
(オマル師についてはよく分かっていませんが、1959年頃、カンダハル近郊のノデ村の貧しい農民の息子として生まれ、89年から92年までソ連軍撤退後のナジブラ政権とネク・モハメド司令官のもとで戦い、4回負傷。うち1回の負傷で右目を失っていると言われています。【アハメッド・ラシッド著「タリバン」より】
偶像崇拝を禁じていたためか、公式にオマル師とされている写真は一枚もありませんが、一応オマル師ではないかと言われている写真の1枚のようです。
このあたりの“謎”は、かつてのクメール・ルージュのポル・ポトのようでもあります。
“flickr”より By pigli
http://www.flickr.com/photos/fotodipigli/128799840/)
【「大きな成功だ」】
前日の会見では事実確認を避けていたギブズ米大統領報道官は17日の記者会見で、パキスタンでアフガニスタンの反政府勢力タリバンのナンバー2、アブドル・ガニ・バラダル師が拘束されたことを初めて認めた上で、パキスタンと米国の相互努力による「大きな成功だ」と語っています。
****米、タリバンのナンバー2司令官の拘束を確認****
パキスタンと米国の諜報機関が前週パキスタン南部のカラチで共同の秘密作戦を行い、バルダル師を拘束したというニュースは15日に最初に報じられた。パキスタン軍は米国に先立ちバルダル師拘束の事実を確認していた。拘束時の詳しい状況は明らかにされていない。
バラダル師はタリバンで最高指導者ムハマド・オマル師に次ぐナンバー2の地位にありアフガニスタンにおける米国との戦いを指揮していた。米政府の公式な確認を受け、バラダル師拘束を歓迎する米当局者の発言が相次いでいる。
バラダル師は、2001年9月11日の米同時多発テロの首謀者、国際テロ組織アルカイダのウサマ・ビンラディン容疑者をかくまったとされる。米国などがアフガニスタンに侵攻してタリバンを政権の座からおろした2001年以降に拘束されたタリバン関係者のなかでは最も高位の人物で、専門家は「情報の金鉱」と呼んでいる。
パキスタン政府はこれまで、自国領から作戦を行ってきたタリバン指導者らに対し行動をとるよう求める米政府に反発してきた。今回、カラチで拘束されたという事実は、パキスタン政府が大きく方針を変えたことを示唆している。【2月18日 AFP】
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バラダル師については、“年齢40歳前後。タリバン内では、最高指導者オマル師に「兄弟」と呼ばれる間柄だ。作戦司令官であると同時に、タリバンの意思決定機関である「シューラ(評議会)」を取り仕切る、組織の政治的・軍事的頭脳とされる。アフガンで米兵死者数が増加した主要因である簡易仕掛け爆弾(IED)設置の作戦指揮をしたのもバラダル師だとされる。オマル師や国際テロ組織アル・カーイダ指導者ウサマ・ビンラーディンの潜伏先に関する重要情報を握っている可能性も高い。”【2月17日 読売】と報じられています。
また、“バラダル師は、タリバーンの最高指導者オマール師に唯一、直接面会できる幹部とされ、タリバーン関係者によると、オマール師の命令を他の幹部に伝える重要な地位にある。バラダル師の拘束が事実とすれば、タリバーンには大きな打撃となりそうだ。”【2月16日 朝日】とも。
【タリバン、パキスタン側の事情?】
拘束が難しいと思われていたバラダル師のような高位の者が拘束された背景としては、上記AFP記事にあるような“パキスタン政府はこれまで、自国領から作戦を行ってきたタリバン指導者らに対し行動をとるよう求める米政府に反発してきた。今回、カラチで拘束されたという事実は、パキスタン政府が大きく方針を変えたことを示唆している。”というパキスタン側の方針変更、“バラダル師は、カルザイ政権や米当局との交渉に前向きで、これを嫌うタリバン内の反対派による情報提供で潜伏場所を特定された可能性があると報じた。”【2月17日 時事】といったタリバン内部の事情も報じられています。
また、“オマール師の代理人として権勢をふるうバラダル師に対し(タリバン内部で)反感が広がっていたとも言われる。”【2月17日 朝日】ともあって、同紙は、パキスタン側の方針変更についても、“ISI(パキスタン軍統合情報局)がタリバン幹部らに不人気なバラダル師を排除するために米国に協力しただけ”というような見方もあることを伝えています。
なにぶん、情報が伝わらないタリバン幹部の話で、拘束したのがアメリカCIAとパキスタンISIという秘密主義の組織ですから、真相は皆目わかりません。
【「情報の金鉱」】
いずれにせよ、オマル師側近で「情報の金鉱」ということですが、その金鉱から金を掘り出せるのか?
もし自分の口からオマル師の所在が漏れたなどということになると、裏切り者として一生命を狙われることにもなります。
ブッシュ・チェイニーの時代なら“水責め”とか、いろいろ方法もあったのでしょうが、「自分たちの理想を守るために戦っているのに、その戦いにおいて自分たちの理想を曲げてしまっては、自分自身を失うことになります。理想を掲げるのが楽な時だけそうするのではなく、そうするのが辛い時に掲げてこそ、自分たちの理想を守ることになります」(オスロ・ノーベル平和賞受賞演説)というオバマ大統領ですから、どうでしょうか?
それとも、そのあたりはISIに任せるのでしょうか。
彼の口から語られることとは別に、“バラダル師は、カルザイ政権や米当局との交渉に前向きで”【2月17日 時事】ということも関心が持たれます。
最高指導者オマル師に唯一、直接面会できる幹部であったバラダル師が、本当にそういう“交渉”に前向きだったとしたら、今後の“交渉”の可能性にも期待がもてます。
しかし、それが理由で“売られた”としたら、逆に、そういう交渉は今後ない・・・ということでしょうか。
アフガニスタン政府は水面下で、タリバン指導部との交渉を進めているとされ、一部報道では、モルディブとアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで少なくとも3回、話し合いが行われたも言われています。
ただ、その成果は今のところ何も出ていませんが。
国内で“弱腰”との保守派からの批判を受けているオバマ政権としては、今回“成果”で一息つけることにはなるでしょう。
【「人間の盾」と相次ぐ民間人犠牲】
そのオバマ政権が、今後のアフガニスタン情勢を決めるという覚悟で臨んでいる南部のヘルマンド州マルジャで米軍中心のISAFとアフガニスタン軍が進めているタリバンに対する大規模掃討作戦「モシュタラク」については、タリバンの主要拠点をほぼ完全制圧したとアフガニスタン国軍が15日発表していますが、タリバン側が住民を「人間の盾」にして、民家から銃撃を加えるなどの抵抗を始めたとも報じられています。
“(アフガニスタン軍)司令官によれば、タリバンは民家の屋上に女性や子供を配し、その背後から発砲しているという。タリバンのスポークスマンはこれを否定した。”【2月18日 時事】
同作戦は、タリバン側に投降を呼びかけるとともに、住民の避難を確保するため、事前に告知する形で行われましたが、最も懸念されていた民間人被害が相次ぎ、米軍司令官がカルザイ大統領に謝罪する事態ともなっています。
“米軍が所属する国際治安支援部隊(ISAF)によると、13日から始まった反政府武装勢力タリバーンに対する掃討作戦で、米軍の多連装ロケット砲から発射されたロケット弾のうち2発が、同州ナデラリ地区のタリバーンの拠点を約300メートルそれて住民がいたところに着弾した。
駐留米軍トップのマクリタル司令官は、アフガンのカルザイ大統領に謝罪。ISAFはこのロケット砲の使用を当面、控えるとしているが、命中精度の低いロケット砲を民間人の居住地域で使ったことが問題視されている。”【2月15日 朝日】
しかし、その後も15日は誤爆で5人、16日には3人の民間人死亡が報告されています。
同作戦は、米軍撤退後を担うアフガニスタン軍の能力を試す試金石ともなっていますが、過去の作戦が、掃討後の治安維持にあたる部隊の規模が不十分でタリバンの復興を許したのに対し、今回はタリバンを掃討した後、医療機関や電気など公共サービスの復旧や統治機構の整備に乗り出し、中央政府の支配の確立までを目指すとされています。
アフガニスタン軍との共同作戦「モシュタラク」、オマル師側近拘束・・・これで態勢を立て直すことができるか、スガニスタン情勢が注目されます。