孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランスのロマ規制強化 ドイツのトルコ系移民批判 最近の欧州社会の風潮

2010-09-05 20:23:15 | 世相

(フランス カマルグ地方のマリー=ド=ラ=メール ロマダンサーの路上パフォーマンス
“flickr”より By semantico http://www.flickr.com/photos/semantico/3606105493/)

【エスカレートするサルコジ政権のロマ規制】
フランスで7月に起きた、国内を放浪する「非定住者」の暴動を契機とする、サルコジ政権によるロマ国外退去処分については、8月19日ブログ「フランス・サルコジ政権  ロマ規制強化、不法滞在ロマをルーマニアへ送還 (http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100819)」でも取り上げましたが、その後も、窃盗やしつこい物ごいを繰り返し公共の秩序を脅かした外国人について国外退去を可能にする、ロマを念頭においた方針を明らかにするなど、この施策を強化しています。
(ロマ:インドが起源とされる民族で、欧州には推定で1000万人以上が在住。ルーマニアやブルガリアを中心とする旧東欧に多く定住する一方、一部は各地の移動を続ける。欧州では「ジプシー」などと呼ばれ差別されるが、集団で窃盗などを働き、摘発される例も報告されている。【9月1日 毎日】)

****フランス:ロマ国外退去の姿勢強化 国内外から批判****
フランス国内を放浪するロマ族について、サルコジ政権が「パリの窃盗の5分の1はロマの仕業だ」などと指摘、出身国への国外退去を加速する姿勢を強めている。同政権の姿勢には国際社会から強い批判が出ており、ロマの出身国であるルーマニアも欧州連合(EU)での討議を要求するなど、問題は広がる一方だ。
仏のオルトフー内相とベッソン移民相は8月30日、「パリで過去18カ月間、(ロマ中心の)ルーマニア人の犯罪は2.6倍に増えた」とも指摘。「(ロマによる)窃盗や、しつこい物ごいへの対抗手段」として今後、より簡単にロマをルーマニアなどの出身国に退去させる手段を考慮するとした。

仏では7月、国内を放浪する「非定住者」が商店を略奪するなどの暴動が発生。サルコジ大統領はロマ族などの違法キャンプの撤去方針を示し、ここ1カ月で約1000人をルーマニアとブルガリアに帰還させた。仏政府によると、今年のロマ国外退去者はすでに約8300人と、昨年1年の約7900人を大きく上回っている。
これには国連などのほか、欧州安保を目指す全欧安保協力機構(OSCE)も強く批判。サルコジ政権内部からも「人権侵害」との批判が出始めている。
ルーマニアからの報道によると、同国のバコンスキ外相は「(仏の姿勢は)問題の根本的解決にならない」として、欧州レベルでの討議を求めた。一方、ルーマニアのロマ援助団体「ロマ市民連合」は仏製品不買運動のほか、欧州各国の仏大使館前での抗議活動を呼び掛けている。【9月1日 毎日】
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【批判は強いが、世論は支持】
こうしたサルコジ政権の姿勢に、左派勢力は人権侵害と反発していますが、国内右派陣営からも批判の声が上がっています。“12年の大統領選挙を視野に中道右派新党「共和国連帯」を旗揚げしたドビルパン前首相は仏紙ルモンドへの寄稿で「仏国旗の汚点」とサルコジ政権の対応を糾弾し、ラファラン元首相も「行き過ぎだ」と同調した。”【8月27日 毎日】

EUもフランスの対応を問題視しています。
****フランス:ロマ送還、EU法に抵触も…欧州委が見解表明へ****
フランスのサルコジ政権による少数民族ロマのルーマニアなどへの送還について、欧州連合(EU、加盟27カ国)の行政府・欧州委員会が合法性に疑問を投げかける内部報告書をまとめた。欧州市民に「域内移動の自由」を保障しているEU法に抵触している可能性があるためだ。欧州議会の左派・中道勢力も送還を非難しており、仏政府に対する政治圧力がEUレベルで強まっている。
ロマを含めEU加盟国の国民(欧州市民)は、公共治安にとって「深刻な脅威」となる場合を除き、EU域内で自由に移動、居住、労働する権利がEU法で保障されている。また、EU基本権憲章は国籍や民族、人種などを理由とする差別を加盟国に禁じている。(中略)
欧州委員会は仏政府に追加説明を求めており、現段階では、送還がEU法違反かどうかの最終判断は差し控えている。EU筋によると、3日にブリュッセルで開く仏政府法律専門家との会合を踏まえ、欧州委員会のレディング副委員長(司法・基本権・市民権担当)が7日に欧州議会で合法性についての見解を表明する見通し。(後略)【9月3日 毎日】
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しかし、“26日付仏紙パリジャンの世論調査によると、送還賛成は48%で反対(42%)を上回り、強硬路線は「サルコジ大統領の選挙攻勢」(スペイン紙エルパイス)との指摘もある”【8月27日 毎日】とのことで、国内世論はサルコジ政権の強硬姿勢に好意的です。

【ルーマニアの実情】
多くのロマの母国であり、送還先であるルーマニアはフランスの対応を批判していますが、厳しいロマ差別がある国です。
****「帰ってきてほしくない」…母国ルーマニア*****
フランス政府に国外送還されたロマにとって、受け入れ先の一つ、母国ルーマニアも安住の地ではない。同国はロマに対する偏見が欧州で最も強いといわれ、差別によるロマの人口流出が今回の送還の遠因になった。支援団体などは、ロマの社会的統合に向けた政府の本格的な取り組みを求めている。

「国民は仏に反発しているだけでなくロマに帰ってきてほしくない」。ブカレストの非政府組織(NGO)連合体「ロマ市民連合」のデイビッド・マークさんはルーマニア人の心境を説明し「欧州で数世紀も続くロマへの憎悪は今、政治スローガンになろうとしている」と警告する。
ルーマニアで昨年10月に発表されたロマ支援組織の世論調査によると、8割近くは「多くのロマが違法行為に手を染めている」と回答。約3割は「ロマと同じ町で暮らしたくない」と答えた。

07年にルーマニアと隣国ブルガリアがEUに加盟すると、EU域内の移動の自由を得たロマは経済的困窮などを背景にフランスなどへ移動。一部が組織的な物ごいや犯罪行為に関与したことなどを背景に送還に発展した。
ルーマニアでの支援策に批判もある。自らもロマで同胞の地域開発を支援するブカレストのNGO「イムプレウナ」のゲル・ドゥミニカさんによると、ロマ対策としてEUの支援で90~05年に5000万ユーロ(約55億円)が投入されたが、1人当たりでは年2ユーロ(約220円)程度だ。「政府は問題解決に向けた政策を十分に講じてこなかった」と分析する。
一方、ドゥミニカさんは「ロマが自らを故意に社会から疎外化する傾向にある」とも指摘する。子どもの教育など長期的な投資を軽視する「その日暮らし」的な価値観を見直す必要があると話した。【9月3日 毎日】
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フランス政府は自発的に出国に応じた者には1人300ユーロ(約3万3千円)、出身国で店などを出す計画がある者には3600ユーロ(約40万円)を支給しています。そして出国に応じない者は強制送還します。
このため、“仏週刊誌ルポワンによると、ルーマニア東部カルビニ在住のロマ人の大半は少なくとも一度は仏滞在の経験がある。300ユーロや開店資金が目当てだ。「次は開店の計画書を提出する」と渡仏の機会を狙っている者もいる。仏国内のロマ人はここ数年、常時約1万5千人。追放してもいつのまにか舞い戻るイタチごっこが続いている”【8月25日 産経】といった実情もあるようです。

【タブー発言にドイツ世論は好意的】
一方、ドイツでは、「ユダヤ人に特定の遺伝子がある」などと人種差別的な発言をしたドイツ連邦銀行理事の発言が問題になっています。“ユダヤ人遺伝子”に合わせて、ドイツで増加するトルコ系移民への批判を行っています。

****人種差別発言でドイツ中銀理事解任へ、タブーに踏み込んだとの評価も****
2010年09月03日 18:05 発信地:フランクフルト/ドイツ
ドイツ連邦銀行(中央銀行)は2日、「ユダヤ人に特定の遺伝子がある」などと人種差別的な発言をしたティロ・ザラツィン理事の解任をクリスチャン・ウルフ大統領に申請することを理事会で決めた。ドイツ連銀理事は大統領に任免権があり、連銀自ら解任はできないため。

■「ユダヤ人遺伝子」「トルコ人がドイツを征服」
ザラツィン氏は最近出版した自著で、イスラム教徒の移民のドイツへの流入と、国内のトルコ系住民の高い出生率を指摘するとともに、そのために欧州最大の経済大国であるドイツが貧困化すると主張した。
また、ある新聞の取材に対し、「すべてのユダヤ人はある特定の遺伝子」を持っており、その特性はスペイン北部のバスク人と共通するとの自説を展開、人種差別的、反ユダヤ的だとの批判を受けた。
さらに前年10月には、「コソボ人がコソボを制服したのとまさに同じように、トルコ系住民は高い出生率を武器にドイツを征服しようとしている」「アラブ人とトルコ人はこの街(ベルリン)で、果物と野菜を売る以外の生産的な活動をしていない」などと発言していた。

一連の発言はドイツ全土で強い反発を招き、アンゲラ・メルケル首相は「断じて受け入れられない」、欧州中央銀行のジャンクロード・トリシェ総裁も「がく然とした」と批判した。

■ザラツィン氏を支持するドイツ国民、その理由は…
しかし、ドイツ国内ではザラツィン氏に理解を示す声も多い。ザラツィン氏の発言は、これまでタブーとされてきたがオープンに議論したほうがよい問題に踏み込んだものだ、と受け止められているためだ。
ニューステレビ局N-24が視聴者を対象に行った調査では、51%がザラツィン氏の解任に反対している。ザラツィン氏が党員として所属する中道左派の野党・社会民主党(SPD)も1日、ザラツィン氏を支持するメッセージが多数、党あてに寄せられていると語った。

■ドイツで問題化するトルコ系移民
ドイツ国内のトルコ系移民は約300万人。彼らがドイツ社会にうまく溶け込めていない事実は、独政府も認めている。公式統計によると、ドイツ国籍を持たない若者の約5人に1人が学校を中退しているが、トルコ系2世、3世の多くはドイツ国籍ではない。高校を卒業するのは10人に1人未満で、彼らの失業リスクは国民平均の2倍近い。
こうした現状に、緑の党のレナート・キュナスト党首も2日、ザラツィン氏の発言からは距離を置きつつも、移民問題について「(ザラツィン氏と同じく)懸念している」との認識を示している。【9月3日 AFP】
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そのほか、オーストリアでは極右野党・自由党が、イスラム教徒やモスクを「標的」に狙い撃つオンラインゲームを設け、イスラム団体などから批判を浴びており、検察当局も「反イスラム感情を扇動する恐れがある」として捜査に乗り出しています。

【本音と建前】
全体的に保守化、反移民、反イスラムの風潮が強まる欧州社会ですが、移民・イスラム系住民の増加とともに、欧州危機に見られる欧州社会の余裕の喪失も背景にあるように思われます。
“本音”と言われる手っ取り早い不満解消も無視できないものですが、“建前”や“あるべき姿”に向けた時間のかかる面倒な努力を放棄することもいかがなものかという感じがします。そこに生まれる社会には、他者への思いやりを欠いた、やや恐ろしいものを感じます。

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