
(アメリカ・オバマ大統領とロシア・メドベージェフ大統領によって、2010年4月8日にチェコのプラハで新戦略兵器削減条約の署名式が行われました。“flickr”より By Mocha_208
http://www.flickr.com/photos/48762978@N03/4508462334/)
【T80戦車が4分で・・・】
武器・兵器の話と言えば、無人飛行機やロボット兵器などハイテク兵器が相場ですが、ちょっと変わった話が今日ふたつ目につきました。
ひとつはロシアの「張りぼて兵器」
****ロシア、張りぼてミサイルで「敵」欺く 「浪費」批判も****
空気で膨らむ「偽装ミサイル」を、気球などを生産するロシア企業が、ロシア国防省の資金提供を受けて開発している。クレムリン一帯を偽装してドイツ軍の空襲をかわした第2次世界大戦下の「張りぼて神話」の復活のようだが、「戦時でもないのに予算の浪費だ」との声もある。(中略)
偽装兵器は合成繊維製で、ポンプで空気を送って膨らます。T80戦車やミグ31戦闘機なども偽装品の製品化が進んでいる。売りは、本物に比べれば1%以下という価格だ。トゥルード紙によると、T80戦車は1台5千万ルーブル(約1億5千万円)とされるが、「張りぼて」なら35万ルーブル(約105万円)という。
上空や宇宙からの敵対勢力による偵察を欺き、本物への攻撃をかわすのが狙い。100メートルの距離でも判別できないほど外観を似せる。それだけではない。同社によると、赤外線などによる偵察にも備え、ミサイルの発射エンジンなど本来熱を帯びる部分には熱湯を通すほか、本物が発する電磁波や光り具合までそっくりに細工するという。
偽のは重さ約40キロ、リュックサック程度まで縮まり、約4分で膨張。偽のS300は重さ約100キロで、7~8分で膨らむという。偽装兵器の配置場所や数が知れてしまうと効果はなくなるため、そうした情報はトップシークレットだ。
イスラエルでは本物と偽装兵器の割合が5対1とされ、米国や中国も所有が取りざたされる。1999年に北大西洋条約機構(NATO)軍から空爆されたユーゴスラビアでは、ベニヤの模造戦車や戦闘機が使われた。
独ソ戦時代の1941年には、モスクワ上空からクレムリンが識別できないよう、赤の広場などにベニヤの家を建て、道路や砂地を偽造。レーニン廟(びょう)の上には3階建ての模造建物を設け、モスクワ川の湾曲も木造建築物や偽の橋でごまかし、成功したという。
だが、「敵が存在しない今のロシアでは無駄な出費だ」(野党・共産党幹部)との声は根強い。軍事専門家のリトフキン氏は「10年もたてば兵器はモデル更新される。偽装品を大量購入してもすぐ古い型になってしまう。平時には必要ない」と指摘している。【9月17日 朝日】
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熱や電磁波、光り具合まで偽装できるとのことですので、なかなかの「すぐれもの」かも。数分で膨らませるというのも、現場を想像すると面白いグッズです。
“イスラエルでは本物と偽装兵器の割合が5対1とされ、米国や中国も所有が取りざたされる”ということは、それなりの効果が期待できるのでしょう。
昔、日本でも木で偽の大砲を作った時代もあったと聞いていますが、考えることは今も昔も大差ないということでしょうか。
【ほとんどが布と木でできている・・・】
もうひとつは、北朝鮮が「ステルス機」を保有しているという話題。
「そんな最新技術があったのか!」と驚いたのですが、中身は・・・。
****米国:北朝鮮が「ステルス機」 国防次官補明かす*****
グレグソン米国防次官補(アジア・太平洋安全保障問題担当)は16日の上院軍事委員会に提出した書面証言で、北朝鮮のプロペラ機がレーダーに感知されない「ステルス機能」を持つと明かした。
米空軍のF22戦闘機などが最新鋭技術で実現するステルス機能だが、北朝鮮の「AN2コルト機」は「ほとんどが布と木でできているためレーダーが映し出さない」という。第二次大戦後に旧ソ連で開発された機種とみられる。
グレグソン氏は米韓同盟は通常兵器の能力で優位に立つものの、北朝鮮がこうした攻撃能力で対抗し脅威を増していると指摘。「AN2コルト機は侵攻や潜入作戦の際に識別が難しい」とし「10万人の特殊部隊と組み合わせた場合、大きな潜在能力を持つ」と警告した。【9月17日 毎日】
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“ほとんどが布と木でできている”・・・・レーダーに映らないのはいいですが、そんな飛行機が飛べるのでしょうか?ステルス機能云々よりそちらの方が驚きです。
【新START 承認には困難が予想される】
兵器に関するより現実的な話としては、アメリカ・ロシアの核軍縮の話題。
今年4月に両国は新戦略兵器削減条約(新START 第四次戦略兵器削減条約)に調印しましたが、アメリカ国内の批准手続きが「一歩進んだ」と言うか、「先が思いやられる」と言うか・・・。
****米国:上院外交委が新STARTの批准承認****
米上院外交委員会は16日、今年4月に調印された米国とロシアの新戦略兵器削減条約(新START)の批准を承認した。条約発効には上院本会議での承認が必要で、オバマ大統領は同日、「承認に向けて迅速に取り組むことを求める」との声明を出した。
この日の採決では賛成14人、反対4人で、与党・民主11人と共和3人が賛成した。本会議での採決は11月の中間選挙後になるとみられる。現在の上院(定数100)の構成は民主59人(無所属2を含む)、共和41人で、承認には67人以上の賛成が必要だ。だが中間選挙では民主が議席を減らす見通しで、承認には困難が予想される。【9月17日 毎日】
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ケリー外交委員長(民主党)は、本会議での採決は年内に実現したいと表明し、11月の中間選挙後に先送りする姿勢を示しているそうです。
中間選挙では与党・民主党の「ぼろ負け」が予想されており、この先の見通しは不透明です。
第一次戦略兵器削減条約は2009年12月5日に失効しています。
核軍縮については、これまでも両国の国内批准で停滞した経緯もあります。
“(1993年1月3日、モスクワにおいてブッシュ米大統領とエリツィン露大統領により調印された第二次戦略兵器削減条約は)1996年にアメリカ議会は批准したが、ロシア議会は批准を拒否した。このため、1997年に議定書が結ばれ、条約における弾頭削減期限が2007年まで延長された。この議定書については、アメリカ議会が批准を行わず、2000年にロシア議会が批准したものの、アメリカが2001年に弾道弾迎撃ミサイル制限条約を廃棄したこともあり、ロシアは START II を実行しないとしている。
この後、1999年から保有核弾頭数を2,000~2,500発に削減する第三次戦略兵器削減条約の交渉が行われたが、START II が実行されなかったこともあり、交渉は進展しなかった。ただし、2001年からアメリカの安全保障政策が対テロに重きを置くようになると、核兵器の大量保有の必要性が減少した。このため、米ロ両国は2002年に戦略攻撃能力削減に関する条約(モスクワ条約)を結んでいる。”【ウィキペディア】
チェコの首都プラハで「核兵器なき世界」の実現を訴えたオバマ米大統領の施策の根幹をなす同条約ですが、当時の熱気は消え失せています。
両国の核保有の現実を反映した新STARTですが、アメリカ国内事情でストップすることがあれば、核軍縮へ向けた取り組みにとっては大きな痛手となります。