孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中東和平 直接交渉開始 難問山積み 見えにくい前進の可能性

2010-09-03 23:40:13 | 国際情勢

(9月2日 ホワイトハウスで ネタニヤフ首相(右)とアッバス議長(左)“flickr”より By The Prime Minister of Israel
http://www.flickr.com/photos/israelipm/4951162113/)

【「大きな三つのチェスの駒」】
中東和平に関するイスラエル・パレスチナ自治政府の直接交渉がアメリカで開始されていますが、今この時期に直接交渉をお膳立てしたアメリカ・オバマ政権の思惑は、苦戦が予想される中間選挙をにらんで、イラク、イランを含めた中東地域の三つの課題に相乗効果を持たせることにあるそうです。

****中東和平:危険な米の包括戦略…直接交渉継続*****
オバマ米政権は2日、政権発足以来初めて、中東和平の直接交渉開始にこぎ着けた。先行きが不透明な中東和平にあえて取り組んだ裏には、イラク、イランを含めた中東地域の三つの課題に相乗効果を持たせる意図がある。さらに、苦戦が続く11月の米中間選挙に向け、外交成果を政権浮揚につなげる狙いも見える。国内外の難問を一挙に解決しようという「包括戦略」だが、一方で、「負の連鎖」を招きかねない危うさをあわせ持つ。

オバマ大統領が就任早々、中東和平に積極的に関与する姿勢を見せたのは、アラブ社会の反米感情を好転させるのが目的だった。イラクでの戦闘任務終了宣言は先月31日。その2日後の中東和平直接交渉でアラブ社会にアピールできる。
同時並行で進めたのが、核問題を巡るイランへの圧力強化だ。今年6月の国連追加制裁決議に続き、米国や欧州連合(EU)は独自制裁を発表。イランが最近、欧米などとの核協議に応じる姿勢をみせているのは、「制裁の効果」とオバマ政権は分析している。
エマニュエル米大統領首席補佐官は米紙ニューヨーク・タイムズに「大きな三つのチェスの駒(イラン、イラク、中東和平)があり、それぞれで成功する準備が整っている」と述べた。

外交成果を国内問題に連動させようという大統領の意図は、31日の演説でも明らかだった。大統領はイラク戦争への出費が、国内経済を疲弊させたと強調し米軍戦闘部隊の撤退は、経済の再生につながるという論理を展開。AP通信などの世論調査では、米国民の68%が戦闘任務終了を支持、一定の効果を裏付けた。国内支持率低迷の要因である経済の先行きが不透明な中、大統領は、外交問題であってもアピール材料がほしいところだ。

ただ「チェスの三つの駒」のいずれにも不安要因がある。中東和平交渉では、イスラエル占領地でのユダヤ人入植活動の暫定凍結期限が26日に切れる。イスラエルが凍結を延長しない場合、パレスチナは交渉打ち切りも辞さない構えだ。
イランは、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義ハマスと連携しており、中東和平をかく乱させる「駒」を持っている。イラクでは、新政府の組閣が進まない政治空白が続く。
いずれの失敗も米国の信頼性を再び低下させる。オバマ政権の包括戦略は「ハイリスク・ハイリターン」だ。【9月3日 毎日】
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「大きな三つのチェスの駒(イラン、イラク、中東和平)があり、それぞれで成功する準備が整っている」・・・・どうでしょうか?
イラン核問題はなかなか進展がみられません。アフマディネジャド大統領は欧米との決定的対立は避けたいようにも見えますが、国内強硬派の意向に逆らって大きな譲歩は困難な情勢です。
イスラエルのイラン核施設攻撃といった可能性さえ排除できない状況です。

イラクの不安定性はこれまでも何回もとりあげたところです。
アメリカの中間選挙を控えての撤退スケジュール強行が裏目に出る危険もあります。

【双方が譲れない問題ばかり】
大きな三つのチェスの駒はそれぞれ失敗する危険が漂っていますが、中でも一番難しいのが中東和平です。
どうみても交渉が前進しそうな雰囲気はありません。
交渉では、ユダヤ人入植地、国境画定、エルサレムの帰属、パレスチナ難民の帰還権、安全保障などが主要議題になりますが、どれひとつとっても双方が譲れない問題ばかりです。

****中東和平:直接交渉のポイント*****
 ●ユダヤ人入植地
 イスラエルは昨年11月以来、占領地ヨルダン川西岸での新規の入植住宅建設を「凍結」してきたが、この期限が26日に切れる。建設再開となればパレスチナの反発は必至で、直接交渉は早くも瀬戸際に陥る可能性がある。「凍結」が交渉再開の前提なのか、交渉での協議対象なのかは、判然としていない。
 国際法は占領地への入植を禁じている。パレスチナは西岸と東エルサレムでの入植の完全凍結を求めてきた経緯があり、パレスチナのエラカト交渉局長は「完全凍結しなければ直接交渉は打ち切られる」と明言した。
 だが、イスラエルは国内法で東エルサレムを自国領と規定。西岸を「係争地」と認識し、「凍結」継続を拒んでいる。右派主導の連立政権内では建設再開を求める声が強く、「凍結」継続なら連立崩壊につながるとの見方も出ている。
 ●国境画定
 パレスチナは国境画定を最優先に考えているとみられ、「イスラエル軍の占領地からの撤退と土地交換」を提案し、米国に地図も渡した。「土地交換」とは、一部の大規模入植地をイスラエル領と認める代わりに、同等のイスラエル領をパレスチナ国家に編入することを意味する。
 実は、国境画定は入植地問題とも密接に関係している。イスラエル政権内では、自国領に組み入れたい主要な入植地でのみ建設を再開する一方、その他での方針はあいまいにして、交渉継続と政権維持の「両立」を図る案などが浮上している。
 ●エルサレム、難民
 合意が特に難しいのがこの問題だ。
 パレスチナは旧アラブ人地域の東エルサレムを将来の「首都」に想定するが、イスラエルはエルサレム全域を「永久不可分の首都」と主張している。東エルサレムの旧市街にはユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地が集中しており、この帰属を巡る争いが問題をより複雑にしている。
 一方、イスラエル建国(48年)などで故郷を追われたパレスチナ難民は470万人超。パレスチナは自決権や国連決議194(同年)などに基づき、全難民の帰還を求めているが、イスラエルは一部の帰還や補償による解決を主張するとみられる。
 ●安全保障
 イスラエルの最大の関心は安全保障だ。「隣国」となるパレスチナ国家の非武装化を要求し、戦略拠点であるヨルダン渓谷など西岸の一部地域での軍駐留継続を主張している。
 これに対し、パレスチナはイスラエル軍撤退と引き換えに、多国籍軍の駐留容認を示唆している。
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【交渉前進を望まない国内勢力】
上記のような具体的問題点以前に、イスラエル、パレスチナ双方に妥協を認めない勢力があることが、交渉を更に難しくしています。

****イスラエル:宗教指導者「パレスチナ人は消えるべきだ」*****
イスラエルで連立政権の一角を占めるユダヤ教超正統派「シャス党」の宗教指導者、オバディア・ヨセフ導師(ラビ)が、パレスチナ自治政府のアッバス議長やパレスチナ人が「地球上から消えるべきだ」などと、エルサレムのシナゴーグ(礼拝堂)で説教。中東和平の直接交渉が米ワシントンで2日に再開されるのを前に物議をかもしている。

ヨセフ導師は8月28日、「神は、パレスチナ人たちに疫病をもたらすべきだ」などと発言し、イスラエル・ラジオが翌29日にその抜粋を放送した。自治政府は声明で「民族差別的な扇動だ」などと強く反発。イスラエルのネタニヤフ首相が「(発言は)私または政府の考えを反映するものではない」と釈明する事態に陥った。米政権は当事者に挑発的な行為を控えるよう呼びかけている。
シャス党は、副首相を含む閣僚4人を右派連立政権に送り込み、政策を左右している。ヨセフ導師は宗教法の権威で、超正統派ユダヤ教徒に強い影響力を持っている。【8月31日 毎日】
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一方、ガザ地区を実効支配する強硬派ハマスも、予想されたように、交渉を妨害するテロ行為を始めています。
****車銃撃、ユダヤ人4人死亡 「入植者に反撃」ハマス声明*****
イスラエルが占領しているヨルダン川西岸ヘブロン近郊で8月31日夜、走行中の車両が銃撃され、妊娠中の女性1人を含むユダヤ人計4人が死亡した。イスラム組織ハマスの軍事部門が、「パレスチナ人への攻撃を繰り返す入植者への反撃だ」とする犯行声明を出した。

イスラエルとパレスチナは2日にワシントンで和平に向けた直接交渉を再開する予定だが、米国などはハマスをテロ組織とみなしており、和平プロセスから除外している。
今回の犯行は、和平交渉に反対するハマスが、直接交渉再開のタイミングを狙った犯行とみられ、ハマスの存在をパレスチナ人や国際社会に示すことが目的とみられる。
犯行声明では「占領者(イスラエル)と、その協力者は実りのない交渉を追い求めている」とし、名指しは避けたものの、米国などの要請で直接交渉に入ることを決めたアッバス・パレスチナ自治政府議長を批判した。【9月1日 朝日】
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ハマスへの強硬姿勢は、直接交渉での唯一の合意点です。
パレスチナ治安当局は事件後直ちに西岸全域でハマス関係者ら150人以上を拘束し、治安維持に努める姿勢を強調しています。
“イスラエルとパレスチナの両治安当局は近年、協力関係を強めている。パレスチナ側には将来の国家樹立を視野に、自らの治安能力をアピールしたい思惑があるが、こうした姿勢がハマスとの対立をさらに深める一因にもなっている”【9月3日 毎日】

パレスチナに厳しい姿勢をとってきたネタニヤフ首相は、右派だけに、逆に国内保守派を抑えての妥協の可能性がない訳でもありませんが、難問山積の現状では、連立政権では荷が重いか・・・。
すでに政治基盤が揺らいでいるアッバス議長側は、交渉での譲歩による国内反発を乗り切る体力は残っていないようにも見えます。

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