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(中国遼寧省丹東市と北朝鮮新義州市を結ぶ、鴨緑江に架かる中朝友誼橋。
使用されているのは左側の橋で、“断橋”と呼ばれる右側は、朝鮮戦争時の米軍爆撃によって、北朝鮮側が崩壊しています。“flickr”より By Prince Roy
http://www.flickr.com/photos/princeroy/1790287894/)
【「これ以上危険な火遊びをするな」】
国際社会のルールに乗ってこない北朝鮮を動かせるの国が、その政治的・経済的関係からして中国であるというのは衆目の一致するところであり、日本やアメリカも、中国の北朝鮮に対する影響力行使を期待してはいます。
ただ、これまで期待するほどにはその成果は出ていないようにも見られていましたが、中国が北朝鮮に相当の圧力をかけているとの報道がありました。
****世襲反対・核放棄…核実験後、中国が北朝鮮に圧力*****
北朝鮮が昨年5月に核実験を強行した直後、中国共産党が北朝鮮側に対し「改革開放の推進、世襲反対、核放棄」を要請していたことがわかった。複数の共産党関係者が明らかにした。友好関係にある北朝鮮に対し、内政干渉につながる要求をするのは異例で、北朝鮮の核保有や、悪化する経済への中国側の強い危機感を示したものとみられる。
北朝鮮は昨年6月に金正日(キム・ジョンイル)総書記の三男ジョンウン氏を極秘訪中させ、北朝鮮の核問題をめぐる6者協議への復帰を示唆し、外資誘致に積極姿勢をみせるなど、態度を軟化させていった。これらの動きのきっかけが、最大の貿易相手国、援助国である中国の圧力だった可能性がある。
北朝鮮関係者によると、北朝鮮は5月上旬、ジョンウン氏を後継者に指名したことを説明するため、金総書記の義弟、張成沢(チャン・ソンテク)・国防委員を中国に派遣した。核実験後の5月末、事情説明のため再度訪中したが、このとき応じたのは共産党対外連絡部の王家瑞部長だけで、張氏に対し3項目の要請を伝えた。
北京の外交筋によると、中国側は政府高官や代表団の派遣を取りやめ、企業や大学が受け入れていた北朝鮮の研究者や職員の一部を退去させた。中国メディアには「これ以上危険な火遊びをするな」(人民日報系の環球時報)などと批判的な記事が出てきた。北京の北朝鮮関係者は「これまでにない中国側の強い反発だった」と明かす。
北朝鮮は、中国の理解を求めるためジョンウン氏を訪中させることを決定。6月10日に張氏を中心とした軍訪問団に同行させた。共産党関係者は「ジョンウン氏自身が訪中することで、世襲に反対する中国側に後継者として認知してもらい、核実験にも理解を求めたかったのだろう」とみる。
その後、高官の往来が復活する。中国側は戴秉国(タイ・ピンクオ)・国務委員や温家宝(ウェン・チアパオ)首相らが相次いで訪朝して金総書記と会談。戴氏の訪朝の際は、中国から北朝鮮への石油パイプラインを止めて圧力をかけた結果、「6者協議を含む多国間協議を行う用意がある」との言葉を引き出した。
改革開放政策に対する北朝鮮の姿勢にも、否定的だった従来と比べ変化がみられるようになった。昨年12月、経済特区がある中ロ国境に近い羅先市を視察した金総書記が対外貿易の積極拡大を指示。今年1月20日には外資誘致のため国家開発銀行の設立を発表した。
中国が要請している金総書記の訪中が実現した場合、核放棄や改革開放政策にどう言及するかが注目される。 【2月23日 朝日】
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【「本当にない」】
中国外務省の秦剛副報道局長は23日の定例会見で、この朝日新聞の報道について、「まったく事実ではない」「中国は内政不干渉の原則を遂行している」と否定しています。
金正日(キムジョンイル)総書記の三男ジョンウン氏が極秘訪中したとされる件についても、「本当にない」と重ねて否定しています。
朝日とはかねてより不仲の産経が、この中国側の主張を詳しく報じていますが、秦剛副報道局長の「本当にない」という表現は、春節(旧正月)のテレビ番組で話題となったコント(芸能界に孫娘を売り込むため関係者を接待しようとした祖父と店員が注文シーンで交わした「これはあってもいいはずだ」「本当にない」との会話)からの引用だそうで、中国メディアの笑いを誘ったとか。 【2月24日 産経より】
【「生命線を断って圧力」】
朝日報道を読んで目を引いたのは、“戴氏の訪朝の際は、中国から北朝鮮への石油パイプラインを止めて圧力をかけた結果、「6者協議を含む多国間協議を行う用意がある」との言葉を引き出した。”という部分で、同紙2面にこの経緯が報じられています。
それによると、北朝鮮の石油の9割以上をまかなっている中国から北朝鮮へのパイプラインについて、これを管理する中国軍系企業が突然昨年9月中旬、供給を停止。北朝鮮側には「故障による修理」とだけ通知したとか。
この直後の9月16日に戴秉国国務委員が訪朝しています。
共産党関係者の話として、「生命線を断って圧力をかけることで、訪朝を成功させることが目的だった」というコメントが報じられています。【2月23日 朝日より】
石油供給の9割以上をまかなうパイプラインを「故障中」という通知だけで止められたら、北朝鮮も従わざるを得ないでしょう。その後の付き合い方は再検討しますが。
文字通り“生命線を断つ”強硬手段ですが、本当なら怖い話でもあります。
【北朝鮮崩壊時の混乱】
朝日報道の真偽のほどは全くわかりませんが、北朝鮮政権が行き詰まり破局的に“崩壊”することを、中国が強く懸念していることは間違いないところです。
大量の難民流入も困りますし、アメリカの影響下にある統一朝鮮国家と国境を接するのも困ります。
破局を避けるため、北朝鮮の「改革開放の推進、世襲反対、核放棄」も中国側の望むところでしょう。
もし、中国が北朝鮮へ圧力をかけていないのなら、“内政不干渉の原則”などとは言はずに、これからでも影響力を行使して、北朝鮮に国際社会ルールに従った行動をとるように促してもらいたいものです。
中国の行動自体が、国際社会ルールに則っているか・・・という問題もありますが。
頑迷な北朝鮮の対応に、その政権崩壊を期待するところもあります。
北朝鮮国民のためにもそのほうが・・・。
ただ、そうなると東アジア情勢は劇的に変化することにもなります。
その妥当性はわかりませんが、北朝鮮有事の際に中国・ロシアが共同で北を占領する、あるいは、ロシア単独で占領することを中国が容認する・・・といった可能性も論じられています。
****北崩壊時中ロ共同で北朝鮮占領の可能性も、米研究者*****
米ハドソン研究所のリチャード・ワイツ上席研究員は18日、韓米経済研究所主催の討論会に出席し、「ロシアと南北韓:過去の政策と未来の可能性」と題した研究論文を発表。北朝鮮が崩壊した場合、中国軍とロシア軍が共同で占領するシナリオが考えられると述べた。
北朝鮮が崩壊すると、人道的次元の災害が生じるのを防ぐと同時に、北朝鮮の核爆発装置や武器がテロリストや犯罪者、不良政権の手中に渡る前にこれらを確保するため、他国も軍隊を北朝鮮に送ることを考慮する可能性があると見通した。
その上で、「中国とロシアが、米軍が自分たちの国境に近付くことを許す前に、その地域(北朝鮮)を占領することを望むことが考えられる」と分析した。中ロはすでにこうした共同占領の総練習となり得るウォー・ゲームを実施していると述べ、2005年8月に北朝鮮に近い地域で重要な軍事訓練を行ったことなどを指摘した。
また、中国指導部は北朝鮮の大量破壊兵器(WMD)資産封鎖や人道的支援提供に向け、中国軍が直接動いたり米軍の北側への配置を受け入れるよりも、ロシア軍が北朝鮮を占領することを望む可能性もあるとした。
大半の米官僚は北朝鮮が核保有国になることを防ぐため、朝鮮半島の統一や北朝鮮の崩壊を含む一部不安定を受け入れるだろうが、ロシアは北朝鮮の政権交代に伴う無秩序よりも現状を望むのではないかとし、「そこが米国とロシアの最大の違い」だと説明した。
このほか、北朝鮮が核を放棄するなど温和な立場にシフトする場合はロシアによる原子力発電プログラムへの転換支援、ミサイル発射を中断する場合は同じく宇宙探査プログラムの支援が考えられると予想した。【2月19日 聯合ニュース】
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ロシアがそうした国際社会の批判の的になるような行動を敢えて行うか・・・ははなはだ疑問ですが、何が飛び出すかわからない怖さはあります。