孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インドネシア  強まるイスラム強硬派の活動 イスラム的規制強化の流れ

2010-09-20 15:03:55 | 世相

(インドネシア・アチェ州の州都バンダ・アチェの女性 「ぴったりした」ズボンの着用は禁止されましたが、こういったゆるやかなものは許されるのでしょう。多分 “flickr” By Mangiwau http://www.flickr.com/photos/thirnbeck/4068541462/ )

【キリスト教徒への暴行事件や教会の強制閉鎖】
インドネシアは2億人という世界最多のイスラム教徒を抱えるイスラム国家で、先日のアメリカ・フロリダ州牧師による「コーラン焼却」騒動についても、アメリカ大使館前で数千人規模の抗議行動がありました。

ただ、私を含めて日本人がよく訪れるバリ島は宗教的にはバリ・ヒンズーという特殊なエリアであることもあって、あまりイスラム国家のイメージは強くありません。
個人的には、バリ以外では、ジャワ島のジョグジャカルタ、スマトラ島のメダン・パダン近郊を観光したこともありますが、イスラム世界であることは間違いありませんが、異教徒観光客に宗教的窮屈さを感じさせるような雰囲気はなく、比較的緩やかなイスラム世界というイメージでした。

そのインドネシアで、イスラム強硬派の活動が強まっているとの報道があります。
*****インドネシア:イスラム強硬派、キリスト教排除相次ぐ 政権内にも共鳴勢力*****
世界最多の約2億人のイスラム教徒を抱えるインドネシアで、イスラム強硬派によるキリスト教徒への暴行事件や教会の強制閉鎖といった事件が相次いでいる。地元メディアによると、連立与党内にイスラム政党を抱えるユドヨノ政権の内部にもイスラム強硬派に共鳴する勢力があるといわれており、宗教対立の激化が懸念されている。

◇牧師や信者を襲撃
ジャカルタ近郊の西ジャワ州ブカシでは12日、プロテスタント教会の牧師と信者が武装集団に襲撃された。信者がナイフで腹を刺されて重傷を負い、牧師も頭部を殴られて負傷した。
ユドヨノ大統領は同日、警察当局に早急な容疑者逮捕を指示。15日までに「イスラム防衛戦線」(FPI)のメンバー10人が逮捕された。FPIはイスラム強硬派の中でも最も急進的で、キリスト教徒や少数派イスラム教団への攻撃を続けている。06年には「イスラムの教義に反する」としてインドネシア版「プレイボーイ」誌編集部を襲撃している。
インドネシアでは、建物を教会や礼拝所として使うには自治体の許可が必要だ。周辺住民の同意が必要とされるうえ、「地域の宗教人口」も許可要件に入るなど少数派には不利な規定があり、イスラム教徒の多いジャワ島などのキリスト教会の多くは建物使用の許可を得ないまま活動している。強硬派は近年、地元住民を巻き込み自治体に無認可教会の閉鎖を求める抗議運動を活発化させている。
ブカシでも、無許可で建物を使っていたキリスト教会の閉鎖をFPIが要求していた。市当局が7月に建物の違法使用だと認定して教会を閉鎖。キリスト教徒はその後、近くの空き地で礼拝を行うようになったが、8月にも礼拝中にイスラム強硬派に襲撃されてキリスト教徒約20人が負傷する事件が起きていた。

◇NGOが抗議集会
同国のNGO(非政府組織)の調査では、今年1月から7月までに発生したキリスト教会の閉鎖や襲撃、脅迫などは28件に上り、昨年の18件から大幅に増加している。NGOは16日、ジャカルタ市内2カ所でキリスト教徒など計600人が参加する抗議集会を開き、政府に建物の使用許可制廃止などを求めた。
ユドヨノ政権には、イスラム政党への配慮からイスラム勢力に弱腰だという批判がある。NGO「宗教と平和のインドネシア会議」のムスダムリア事務局長は「政府が厳正に対処しなければ暴力はさらにエスカレートする」と危惧(きぐ)する。
大阪大学大学院の松野明久教授(インドネシア研究)は「ユドヨノ政権が昨年10月に2期目に入り、イスラム勢力が主張を強めている。イスラム社会で宗教が影響力を強めるという世界的な流れの中、強硬派の活動への支持が拡大していることも対立の要因だ」と指摘している。【9月19日 毎日】
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【イスラム地下組織「ジェマー・イスラミア」(JI)】
インドネシアのイスラム過激派と言えば、「ジェマー・イスラミア」(JI)があります。
JIは2002年にバリ島で外国人ら200人以上を殺害するなど、インドネシアを中心に爆弾テロを繰り返してきました。04年以降、テロ撲滅を掲げたユドヨノ政権の下で創設された対テロ特殊部隊が、JIの幹部多数を逮捕するなど取り締まりを徹底させ、組織は弱体化したとされていましたが、09年7月には首都ジャカルタ中心部の米国系高級ホテルで同時爆弾テロ事件を起こしています。
このジャカルタの事件の首謀者とされるヌルディン・トップ容疑者は、JI内でも国際テロ組織アルカイダとの関係が深く、東南アジアでのイスラム革命の実現を主張する強硬派とされています。

インドネシア当局もJI指導者の逮捕などで対応しています。
****インドネシア:「精神的指導者」テロ関与で逮捕*****
インドネシア国家警察は8月9日、イスラム地下組織「ジェマー・イスラミア」(JI)の精神的指導者とされるアブ・バカル・バシル師を、イスラム武装組織によるテロ計画に関与した容疑で逮捕した。国家警察は同日の会見で「(バシル師は)アチェ州での武装組織の軍事訓練を資金などあらゆる面で支援してきた」と発表。この組織が計画したユドヨノ大統領暗殺や国家警察本部、外国大使館などを標的としたすべてのテロ攻撃に関与し、その証拠もあると説明した。

警察は今年2月、アチェ州山間部の軍事訓練キャンプを摘発。同5月には同師が主宰するイスラム団体の事務所を捜索し、キャンプ運営に関与した容疑で幹部3人を逮捕した。
バシル師はイスラム国家樹立を目指して93年に結成されたJI創設者の一人で、理論武装の中心人物とされる。202人が死亡したバリ島爆弾テロ(02年)では事前共謀の罪で有罪判決を受けて服役。06年6月に出所したが、これまで一貫してテロ事件への関与を否定している。
バシル師に関しては、JIによる一連の爆弾テロで多数の被害者が出た米国やオーストラリアが再拘束を強く要求。今回の逮捕は治安回復を国際社会にアピールする狙いがあるとみられる。
逮捕を受け、豪州のスミス外相は「逮捕を歓迎する」とコメント。【8月9日 毎日】
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【アチェ 女性のズボン禁止 「石打ち刑」】
こうした「ジェマー・イスラミア」(JI)の活動がなされることは、そうした活動を生む宗教的、あるいは社会・経済的背景がインドネシア社会にあるということでもあるでしょう。
JIが軍事訓練キャンプを持っていたアチェは、インドネシア列島の一番北の島スマトラ島の最北部、つまりインドネシア最北端に位置し、インドネシアの中でもイスラム信仰が強く、以前から反政府勢力が強い影響力を持っていた地域です。
04年のインド洋大津波では最も大きな被害・犠牲者を出し、それが契機となって独立派と政府との間で和解が進んだ地域でもあります。

そのイスラム信仰の強いアチェ地方では、イスラム的規制強化のニュースが伝えられています。
****女性のズボン、男性の短パンを禁止へ インドネシア・西アチェ県*****
インドネシアの西アチェ県では、 新しい規則のもと、イスラム教徒の女性が「ぴったりした」ズボンやジーン ズを着用することが禁止されることになった。同県トップのラムリ・マンスール氏が27日明らかにした。
この規則が適用されるのは来年1月1日からで、ぴったりし過ぎている と思われるズボンまたはジーンズを履いている女性は、その場でスカート に履き替えなくてはならなくなるという。また、着用していた「違反ズボン」 はその場で、はさみで細かく裁断されるという。「このときのスカートは、 当局から無料で支給されます」とマンスール氏。
女性が履いてもよいとされるズボンというのは、ゆったりしていて、足首が隠れるもの。また、スカートの下にのみ履くことができるという。
なお、男性が短パンを履くことも禁じられるという。こうした規則は地元 のイスラム教聖職者らの助言に基づいて策定されたもので、同県の人 口の大半を占めるイスラム教徒のみが対象となる。
マンスール氏は次のように話している。「この規則に反対の人は、わたしにではなく、神に怒ってほしい。わたしはただ、宗教上の義務を遂行しているだけなのだから」【09年10月28日 AFP】
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実際、今年5月にはインドネシア・アチェ州の宗教警察は、イスラム法に違反していると見なされる服装をした女性に対し「ロングスカートの着用」を徹底していくことになったことを発表しています。
“宗教警察は、これまでも定期的に女性の服装に関する指導を行っているが、規則に違反した女性を逮捕する権限は持っていない。一方で、ギャンブル、姦通、飲酒などの宗教義務違反に関しては逮捕の権限があり、こうした違反者には「むち打ち」の刑が適用される。”とのことです。【5月26日 AFP】

「むち打ち」ついでに言えば、今イランで話題になっている姦通罪や同性愛に対する「石打ち刑」もアチェ州議会は可決しています。(今年5月時点では、知事が署名していないそうですが)
*****インドネシア:アチェ州議会 姦通で石打ち刑の条例可決*****
インドネシアのアチェ州議会は14日、婚姻外の性交渉に対して投石による死刑などを科す条例を全会一致で可決した。イスラム法(シャリア)を厳格に適用するこの条例に対しては、人権団体などが「残酷かつ非人道的」と反発。州政府も議会に再審議を求める考えを示している。
条例によると、配偶者でない相手と性交渉を持った場合、独身者にむち打ち100回、既婚者には石打ちによる死罪を適用。刑は公衆の面前で執行される。アチェ州はイスラム法を含む広範な自治が認められている。
AP通信によると、イスラム圏で姦通(かんつう)罪に対し法的に石打ち刑が認められているのは、アフガニスタン、イラン、スーダンなど7カ国。また、違法な執行がイラクやソマリアで報告されている。【09年9月15日 毎日】
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【イスラム的規制強化の流れ】
アチェに限らず、インドネシア全体にイスラム的規制強化の動きがあり、08年10月には写真や動画、音声、文章、ダンスなどを対象に「性的なもの」を幅広く規制する「ポルノ規制法」が成立、バリ・ヒンズーのバリ島や独自の風習を持つカリマンタン島(ボルネオ)の少数民族などからは文化的侵害との批判が出ていました。
****インドネシア:ポルノ規制法初適用 ダンサーに禁固刑****
世界最大のイスラム人口を抱えるインドネシアで、「へそ出しスタイル」でダンスを踊った女性ダンサーら6人に対し、性的なダンスを行ったとして禁固刑が言い渡された。人権団体によると、08年に成立したポルノ規制法に基づく初めての有罪判決となる。(中略) 女性ダンサーはへその部分を露出させ、ホットパンツ姿だったという。
ポルノ規制法は写真や動画、音声、文章、ダンスなどを対象に「性的なもの」を幅広く規制する内容で、ヒンズー教徒や市民団体などの反対の中、イスラム系政党などの賛成で08年10月に成立していた。女性人権団体は「明確な定義もない法律の恣意(しい)的な運用だ」と批判している。【3月13日 毎日】
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こうした動きを眺めていると、全体的にイスラム的規制強化の流れが感じられますが、トルコもそうですし、世界のイスラム社会全体が欧米文明との対比の中で同様傾向を強めているようにも思えます。
それは、自己主張、自国アイデンティティーの確立でもあるでしょうが、過激化・文明の対立の方向に向かわないように願いたいものです。

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