
(「脱原発」先延ばしに抗議するグリンピース活動家のパフォーマンス 18日にはベルリンで、主催者発表で10万人、警察発表で3万7000人が参加したデモも行われています。
“flickr”より By Greenpeace Jugend
http://www.flickr.com/photos/greenpeacejugend/4987904214/)
【脱原発は40年になる見込み】
ドイツ・メルケル政権は、これまでの「脱原発」の方針を修正して、原発稼働期間の大幅延長を決めました。
****ドイツ:「脱原発」先延ばし 電力会社に「核燃料税」*****
ドイツのメルケル政権連立与党は5日、02年にシュレーダー政権が決めた「脱原発方針」を軌道修正し、原発の稼働期間を最長で14年延長する方針を決めた。当初、原発全面停止は2022年の見通しだったが、大幅に先延ばしされる。これに対し、かつて脱原発を決めた社会民主党や緑の党などの野党は厳しく反発している。
報道によると、連立与党は現在稼働中の原発17基のうち1980年以降に建造した10基を14年、残りを8年稼働延長することで合意。また、原発を運営する4電力企業に対して、稼働延長に伴う収益増の“見返り”として、新たに創設する「核燃料税」など総額288億ユーロ(約3兆1300億円)の負担を求める。連立与党は28日に関連法案を閣議決定する。
大連立政権(05~09年)を経て昨年秋に発足したメルケル政権は、原発利用に積極的な姿勢を見せてきた。ただ、原発回帰路線はとらず、再生可能エネルギーの普及が進むまでの限定的な「脱原発先延ばし」で、電力業界に生じる利益を最大限に活用することになった。
連立与党は法案を連邦議会(下院)で可決させ、野党が過半数を握る連邦参議院(上院)での審議を回避する方針だが、野党はその場合、憲法裁判所に提訴する構え。ベルリンの首相府前では5日、野党党首らも参加する約2000人規模のデモが繰り広げられた。
一方、電力業界も核燃料税に対し、「古い原発では採算が取れない」などと反発している。
ドイツのシュレーダー政権(98~05年)は02年に脱原発法を制定。原発全面停止の見通しは現在、事故による稼働停止などで2025年にずれ込んでいる。新たな稼働延長で脱原発は40年になる見込み。
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石油価格高騰によってコスト面で原発が相対的に有利になっていること、また、温室効果ガスを出さないということもあって、「原発ルネサンス」とも言われるようにアジア・中東など世界中で原発建設の動きが広がっています。
「脱原発」を進めてきた欧州でも、ドイツ同様の「脱原発」見直しの動きが見られます。
80年の国民投票で原発の新設を認めない脱原発政策を定めたスウェーデンも、今年6月の議会で、現在稼働する原発10基の建て替えを認める法案を2票差で可決しました。
イタリアも、脱原発政策から原発推進に転換しています。
【「政府は電力企業に買収された」】
冒頭記事にもあるように、こうした動きに対する反対も野党、環境団体だけでなく、代替エネルギーに投資してきた事業者、税収に影響する地方自治体などに強く存在します。
****原発延命にドイツ国内猛反発 ベルリンで大規模デモ****
ドイツのメルケル政権が原子力発電所の運転を平均で12年間延長する方針を決めたことに対して、国内で反発が強まる一方だ。野党や環境保護団体に加え、太陽光や風力発電に投資してきた事業者や自治体など各方面から批判が続出。野党優勢の連邦参議院(上院)での審議を避けようとする政権のもくろみにも疑問が出ており、原発政策の大転換は順調ではない。
18日には首都ベルリン中心部で大規模な反対デモがあった。約3万7千人(警察発表)の参加者は「原子力はもうたくさんだ!」「原発?いえ結構です」などと書いた旗や使用済み核燃料を模した空き缶を手に、首相府や連邦議会議事堂などの周辺を「人間の鎖」で取り囲んだ。
メルケル政権は5日、2020年ごろまでに原発を全廃する方針を転換。再生可能エネルギーが発電の主力を占めるまでの「橋渡し」として運転を延長し、延長の恩恵を受ける電力業界には「原発燃料税」を新たに課税するなどのエネルギー構想を決めた。
これに対し、原発全廃を決めたシュレーダー政権時の与党だった社会民主党(SPD)や緑の党などは強く反発。原発の安全性への疑問や使用済み燃料の処理の問題が解決されていない点などを改めて指摘する一方、運転延長で大幅な利益を得るなど電力業界に有利な決定だとして「政府は電力企業に買収された」と攻撃している。
また、原発廃止を前提に再生可能エネルギーに投資してきた風力発電などの事業者や電気事業を営む自治体からも、原発の延命で大規模な電力企業の競争力が強まって損失を被るとともに、再生可能エネルギーへの転換の勢いが失われるとの懸念がある。原発燃料税の課税で連邦の税収は上がる一方、その課税によって利益が減る電力会社からの法人税や営業税の地方の取り分が減るとされ、SPDなど野党が政権を握る州だけでなく与党政権の地方からも今回のエネルギー構想には異論が出ている。
メルケル政権与党は現在、16の州政府の代表から構成される連邦参議院の過半数を失っている。州の利害に密接にかかわる連邦法の制定には参議院の同意が必要だが、メルケル政権は今回の運転延長について同意は必要ないとの立場をとっている。これに対しても野党や野党主導の州は「憲法違反」と反発し、政府が参議院を迂回(うかい)した場合には憲法裁判所への提訴を公言している。【9月18日 朝日】
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【「安全軽視の密約」】
最近、政府が原発運営企業を資金面で優遇する「密約」文書が発覚し、反対派を勢いづかせています。
****ドイツ:脱原発先送りで企業優遇の「密約」****
ドイツのメルケル政権が今月5日に決定した「脱原発」の先送りを巡り、政府が原発運営企業を資金面で優遇する文書が発覚し、波紋を呼んでいる。独メディアが政府・企業間で交わされたこの「密約」の存在を暴露したため、政府は9日、文書の公開に踏み切った。原発の設備改善など安全対策のコストにも上限を設ける内容で、「安全軽視の密約」「政府と原発業界の癒着」との批判が噴出。最新の世論調査では、原発反対を唱える野党の環境政党・緑の党の支持率が過去最高の24%に達するなど、政権への批判が拡大している。
ドイツ政府が公開した文書は今月6日付。原発を運営する4電力企業に対し、稼働延長で生じる原発の設備改善費など安全対策面のコストを1基あたり5億ユーロ(約540億円)までとする内容になっている。仮に5億ユーロを超えた場合、企業側は風力など「再生可能エネルギー」のための基金に支払う負担金を軽減しても構わないと記し、資金面でも「優遇」。原発企業への配慮が際立っている。
ザイバート政府報道官は「隠すものは何もない」と密約の意図を否定したが、社会民主党のガブリエル党首は「これほどぬけぬけと国民の安全を売った政権は過去にない」と激しく非難した。(中略)
22日に公表された世論調査機関フォルザの集計によると、緑の党の支持率は過去最高の24%で、同様に脱原発を掲げる最大野党・社会民主党に並んだ。両党の支持率は計48%で、現在の連立与党の合計34%を大きく引き離した。【9月25日 毎日】
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ドイツ政府は28日、「脱原発」先延ばしを閣議決定しました。政府は、保守中道の連立与党が上院で過半数に達していないため、下院だけの承認で関連法の改正を計画しています。
社会民主党など野党は、政府が上院に承認を求めない場合は「憲法違反」として憲法裁判所に提訴する方針です。
被爆体験もあって核への抵抗感が強いと言われる日本ですが、原発に関してはなんとなく現状容認のムードで、あまり大きな議論になっていないように見受けられます。