孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スリランカ  反対派弾圧を強める再選ラジャパクサ大統領

2010-02-11 14:26:20 | 国際情勢

(2月10日 コロンボ 大統領支持者からの投石で顔から血を流す、フォンセカ氏逮捕に抗議する野党支持者
“flickr”より By srilankaguardian1
http://www.flickr.com/photos/45237843@N07/4345369081/)

【「平和と繁栄の到来」記念】
年末から正月にかけて、スリランカ南西部ゴール周辺を旅行しましたが、その際に目にする機会はありませんでしたが、LTTEとの内戦勝利を記念する新札が発行されているとか。
****スリランカの新札*****
先月、大統領選の取材のために出張したスリランカで、ちょっとした驚きのモノに出くわした。
1千スリランカ・ルピー(約790円)紙幣だ。反政府武装組織「タミル・イーラム解放のトラ」(LTTE)との内戦に昨年5月に勝利したことを記念し、半年後の11月に発行されたという。そのデザインがすごい。
表の右半分は、ほほ笑みながら両手を挙げたラジャパクサ大統領の姿、左半分はスリランカ国土を図案にしたもので、背後から太陽が昇っている。裏面は5人の兵士がスリランカ国旗を揚げようとしている様子だ。どうみても硫黄島での米兵の姿とだぶる。その周りでは戦闘機やヘリが飛ぶわ、戦車や艦船が前進するわで、穏やかではない。
スリランカ政府の発表によると、紙幣は「平和と繁栄の到来」を記念したものらしい。描かれた兵士も、内戦終結に尽力した治安部隊要員だとか。
案の定、方々から「大統領礼賛だ」「紙幣の偽造は犯罪だといいながら、紙幣自体が硫黄島の風景をまねている」などの批判や指摘が相次いだようだ。すると、スリランカ政府は「この記念紙幣を発行した背景を明らかに理解しておられないようだ」といわんばかりに、批判に反論する声明を出していた。やることが結構、きちょうめんだ。
インドに戻って、インドルピーをじっくりみた。非暴力主義者ガンジーの笑顔に、ほっとした。【2月5日 田北真樹子 産経】
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新札は目にしませんでしたが、大統領選挙まっただ中の街中に設置された、おびただしい数のラジャパクサ大統領支持の選挙用看板は目にしました。
その看板の雰囲気は新札のイメージに似ていました。

【対立候補逮捕、粛清、議会解散】
LTTEとの内戦勝利を功績として敢えて前倒し選挙で臨んだ1月26日の大統領選挙において、内戦勝利のもう一人の立役者であり野党統一候補の前政府軍参謀長フォンセカ氏に勝利したラジャパクサ大統領の“勢い”というか“暴走”は止まらないようです。
敗れたフォンセカ前政府軍参謀長の逮捕、反対派の粛清が報じられています。

****スリランカ 大統領選に落選した前軍参謀長を逮捕*****
スリランカからの情報によると、先月26日に行われた同国の大統領選で現職のラジャパクサ大統領に敗れた野党統一候補のフォンセカ前政府軍参謀長が8日夜、コロンボ市内の事務所で軍警察に逮捕された。政府当局者が明らかにした。参謀長時代に野党と連携して政権転覆を企てた容疑などで、軍法会議にかけるとしている。
フォンセカ氏はラジャパクサ政権下で、反政府勢力タミル・イーラム解放の虎(LTTE)に対する掃討作戦を指揮。四半世紀に及んだ内戦を昨年5月に終結させた「英雄」として国民の称賛を浴びた。その後、大統領との不仲が表面化し、軍籍を離脱し、再選を目指すラジャパクサ氏に挑んだ。選挙後は、国営メディアによる偏向報道や開票作業に不正があったとして大統領選の無効を訴え、4月に任期満了を迎える議会選に再挑戦する意向を示していた。
政府側は、選挙結果確定前からフォンセカ氏が滞在するホテルを軍部隊を動員して封鎖した。政府高官が「フォンセカ氏らによる大統領暗殺計画が発覚した」と発言。一方で、政権に批判的だったメディア幹部の逮捕や、同氏に近い軍幹部12人の解任など、反対派の粛清とみられる動きが相次いでいる。【2月9日 朝日】
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更に、ラジャパクサ大統領は議会をも前倒し解散して、政権基盤を強めようともくろんでいます。
****スリランカ大統領、議会を解散 批判勢力の粛清続く*****
スリランカのラジャパクサ大統領は9日夜、議会を解散した。大統領府当局者が明らかにした。大統領選の野党統一候補だったフォンセカ前政府軍参謀長が8日に逮捕され、批判勢力への粛清が続く中で総選挙に突入することになる。
現地メディアなどによると、総選挙の日程は4月8日が有力視されている。議会の任期は4月下旬までだったが、ラジャパクサ政権には先月26日にあった大統領選の勝利の勢いに乗り、総選挙を前倒しして与党の勝利を確実にする狙いがあるとみられる。
大統領選で敗れたフォンセカ氏は選挙に不正があったとして、無効とするよう求める訴訟手続きを進める一方、「野党の顔」として総選挙で再起を図る意向を示していた。同氏は、主義主張がばらばらで「反大統領」以外に共通点がなかった野党をまとめる結集軸だっただけに、逮捕は野党陣営に痛手となる。
野党側は10日に各地で抗議デモを開くことを決めたものの、陣営関係者や支持者の相次ぐ逮捕で勢いをそがれている。非常事態宣言下で強い治安権限を持つ政権側がさらに力で抑え込む可能性もある。【2月10日 朝日】
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旅行中、コロンボを車で通過しましたが、ほとんど100mおきと言っても過言でないように、街には銃を手にした兵士が配置されていました。
あのような剥き出しの権力を前にして、これに抵抗することは非常な決意を要します。
それでも、与野党支持者間の衝突も伝えられています。

****スリランカで数千人衝突、国会解散・4月総選挙*****
中心都市コロンボ郊外の裁判所前では10日、野党支持者がフォンセカ氏釈放を求めてデモを行い、与党支持者もデモで対抗、両グループの数千人が石を投げ合う衝突に発展した。警察部隊は催涙ガスを発射するなど混乱が続いた。
AFP通信によると、フォンセカ氏はコロンボ市内の海軍本部敷地内で拘束されている模様。
野党陣営は10日、「フォンセカ氏が拘束中に暗殺されると信じる理由がある」と懸念を示す共同声明を発表した。【2月11日 読売】
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【戦争犯罪の影】
ラジャパクサ大統領がフォンセカ氏を抑え込みたい理由については、次のような報道もあります。
****反旗を翻した対抗馬に弾圧を強める再選大統領*****
政府軍参謀議長だったフォンセカは米国土安全保障省からラジャパクサの実弟である国防相の聴取を要請された。主に欧米で、ラジャパクサ兄弟の内戦時の戦争犯罪が指摘されている。
聴取は実現しなかったが、内情を知る彼の証言は国際的に大打撃となる可能性がある。
ラジャパクサの弾圧は今後も続きそうだ。【2月10日号 Newsweek日本版】
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政府軍の戦争犯罪に関しては、次のような報道もありました。
****スリランカLTTE戦闘員の処刑映像、本物と断定 国連特使*****
英国のテレビ局が放映したスリランカ政府軍が捕虜となった反政府武装勢力「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」の戦闘員を処刑する映像について、国連特使は7日、本物と断定し、処刑の経緯に関する公平な調査をスリランカ政府に求めた。
映像は、スリランカ内戦時に政府軍が、LTTEを制圧しかけていたころに撮影されたもの。英テレビ、チャンネル4が前年8月に放映して物議をかもしたが、映像を調査したスリランカ人の専門家4人は、映像を偽物と結論付けていた。
この映像について、国連で超法規的・略式・恣意的な処刑問題を担当するフィリップ・アルストン特別報告者は、米国で活動する独立した立場の有資格専門家3人が再調査した結果、本物であるとの結論に至ったと発表した。
これに対し、スリランカ政府は8日、国連を「十字軍」に例え、事件を国際戦犯法廷にかけようと企んでいると非難。マヒンダ・サマラシンハ災害・人権相は、問題の映像は改ざんされたものだと主張している。【1月8日 AFP】
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【“和解”への道は】
ラジャパクサ大統領の強権的支配が進むなかで一番懸念されるのは、本来スリランカにとって今最も重要な課題である少数派タミル人との共存社会をいかにつくっていくかという問題が吹き飛んでしまい、多数派シンハラ人の民族主義的主張が更に増強されるのではないかという問題です。

日本外務省のホームページにスリランカ情勢を解説したものがあります。
****シンハラ人とタミル人の和解に向けて*****
26年間に及ぶ内戦で分断された社会を再び統合していくには、シンハラ人とタミル人の和解が欠かせません。このため、ラージャパクサ大統領は、スリランカとして単一国家を維持しながらも、北・東部を含む各州に一定の自治を認める「権限委譲」を進めていく考えを示しています。また、タミル人をはじめとした少数民族の不満解消に向け、少数民族の声がより反映されやすい上院の設置なども議論され始めています。1983年の内戦突入時、混乱状況下にありながらも、身の危険を冒してタミル人をかくまったシンハラ人もいたといいます。今後、民族の対立を越えた着実な民族融和の進展が期待されます。【外務省 スリランカ内戦の終結~シンハラ人とタミル人の和解に向けて】
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スリランカに対する最大の資金援助国である日本としては、まさにそのように望みたいところですが、現実は逆方向に走り出しているようにも見えます。

コメント
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