孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド・パキスタン  包括対話に向けた協議を前に爆弾テロ

2010-02-15 17:49:43 | 国際情勢

(爆弾テロの起きたインド・プネの街角 “”より By martinstelbrink
http://www.flickr.com/photos/martinstelbrink/2601388116/)

【パキスタンの過激派組織関与か?】
インド・パキスタン両国の和平対話の本格再開を探る外務次官級協議が今月25日に予定されている矢先、インド・プネで大規模な爆弾テロが起こり、その影響が懸念されています。

****インド:爆発で9人死亡 仕掛け爆弾による無差別テロか****
インド西部マハラシュトラ州の都市プネで13日夜、大きな爆発があり、9人が死亡、33人が負傷した。レストランにあった不審な箱を職員が開けようとしたところ爆発したという。治安当局は、仕掛け爆弾による無差別テロ事件とみて捜査している。
08年11月に同州ムンバイで日本人を含む約170人が死亡した同時多発テロ事件以来、インドでは最悪のテロ事件。

ムンバイ事件では、パキスタンの武装組織の関与が疑われたことなどから、当時進められていたインドとパキスタンの和平対話が中断に追い込まれた。両国は和平対話の本格再開を探る外務次官級協議を今月25日に予定しており、今回の事件は、和平機運を阻もうとする国内勢力の関与が取りざたされている。
プネは、南部バンガロールと並び、情報技術(IT)関連企業や大規模製造工場が増えるなど、インド経済の好調ぶりを象徴する都市。それと同時に、軍事施設が集まる国防上の要衝でもある。【2月14日 毎日】
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犯行にはパキスタンを拠点するイスラム過激派の関与も取り沙汰されています。
“テロがあったのは、プネ中心部にある西洋レストラン。近くにユダヤ教関連施設があり、外国人に人気がある。死者の少なくとも1人は外国人とみられる。犯行声明は出ていない。
チダムバラム内相によると、パキスタンのイスラム過激派組織ラシュカレ・タイバとムンバイ同時テロを共謀したとして、米司法当局に逮捕されたパキスタン系米国人デビッド・ヘドリー容疑者が、このユダヤ教施設をかつて偵察に訪れていたことが判明している。今回のテロも、パキスタンを拠点とする過激派組織の関与を疑う見方が出ている。”【2月14日 読売】

【国連安保理常任理事国入りを示せば・・・】
08年11月のインド西部ムンバイ同時テロによって中断していたカシミール問題などを含む包括対話については、1月4日、インド政府がパキスタン政府に対し、外務次官級の2国間協議の再開を提案。パキスタン側も 「パキスタンはいつでも対話を望んでいる。インドの意思表明を歓迎する」と、これを受けいれたものでした。

犬猿の仲というか宿敵同士の両国ですが、核保有国間の対立というリスクのほかに、両国関係はアフガニスタン情勢にも大きく影響します。
アメリカはかねてより、アフガニスタンの戦況を左右するカギとして、イスラム過激派の聖地となっているパキスタンにその討伐を強く要求していますが、パキスタンにとってはインドとの関係の方が優先しますので、軍の大半もインド国境の方に配置しており、アフガニスタンについてもインドの影響を排除するためタリバン勢力へ融和的な対応をとっていると言われています。
したがって、パキスタンがインドへの警戒を緩めることになれば、アメリカのアフガニスタン対策も大きく進展する可能性が出てきます。

インドは多民族・多宗教を国是とする以上、イスラム教徒が多いという理由でカシミールを切り離すことはこの国是に反します。パキスタンはイスラム教徒の国として建国した以上、イスラム教徒の多いカシミールは自国へという線は譲れないところです。

それぞれの国是にも関わる建国以来の懸案事項であり、これまでも武力衝突を繰り返してきたカシミールの帰属問題がそう簡単にほぐれるとも思われませんが、インドが切望している国連安保理常任理事国の席について、アメリカが便宜を図ることを示せばインドの対応も大きく変わるのでは・・・との見方もあります。

【揺らぐザルダリ大統領の基盤】
しかし、両国の国内事情を考えると、なかなかに難しそうです。
インドはよくも悪くも民主主義国ですから、パキスタンに譲歩するような方針について、国内の反対勢力が強固に抵抗することが予想されます。
今回のようなテロが起きると、パキスタンを敵視する国内勢力は更に勢いづくところとなります。
まさに、そこがテロを起こした側の狙いでしょうが。

パキスタンの方は更に厄介です。
本来は大統領権限である程度の方針決定ができる国ですが、ザルダリ大統領は軍部の支援もなく、党内権力基盤も著しく弱く、反対勢力を押し切って何らかの決定ができる状況ではありません。
それどころか、パキスタン最高裁判所は昨年12月16日、ムシャラフ前政権下で07年10月に制定された「国民和解協定」を違憲と認定し、破棄を命じました。これにより、7件の汚職罪で訴追されながら和解協定によって「無罪」とされたザルダリ大統領への審理再開が可能となり、大統領在任中の刑事免責があるとしても大統領の法的立場は大きく揺らいでいます。

チョードリー最高裁長官を頂点とする司法権力と緊張関係にあるザルダリ大統領ですが、次のようなニュースも入っています。
****パキスタン:大統領の判事指名凍結****
パキスタン最高裁は13日、ザルダリ大統領が指名した最高裁と東部ラホールの高裁の判事人事について、憲法に規定された最高裁長官との協議を怠ったとして凍結することを決めた。大統領が協議を怠った経緯は不明。
AP通信によると、大統領府報道官は13日、政府が非常事態宣言も視野に入れているとのうわさを否定した。【2月14日 毎日】
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どういう事情かは全くわかりませんが、チョードリー最高裁長官との対立・緊張関係が背景にあることは推測されます。
昨年暮れ以来、パキスタンからのニュースには“非常事態宣言”とか“クーデター”という物騒な文言が見られる情勢です。
こうした状況で、なんらかのインドとの妥協というのは、ますます難しいように思えます。

コメント
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