孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ギリシャ 財政再建策にゼネストで抗議 イギリス、日本は?

2010-02-25 23:22:21 | 国際情勢

(ギリシャ ジャーナリスト組合のデモ “flickr”より By 0neiros
http://www.flickr.com/photos/asterios/4385533267/in/set-72157607142636428/)

【不十分だが、それでも実現困難】
単一通貨ユーロ圏のひとつギリシャの財政悪化(GDP比で公的債務残高が113%、09年度財政赤字が12.7%)が、債務不履行(デフォルト)たユーロからの離脱の可能性といった信用不安を増大させていること、また、ギリシャの信用不安は同様に財政状態が悪いポルトガルやスペインなどへ飛び火しかねないことから、ギリシャ当局及びEU各国は対応に苦慮していることは、以前も取り上げました。
(2月5日ブログ「ギリシャ財政危機  EU内連鎖反応も危惧」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100205

12年までに財政赤字をユーロ加盟基準の3%まで引き下げることを宣言しているギリシャのパパンドレウ首相は、ブリュッセルで11日に開催されたEU臨時首脳会議財において、公共部門の賃金凍結の対象拡大や、燃料および海外企業に対する増税、年金受給年齢引き上げなど社会保障の見直しなどの対策で、政赤字を2010年中に4%削減して8・7%に引き下げる再建計画を提示しました。

各国首脳はこれを「意欲的」と評価して受け入れ、「必要があれば協調して確固とした行動をとる」と、ギリシャの再建計画を支持し支援することで一致しました。しかし、EUまたは加盟各国による財政支援は見送られました。
16日のEU財務相理事会でも、当面は金融支援を実施せず、ギリシャの財政再建努力を促すこととされています。具体的な支援策については今後の市場の動向を見極めながら調整を続ける方針です。

しかし、これでも不十分とも見られています。
“スウェーデンのボリ財務相は16日、財務相理事会後、ギリシャの財政赤字削減に向けたこれまでの対策は不十分とし、市場での信頼を築くためには赤字削減に向け予想以上の措置を講じていく必要があるとの見方を示した。”【2月17日 ロイター】

一方で、これすら難しいとも見られています。
“経済減速で、税収減が加速し目標達成は難しいとの見方が市場で広がっている。”【2月16日 毎日】

【「暮らしの実情を無視している」】
確かなことは、国民生活に及ぼす“痛み”は、これでも“激痛”となることです。
ギリシャでは社会不安が広がっています。
****ギリシャでゼネスト、全土に混乱…250万人参加****
ギリシャで24日、政府の財政再建計画に反対する労働組合が、24時間の大規模ストライキ(ゼネスト)を実施した。
政府が先月発表した再建計画は、公務員の社会保障費にメスを入れると同時に歳入増のため増税を盛り込んだ内容。この撤回を求めるスト参加者は、主催者推計で約250万人以上となり、国内交通網がマヒするなど混乱は全土に広がった。
ゼネストには、官公庁職員の「公務員連合」と、民間労組を束ねる「労働総同盟」が参加。首都アテネでは国会議事堂前などでデモが行われ、機動隊が警備する中、横断幕を掲げた労働者が大通りを埋め尽くした。大手通信会社勤務のディミトリオス・チョカスさん(43)は「政府は金融システムばかり重視して我々の暮らしの実情を無視している」と声を荒らげた。警察は催涙ガスを使って対応しているが、デモ参加者と衝突したとの情報もある。
アテネ国際空港は終日、全面閉鎖となった。管制官らがストに参加し、国際線を含む全便が発着できなくなったためだ。国内交通網や銀行、テレビ局も業務を停止している。

ギリシャでは昨年12月、前政権による財政赤字の過少計上が表面化し、単一通貨ユーロ圏最悪の実態が明らかになった。財政赤字の背景には、基幹産業の海運、観光の不振のほか、手厚い社会保障や脱税の横行といった事情がある。
これがユーロの価値の急落を招き、信用不安がほかのユーロ圏諸国に飛び火するほどの事態を招いている。政府が先月、財政再建計画を発表したのも、欧州連合(EU)からの厳しい要請を反映させたものだが、計画を実施する立場の財務省職員までストに参加する始末で、財政再建の前途は険しい。
社会騒乱に拡大する懸念もないわけではない。2008年末には、少数の若者集団の暴動が、政府に不満を持つ失業者や学生、左右両極の過激団体や各種労組を巻き込む騒乱に発展している。【2月24日 読売】
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当然に予想された反応ですが、これでは経済悪化・財政悪化はますますひどくなるだけです。
国民全体が、ギリシャ経済・財政のおかれた状況を理解して、相当の痛みを覚悟して対処するしか、デフォルトといった最悪のシナリオを免れる道はないように思われます。

【4割が公務員 拡大する闇経済 粉飾】
ギリシャの財政問題は、単にGDP比でみた数字上の問題だけではなく、より根深いものがあります。
ギリシャでは左派勢力が政権を担う期間が長く、公的部門が拡充され、就労人口の4割近くを占めるほど公務員が多くなっています。この非効率で社会保障制度が手厚い公的部門の拡大が財政悪化の原因になっています。
また、社会全体に課税逃れが横行し、政府が把握できていない闇経済がGDPの30%以上に達するとも言われています。

これまでの政権が、こうした放漫財政を放置してきたうえに、意図的に赤字を過少評価する“粉飾”を行ってきたのではないかとの疑惑も、市場のギリシャ経済への不信感を強めています。

【単一通貨ユーロ圏の問題】
上記のような国内事情のほか、今回の問題は、経済競争力の異なる国々が単一通貨を採用する単一通貨ユーロ圏というシステムの問題も浮き彫りにしています。
通常は競争力は為替レートの変動で調整されますが、単一通貨をとっているため、そうした調整が機能しません。

また、通貨主権をECB(欧州中央銀行)に委ねた結果、加盟各国はECBが単一通貨ユーロのために行う金融政策決定に従うことになり、単独での金融の量的緩和政策による景気刺激策もとれません。
国家のとりうる方策は制限されます。

更に、今回のように問題が明らかになったとき、EUとしてどのような救済をとるのか不明瞭です。
ECBには「非救済条項」があって、支援に踏み切ることはできないそうです。
一方、EU加盟国は、自国の税金を使って他国を救済することにもなる大規模な支援には、国内事情を考えるとなかなか踏み切れません。
いったい誰が最終的にこの制度を守るのかという、システムの安全性に問題があるように思われます。

【イギリスも?】
一般に、EU内の財政事情が悪い国として、「PIIGS」(豚)という呼称でポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペインが挙げられます。
ところが、EU主要国のイギリスの財政悪化も報じられています。

****英国:財政赤字、急拡大 国債利回り高騰*****
英国の財政赤字が急拡大している。金融危機対策の歳出増に加え、景気低迷による税収減に歯止めがかからず、増税などで黒字が見込まれた1月の財政収支も43億ポンド(約6000億円)の赤字と1月として最大の赤字を記録。これを懸念して、長期金利の指標である10年物英国債の利回りが高騰し、巨額の財政赤字を抱えるスペインやイタリアの金利水準を上回る事態に陥った。(中略)

09年度の累計赤字額は、09年12月末時点で1181億ポンドに上っていたが、黒字が見込まれた10年1月まで赤字に転落し、市場では、09年度末の財政赤字の国内総生産(GDP)比率が、政府予想の12.6%を上回ると予測。深刻な財政危機に直面しているギリシャの12.7%を上回る可能性が高まっている。
このため、市場では英国債を売る動きが広がって、英国債10年物の利回りは上昇(価格は下落)を続け、19日には4.276%と、イタリアの4.081%、スペインの4.041%を上回った。ギリシャ(6.446%)よりは低いが、財政不安が英国に本格的に波及すれば、世界経済にも悪影響を与える。【2月20日 毎日】
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信用不安がイギリスまで拡大したら、日本経済を含めた世界経済全体が大きく動揺します。
ただ、信用不安につながるかどうかは単にGDP比といった数字だけの問題ではないことは、ギリシャの例でも触れたところです。
また、その国の競争力が強ければ、外資が流入して借金を返すことができます。(金融危機以降のイギリスに、そうした競争力があるかどうかは問題ですが)
別の例をあげれば、日本のようにEU各国をはるかにしのぐ借金まみれ状態でも、問題をおこすことなくきている国もあります。

【日本はどうなるのか?】
しかし、その日本の財政状況はいよいよ末期的(公的債務残高はGDP比で192% 日本を上回るのは、あのハイパーインフレのジンバブエぐらいです。2010年度予算の財政赤字はGDP比9.3%)であり、相当の金利上昇、インフレ、財政立て直しのための増税、支出カットは、ここ数年以内に不可避の状態だとも言われています。
****国債依存度、11年度に50%超に上昇 財務省が試算****
国債への依存度が、2011年度にも50%を上回る。財務省の試算で、10年2月4日に明らかになった。国債費や社会保障費の増加が見込まれるなか、歳入に占める国債発行の割合(公債依存度)は10年度が48.0%に上り、すでに当初予算ベースで過去最悪となっている。これが11年度は54.6%に上昇する。
政府がマニフェストに掲げている、子ども手当(10年度予算2兆2544億円)や農業の戸別所得補償(同5618億円)などは試算に含まれていないため、歳出削減や増税などの税制改革を行わないと、12年度、13年度も50%超の状態が続くとみている。
一般会計の歳出総額は、10年度予算案が92兆3000億円。その後、毎年増加して13年度には100兆円の大台に達する。 なお、09年度の国の予算(補正予算後)では新規国債の発行額が税収を上回る「逆転現象」が生じている。【2月5日 J-CAST ニュース】
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いったいどうなるのでしょうか。

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