孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

次期首相が決まらないネパール 隣国インド・中国の思惑

2010-09-11 19:38:57 | 国際情勢

(4月24日から29日 ブータンで開催された第16回南アジア地域協力連合(SAARC)サミット(首脳会議)の様子 写真左からカルザイ・アフガニスタン大統領、ナシード・モルディブ大統領、シン・インド首相、ネパール・ネパール首相、ギラニ・パキスタン首相、ハシナ・バングラデシュ首相(右端女性) 加盟国はこのほかブータン、スリランカの計8カ国  日本、中国、アメリカ、EU、韓国、イラン、モーリシャス、オーストラリア、ミャンマーの9カ国がオブザーバー参加しています。
当然にインドの影響力が強いエリアですが、アフガニスタンへの影響力を含めた印パ対立や周辺国のインドへの警戒感などもあるエリアです  “flickr”より By mysansar28
http://www.flickr.com/photos/49104254@N07/4563507021/


【7回目の首相指名選挙も決まらず】
新たな首相選定・組閣が難航しているのが中東イラク、欧州のオランダ、ベルギー、そしてアジアのネパール。
ネパールでは2008年に王制を廃止し、新憲法の起草作業が続いていますが、制憲議会で約4割を占める第1党・ネパール共産党毛沢東主義派(毛派)のダハル書記長を首相とする連立政権が09年5月に崩壊。
その後、第3党の統一共産党出身のネパール氏が非毛派各党の連立を率いていました。

憲法制定には議会の3分の2の賛成が必要で、毛派の協力が不可欠ですが、内戦時代のゲリラ勢力だった毛派軍の国軍編入などをめぐり、これを拒否する政府と毛派が対立。
しかし、制憲議会の任期切れが迫ってきたため、今年5月、主要与党は毛派との間で、任期切れとなる制憲議会の任期延長の見返りに、ネパール首相を辞任させることで合意しました。【6月30日 朝日より】

ネパール首相は辞任を拒否していましたが、6月末にようやく同意。次の首相選びに入りました。
しかし、第1党ネパール共産党毛沢東主義派のダハル書記長と第2党ネパール会議派のパウデル副総裁がともに過半数を得票できず、現在に至っています。
なお、次期首相が決まるまで、ネパール前首相が暫定的に執務を続けるとのことです。

****新首相、2カ月以上決まらず=選挙7回、あきれる国民―ネパール****
共和制移行後、初の憲法制定を目指すネパールの制憲議会(定数601議席)が、6月末から2カ月以上も新首相を決められない状態が続いている。7日、これまでと同じ2候補間で7度目の首相指名選挙が行われたが、当選に必要な票数に達しなかった。暫定憲法の規定では新首相選出まで延々と選挙を繰り返す必要があるが、政治的妥協よりも党利党略を優先する各政党に国民からはあきれる声も出ている。
議会では、第1党で野党のネパール共産党毛沢東主義派のダハル書記長と、与党第1党のネパール会議派のパウデル副総裁との間で一騎打ちが続いたが、両候補とも当選のカギを握る少数政党の支持取り付けができず、今後も新首相が決まるめどは全く立っていない。【9月8日 時事】
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【中国・インドの介入も】
どちらも過半数を確保できないということは、棄権票があるということです。
政策協議や、いわゆるカネやポストのやり取りによる棄権票の取り込み次第では、簡単に決着がつきそうにも思えるのですが・・・・。そういうダーティーな「カネやポスト」は行われていないということでしょうか?

****ネパール 26日にも8度目首相選 中印介入、深まる混迷****
連邦共和制に移行後のネパールでは、制憲議会(定数601)が2カ月以上にわたって新首相を決められず混迷している。26日に8度目となる首相選が行われる予定だが、決着する見通しはない。事態が長期化している要因として、ネパールを挟む中国とインドの介入が指摘されている。

首相選は、議会第一党の野党・ネパール共産党毛沢東主義派(237議席)のダハル書記長と、与党第一党ネパール会議派(114議席)のパウデル副総裁の一騎打ちとなっている。
毛派は中国と緊密な関係にあり、ダハル氏は2008年の首相就任後の初外遊先として、インドではなく中国を選んだ。一方の会議派は、中国の影響力の拡大に警戒感を強めるインドと近い。
両候補とも7度の首相選で、いずれも勝利に必要な過半数獲得に至らなかった。両党による他党議員の取り込み工作が水面下で展開されており、特に82議席をもち、インド国境を拠点とするインド系住民からなるマデシ諸政党の支持取り付けが、焦点となっている。

マデシ諸政党は、もともとインドと関係が深く、インド政府は8月、特使をネパールに送り、マデシ諸政党に一体となって行動するよう要請したとされる。マデシ勢力が毛派に流れない限り、ダハル氏の返り咲きを阻止できるとのインド側の計算があるようだ。しかし、最近になって一部のマデシ政党が、ダハル氏支持に回ると伝えられている。
こうした中、毛派幹部とみられる人物が、議員を買収する資金を提供するよう、ダハル氏の勝利のために協力を申し出た中国人に要求する電話の会話テープが、メディアにリークされた。その後の投票でもダハル氏は過半数を得られなかった。【9月10日 産経】
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やはり水面下でうごめくいろんな動きがあるようです。
ただ、「カネやポスト」で連立政権を誕生させても、「毛派軍の国軍編入」をどうするのかという問題で合意が得られない限り、新政権はすぐに立ち往生します。

中国のネパールへの影響拡大については、他のアジア諸国と同様ですが、こんな記事も。
****ヒマラヤ奥地に太陽電池 村の電気は「中国製」*****
世界最高峰のエベレストを有するヒマラヤ山域の未電化の村落に、中国製の太陽電池パネルや発光ダイオード(LED)電球が普及し始めている。チベット自治区の商人が国境を越えて運んでくるもので、インドやネパールの製品より価格が安いのが特徴だ。中国とインドに挟まれたネパールの北端で、“エコ製品”を中心とした中国の経済的影響が増し始めている。(中略)
チベット人はダライ・ラマ14世を追って多くの亡命者が渡ったナンパラ峠を越え、高地牛のヤクに乗せて製品を運んでくる。運搬にかかる日数は5~7日。2008年のチベット騒乱まで事実上開放されていた国境だが、現在、商人向けに発行される許可証が必要で約2カ月間滞在できるという。
「テレビや冷蔵庫を除けば家庭用品の多くが中国製になった」。クムジュン村のパサン・シェルパさんは話す。ネパールとの国境で中国は道路建設も進めており、対インドとの要所であるネパールにおける経済的な影響力は今後もさらに増しそうだ。【6月2日 産経】
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毛派がゲリラ勢力だった時代は、中国は敵対する国王側を支援しており、「毛派」という名前からイメージされるような中国との関係はありませんでしたが、最近は中国は毛派との関係を強めているようです。
ネパールの経済・社会・政治に大きな影響力を持つインドへの対抗軸として中国が選択される側面もあるのでしょう。

インドはネパールを自国勢力圏と考えているふしがあります。
****ネパールの新聞用紙、インドで足止め 当局の嫌がらせ?*****
ネパールの英字紙カトマンズ・ポストなど主要2紙は23日付朝刊で、カナダと韓国から輸入した新聞用紙千トンが、陸揚げ先のインドの港で約1カ月間、足止めされ、新聞発行が危うくなる恐れがあると報じた。
内陸国のネパールは、輸入品の大半がインドを経由している。同紙によると、足止めされているのは5月27日~今月12日にインド東部コルカタ港に陸揚げされたコンテナ39個分。インド国税当局からは「検査が必要だ」という以外に具体的な説明がないという。
両紙はインド国内でネパール系住民が襲撃を受けた事件など、インドに批判的な独自記事をたびたび掲載しており、ネパールの報道関係者の間には「インド当局の嫌がらせではないか」との見方がある。
在カトマンズのインド大使館は「積み荷の検査は通常業務であり、両紙の報道は誤解を招く。問題を早急に解決するため措置をとった」とする声明を出した。
インドに本部を置くNGOアジア人権センターは「隣国の新聞に批判されたからといって、世界最大の民主主義国が寛容になれないとは、非常に残念だ」とする公開書簡をインドのシン首相に送った。【6月24日 朝日】
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ネパール経済・政治を牛耳ってきたインド、影響拡大を狙う中国、ネパールは両新興国のパワーゲームの場となっています。


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