
(アフガニスタン・カンダハル近郊の村のパトロールを終え、ひと休みするイギリス部隊の兵士 本文の事件とは関係ありません。“flickr”より By Kenny Holston 21 http://www.flickr.com/photos/kennyholston/4745420296/ )
【「360万人」と「529人」】
アフガニスタンの総選挙については、一昨日ブログでも取り上げたばかりですが、国連のスタファン・デミスツラ特別代表は、反政府武装勢力タリバンによる攻撃が相次ぐなか投票が行われたことは「奇跡に近い」と評価しています。
ただ、“今回の総選挙では、タリバンが選挙妨害を狙って国内各地で計150以上の攻撃を行い、計17人が死亡。19日には投票所で誘拐された選挙管理人3人の遺体が北部バルク州で発見された。タリバンによる攻撃を恐れて投票を棄権した有権者も多数存在するとみられ、投票権を持つ1140万人に対し、実際に投票したのは約360万人にとどまったという”【9月20日 ロイター】とのことです。
「360万人」という数字がどれだけ正確なものかはわかりませんが、04年の大統領選では810万人だった投票者数が、その後、05年の総選挙が640万人、昨年の大統領選が480万人と回を重ねるごとに減少しており、今回総選挙は更に減少したようです。
この数字に、現在のアフガニスタンの治安悪化・国民の政治不信が凝縮しているように思われます。
もうひとつの数字は「529人」
****外国兵死者数、最悪の529人 アフガン、墜落で9人死亡*****
アフガニスタンに展開している国際治安支援部隊(ISAF)は21日、アフガニスタン南部でヘリコプターが墜落し、北大西洋条約機構(NATO)部隊の9人が死亡したことを明らかにした。ロイター通信が報じた。01年の米軍攻撃開始以降、外国兵の年間死者数が最悪を更新した。民間ウェブサイトによると、死者数は、9人の死亡で529人となり、これまで最悪だった昨年の521人を上回った。【9月21日 共同】
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まだ9月段階ですから、年末には昨年を大きく上回る数字になることは必至です。
これだけの犠牲を払いながら、「360万人」という数字の結果しか出せない・・・アフガニスタンでの戦いを主導するアメリカ・オバマ政権にとっては苦しい限りです。
【「最も身の毛がよだつ事件」】
困難を極めるアフガニスタン情勢を更に追い詰めかねない驚くべきニュースも報じられています。
****米兵、「気晴らし」アフガン住民殺害 軍が5人訴追*****
米紙ワシントン・ポストは19日付で、アフガニスタン駐留米軍の兵士5人が今年1月から5月までに、「気晴らし」のため一般住民を殺害したとして、米軍に訴追されたと報じた。米兵らは麻薬やアルコールを常習していたとされ、「スポーツ感覚」で住民を殺害していたという。
同紙は、2001年にアフガンで対テロ戦が始まって以降、「最も身の毛がよだつ事件」と批判。犯行が事実ならアフガン国民の反発を招くのは必至で、11年7月の撤退開始を目指すオバマ政権のアフガン戦略に影響を及ぼしかねない情勢だ。
同紙が入手した米陸軍の訴追資料によると、事件は1月と2月、5月の計3回、イスラム原理主義勢力タリバンの拠点、南部カンダハル州で発生した。
兵士らは手榴弾(しゅりゅうだん)を爆発させて米軍が攻撃されたように装い、一般住民に向けて発砲。その後、遺体を切断して写真撮影したり、一部の兵士が頭部の骨などを収集したりしていた疑いもあるという。
関与した兵士は、ハシシュ(大麻樹脂の粉末)やアルコールを常習していた可能性が強く、快楽目的で一般住民を殺害していたとされる。
米陸軍は兵士5人のほかにも、7人を捜査妨害や麻薬使用、事件を告発しようとした兵士への集団暴行で訴追。組織的な犯行で、しかも隠蔽(いんぺい)工作が行われた可能性も浮上している。
また、訴追された兵士の父親は同紙の取材に対し、息子から殺人を告白されて複数回にわたって陸軍に通報したが、無視されたり、たらい回しにされたりするだけだったと批判している。
米軍が展開するタリバン掃討作戦では、地元住民の協力が不可欠で、米軍兵士の蛮行による反米感情の高まりが懸念される。
オバマ政権は8月31日でイラクでの戦闘任務を終了し、アフガンでの軍事作戦に全力を傾けているが、戦況は好転していない。
パウエル元国務長官は19日、NBCテレビに出演し、市街地や山岳部でゲリラ戦を続けるタリバンとの戦況を判断するのは極めて困難で、米国が「勝勢にあるのかは、わからない」との見方を示した。【9月21日 産経】
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【狂気に蝕まれる精神 ソンミ、ハディサ・・・・】
極限状態に置かれる戦争においては、しばしば常軌を逸した民間人殺害が起こります。
ベトナム戦争での「ソンミ村虐殺事件」は、米軍が国際的批判にさらされ支持を失い、国内的にも反戦運動のシンボルにもなりました。
“1968年3月16日に、南ベトナムに展開するアメリカ陸軍のうち第23歩兵師団第11軽歩兵旅団・バーカー機動部隊隷下、第20歩兵連隊第1大隊C中隊の、ウィリアム・カリー中尉率いる第1小隊が、南ベトナム・クアンガイ省ソン・ティン県ソンミ村のミライ集落(省都クアンガイの北東13km 人口507)を襲撃し、無抵抗の村民504人(男149人、妊婦を含む女183人、乳幼児を含む子ども173人)を機関銃の無差別乱射で虐殺。集落は壊滅状態となった”【ウィキペディア】
イラク戦争では「ハディサ事件」が起きています。
“2005年11月19日、バグダッドから西に260キロにある「スンニ派三角地帯」の町ハディサで起きた。同地をパトロール中の米海兵隊員が、同僚1人が道路脇の爆弾で死亡したのをきっかけに、子どもを含む民間人の男女24人を殺害した。” 【07年5月31日 AFP】
両事件ともに、当初軍内部報告では隠ぺい工作が行われています。
そして今回のアフガニスタンの事件。
詳細はわかりませんが、殺害した民間人の数自体はそう大きなものではないようにも読めます。
ただ、「気晴らし」のため「スポーツ感覚」で・・・というのが、「ソンミ村虐殺事件」や「ハディサ事件」の極限状態とも異なっており、これまでにない「狂気」を感じさせます。
戦争は、戦いが行われている現地の人々の生命・財産に大きな犠牲を強いていますが、攻撃する側のアメリカの精神を蝕んでもいるようです。
アメリカが被っている被害は、先の「529人」という数字以上のものがあります。
もし、報じられている内容が事実であれば、「コーラン焼却」騒動に続いて、「地元住民の協力」は更に遠のき作戦遂行を難しくするでしょう。そして、ただでさえ不協和音が絶えないカルザイ政権とアメリカの関係にも大きく影響することも考えられます。