孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

オバマ大統領 イラク米軍の戦闘任務終了を宣言

2010-09-01 23:18:38 | 国際情勢

(イラクからのアメリカへ帰還した兵士 “flickr”より By Virginia Guard Public Affairs http://www.flickr.com/photos/vaguardpao/4927376003/in/photostream/

【「戦争の終結は米国の利益だ」】
オバマ米大統領は8月31日、イラクにおける米軍の戦闘任務が終了したと宣言しました。
この件については多くのメディアで詳しく取り上げているところですから、ことさら付け加えることもありません。
ただ、このブログでもイラク情勢について何回も触れたことがありますし、これからも取り上げることが多々あるでしょうから、ひとつの“節目”として概観してみます。

****イラク戦争から経済に軸足 米大統領、戦闘任務終了宣言*****
オバマ米大統領は8月31日夜(日本時間9月1日午前)、ホワイトハウスでの演説で「『イラクの自由』作戦は終わった」と述べ、2003年から続いたイラクでの米軍の戦闘任務が終了したと宣言。今後は、戦争に費やしてきた財源を景気回復に振り向ける考えを示した。
オバマ氏はイラク戦争反対の立場から、米軍撤退を政権公約にしていた。演説では「(就任後)10万人近い米軍を撤退させ、数百の基地をイラク政府に譲った」とし、公約の実現と治安権限のイラク政府への移譲が完了したことを強調。「戦争の終結は米国の利益だ」とし、来年末までに駐留米軍を完全撤退させる意向を改めて示した。
さらに、米国がイラクとアフガニスタンでの「二つの戦争」に踏み切った過去10年を振り返り、「海外から借金までして1兆ドルを戦争に費やした」と指摘。「ページをめくる時だ」と述べ、財政難のなかで教育や技術力の強化、雇用創出などにより多くの予算を割く方針を示した。
ただ、イラクでの4400人にのぼる米兵の死者など犠牲の大きさにも配慮し、フセイン体制の打倒と民主化、テロ組織掃討、イラク軍の育成など、約7年半に及ぶ戦争の意義も強調した。
戦闘任務終了でイラク駐留米軍は5万人規模になり、イラク軍の訓練や復興支援を担う文民の警護などが主な任務となる。【9月1日 朝日】
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ブッシュ前大統領は圧倒的な軍事力を背景に、国際世論を無視してイラク戦争に突き進みました。
そして短期間で首都バグダッドを陥落させたものの、フセイン政権崩壊後の統治機能の確立や治安維持計画はずさんで、宗派間の抗争をあおる結果を招き、治安は悪化。
03年3月の開戦から7年5カ月。ブッシュ前大統領が開戦の大義名分にした大量破壊兵器は見つからず、米軍死者は約4400人に達しています。戦費は総額7000億ドル(約58兆円)を超えています。(オバマ演説では「1兆ドル」)
更に、イラク民間人の死者は10万人に上り、イラク、米両国に大きな傷跡を残しました。【9月1日 時事より】

【中間選挙対策】
イラクでは自動車爆弾や銃撃戦の急増で数百人規模の死者が出ており、このまま米軍が撤退することにでイラク治安の再悪化を懸念する向きもアメリカ・イラク双方にありますが、アメリカ国民の6割以上がイラク戦争に否定的だとの世論調査結果もあるなかで、オバマ政権としては苦戦が伝えられる11月中間選挙を前に数少ないアピールポイントとして、スケジュールどおりのイラク撤退を国民に示す必要があったと言われています。

なお、低迷する国内経済のもとで、世論調査によると、共和党を支持するという回答が、民主党支持よりも10ポイント上回っており、中間選挙前の過去60年間の世論調査で、共和党が民主党につけた差としては過去最大となっています。【9月1日 AFPより】

【自信を示すマリキ首相 不安が大きいイラク国内】
一方、イラクのマリキ首相は、イラク国民に向けた演説で、イラク軍と警察が今後は同国の治安を担当することを強調し、「きょうは全イラク国民の記憶に残る日だ。きょう、イラクは主権国家、独立国家となったのだ」と述べ、予定通り2011年に米軍が完全撤退することに自信を示しています。

しかし、イラクは3月の総選挙から連立協議が難航しており、新政権がいまだに発足しておらず、テロが増加しています。
“だが、多くのイラク国民の見方は悲観的だ。イラクの民間調査会社が8月、約1200人を対象に実施した調査では、約60%の住民が米軍撤退を「評価しない」と回答。撤退により治安などに悪影響が出ると考える者は51%に上った。”【9月1日 産経】
もちろん、「米軍がすべての元凶だ。連中が消えれば、治安も落ち着く」といった声も国民にはあります。

オバマ大統領は執務室からのTV演説を前に、同日訪問した陸軍基地において「まだ多くの仕事が残っている」と述べ、予定されるTV[演説について「ウイニングランにはならない。自画自賛はしない」と述べています。

【パウエル前国務長官 情報の間違いが「極めて残念だ」】
最近目をひくのは、関係者のイラク戦争開戦を悔やむような発言です。
イラク戦争開戦時のアメリカ国連大使で、後に国務副長官を務めたジョン・ネグロポンテ氏は、対イラク武力行使容認の国連安全保障理事会決議を欠いたままの開戦について「急ぎすぎた」と述べ、幅広い国際社会の支持を得られず、「十分な正当性がなかった」と認めています。
フセイン政権が国連の武器査察に完全に協力しなかったとして、開戦の「合法性」は強調していますが、「私が大統領だったら、(国連による大量破壊兵器)査察にもっと時間を割いただろう」と、ブッシュ前大統領の拙速さを暗に批判しています。【8月22日 毎日より】

また、イラク戦争開戦時のアメリカ国務長官のコリン・パウエル氏は、03年2月の国連安保理での演説で衛星写真などを提示、移動式生物兵器製造装置の存在を力説した経緯がありますが、毎日新聞との電話インタビューで「戦争は避けることができた」と述べ、旧フセイン政権の大量破壊兵器(WMD)の存在に関する情報が間違っていたことを「極めて残念だ」と強調しています。
“元長官は、事前にWMDがないと判明していれば「個人的な見解として、米国は戦争をしなかっただろう。WMD(の存在)が国連決議の根拠だったからだ」と述べた。ただ当時はブッシュ前大統領や米議会も情報が正しいと信じるだけの根拠があり、開戦は「法的に正当化される」と語った。”【8月28日 毎日】

パウエル氏は、イラク強硬派が主流のブッシュ政権にあって、「戦争回避を追求すべきだ」との立場で国連決議や査察を通じた解決を前大統領に進言していただけに、「間違っていたのは情報機関であり、私が情報をでっち上げたのではない」と述べ、改めて無念さ表しています。
なお、イラクのフセイン元大統領は06年の死刑執行前、WMDがないにもかかわらず査察を拒んだ理由について、「イランに弱さを見せたくなかったから」と告白しています。

【ブレア元英首相 イラク戦争犠牲者に「心から申し訳ない」】
関係者は開戦を悔やみながらも、「情報が間違っていた」として、大量破壊兵器の存在を信じての開戦を正当化していますが、“ブッシュ政権は開戦前にイラクによる大量破壊兵器開発の証拠は何もないと知っていた。にもかかわらず、米英政府は大量破壊兵器を錦の御旗のように掲げて自国民と国際社会をだまし、そして2003年3月に開戦した”といった見方をする向きも多くあります。


アメリカ・ブッシュ政権とともにイラク開戦に突き進んだイギリスのブレア元首相は、イギリス国内では国民をだまして開戦に向かったという見方から“B'liar”“Liar Blair”(うそつきブレア)とも揶揄されていますが、09年12月のTVインタビューで、「(大量破壊兵器がないと知っていても)サダム・フセイン追放は正しいことだと考えただろう」と語り、英メディアは「告白した」というニュアンスでこれを報じています。

そのブレア元首相は回顧録で、イラク戦争での死者について「心から申し訳ない」との思いを綴っています。

****ブレア元英首相が回顧録、イラク戦争犠牲者に「心から申し訳ない」****
トニー・ブレア元英首相の回顧録「A Journey(旅)」の抜粋が8月31日公開され、その中で、ブレア氏はイラク戦争での死者について「心から申し訳ない」との思いを綴った。

回顧録はブレア氏が英首相だった10年を振り返る内容。ブレア氏は「早死した人命に申し訳ない」との思いを語る一方、イラクのサダム・フセイン政権を打倒することは正しいことだったとのこれまでの考えをくり返した。
ブレア氏はイラク進攻後の状況は「悲惨だった」と述べ、人命が失われてゆくことに涙を流したと述べた。衝突による死者の遺族たちに対しては「苦悩」を感じたという。また、進攻後の計画の中で「国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)やイランの役割を予期していなかった」ことを認めた。

「われわれが知り得ていることに基づいて判断すれば、わたしは今でも、われわれの治安にとってはサダムを権力の座に残しておくことが彼を取り除くことよりも大きな危険性があったと信じている。戦後は悲惨なものだったが、サダムとその息子たちによるイラクの統治は間違いなくもっとひどいものになっていただろう」(後略)【9月1日 AFP】
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ブレア元首相は、回想録の収益を全額、重傷を負った退役兵を支援する「英国在郷軍人会」に寄付するそうですが、ブレア元首相が言う“イラク戦争での死者”には、この戦争で犠牲になったイラク民間人10万人も含まれているのでしょうか?


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