88)だと初めて名指しして非難した。議長はプミポン国王の側近中の側近で元陸軍司令官。王室と軍の権威を代表するとみられる議長を批判の俎上(そじょう)に載せたことで、元首相は退路を断って支配層と戦う意思を示したことになり、社会の分断が一層深まりそうだ。

タクシン派の「反独裁民主同盟」は26日からバンコクの首相府を包囲。タクシン氏は連日、発信場所を明かさないままビデオで登場して支持者に檄(げき)を飛ばしている。27日には約2万人を前に「プレム議長がすべての黒幕であり、枢密院議員のスラユット元首相らと協力して私を追い落とした」と話した。
さらにタクシン氏は、プレム議長は政権与党の民主党を後押ししてきた▽クーデターを遂行したソンティ前陸軍司令官がタクシン氏暗殺計画にも関与した▽スラユット氏は反タクシン運動を進めた民主主義市民連合(PAD)を支援した――などと暴露。そのうえで「国王と王妃は関与していない。だが枢密院が政治に介入することで、国王も関係しているような誤解を世間に与えている」となじった。

これに対しスラユット氏は28日、記者会見してクーデターへの関与を否定。議長の秘書や軍高官らも相次いでタクシン氏を激しく批判した。
政変後、タクシン派の支持者らは議長を「黒幕」と批判してきたが、タクシン氏本人は名指しを避ける一方、知人の葬儀で議長に話しかけたり関係者が議長を訪ねたりして、和解を模索してきた。議長と和解すれば恩赦の道も開けるとみられるからだ。
だが議長側の対応は硬く、タクシン派は政権から転落、元首相も海外逃亡中に有罪判決を受け財産も凍結された。追いつめられたタクシン氏は和解を断念し、枢密院、軍、司法、官僚といった支配層と戦う決意を示した形だ。
演説でタクシン氏は王室への忠誠を繰り返し語った。しかし長幼の序を重んじるタイで、長い首相経験があり国王の番頭である議長を罵倒(ばとう)する演説は「一線を超えた」との受け止め方が一般的だ。

タクシン氏は、残る頼みの綱である支持者らを激しい言葉で鼓舞し、街頭活動の継続を訴えた。「お墨付き」をもらった支持者らは今後、枢密院や軍への批判を強めるとみられ、28日の集会では早速「プレム、出て行け」といったかけ声が響いた。
反タクシン派は政府、議会も押さえ、体制を整えたかにみえるが、選挙で対立の解消をめざす気配はない。都市貧困層や東北・北部で根強いタクシン人気を恐れるからだ。
社会階層や地域間対立が深刻化することは確実で、解消のめどはまったく立たない。【3月28日 朝日】
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【経済混乱に拍車をかける政局混乱】
首相府包囲3日目となった28日、アピシット首相は記者団に対し、タクシン元首相が要求している下院の解散を拒否した上で、政局の混乱を収拾させることが最優先課題だと強調しています。
また、タクシン元首相が国王側近のプレム枢密院議長とスラユット同議員(元暫定政権首相)を06年のタクシン氏追放クーデターの黒幕だと批判したことに関して「古い話だ」と取り合いませんでした。

また、アピシット首相は29日、「タクシン氏は自分の利益のために人々を扇動しようとしている」と述べるとともに、「抗議デモは法律で認められているが、デモ参加者は経済の混乱ですでに打撃を受けている人たちを、さらにもめ事に巻き込むべきではない」と強調しています。

手負いのタクシン元首相による必死の反撃とも見られますが、資金的な支援もなく、国民も昨年来のこうした街頭活動にはいささかうんざりしていますので、先行きは難しいように思えます。
ただ、記事にもあるように、選挙となるとタクシン派が強みを持っているということで、アピシット政権としても完全にタクシン派の活動を封じ込める力はなさそうです。

タイ政府は今年第1・四半期は少なくとも4%のマイナス成長を予想しており、アピシット首相は22日、世界的金融混乱を背景にタイの失業者数が年内に2倍近くに増え、100万人に達する可能性があると警告しています。

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