孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  総選挙実施  問われるカルザイ政権への信頼

2010-09-19 17:14:25 | 国際情勢

(投票した印である青く染まった指を誇らしげに見せるアフガニスタン女性 カブール
彼女らの思いが政治に届けばいいのですが・・・
“flickr”より By USAID Afghanistan
http://www.flickr.com/photos/usaidafghanistan/5000406303/ )

【政治不信と治安悪化の中での総選挙】
アフガニスタンでは18日、01年のタリバン政権崩壊後2度目となる総選挙の投票が行われました。
反政府武装勢力タリバンによる攻撃や妨害が各地で相次ぎましたが、選挙管理委員会によると、全国約5900の投票所のうち、東部や南部では武装勢力の妨害などで投票できない所が153カ所あったとのことです。ただ、別の400カ所からも連絡がないとのことで、開かなかった投票所は増える可能性もあるとも。今後は大規模な不正の有無や、10月末に確定予定の選挙結果が焦点になります。【9月18日 朝日より】

ここ数年、イスラム武装勢力タリバンの攻勢を受けて、アフガニスタンの治安は極度に悪化。
国際社会に支えられるカルザイ政権の支配が及ぶのは首都カブール近郊のみとも言われる状態です。
そのカルザイ政権は昨年8月の大統領選で対立したアブドラ元外相派とのあつれきを修復できず、政権運営は混乱。国内外から強く要請されている汚職・腐敗の一掃もまったく進んでいません。
前回大統領選挙での不正疑惑も国民の政治不信を高めています。
公約したタリバン指導部との和解や治安部隊育成も難航しており、14年までに国際治安支援部隊(ISAF)から治安権限の移譲を受けるというスケジュールも困難視されています。

加えて、総選挙をアメリカ支配の一環とみなす武装勢力タリバン側からは、テロ、砲撃、、候補者・関係者の殺害、有権者への脅迫などによる選挙妨害がなされる・・・といった状況下での総選挙でした。
とにもかくにも一応実施できたということだけでも“やれやれ・・・”といったところでしょう。

【投票者数、更に減少か】
****アフガニスタンきょう 投票政治不信で投票率低下も*****
アフガニスタンで18日、2001年のタリバーン政権崩壊後2度目となる総選挙の投票が行われる。急激な治安の悪化が候補者の選挙運動や有権者の投票行動に影を落とす。
昨年の大統報道での大規模な不正発覚も政治不信に拍車をかけており、投票者数は低水準にとどまるとの見方が強い。(中略)
 
アフガンの治安状況はこの5年で一変した。NGOの集計によれば、06年1月に81件だった武装勢力による攻撃は今年6月には1319件に増加した。国連によると、国内の3割の地区では、非武装の役人は攻撃の対象となり、安全に行き来ができないという。
今回の総選挙には下院定数249に対し、2510人が立候補しているが、その4分の1の664入がカブール州(定数33)にひしめく。地方では元軍閥や部族の長老らが幅を利かせており、首都カブールがある同州に候補者が集まる傾向があるが、前回の1.5倍に上る。治安状況が一因とみられている。

タリバーンなどによる脅迫や妨害も相次いでいる。民間団体によると、候補者4入が殺害され、支援者らの死傷者も少なくとも35入に上る。北西部バドギス州で選管関係者ら18人が武装勢力に連れ去られ、タリバーンが17日、犯行を認めた。ロガール州では7月に候補者ポスターを張っていた商店主がタリバーンに射殺された。
カルザイ政権に批判的な新人候補のアフマド・サイーディ氏は「選挙運動をやめなければ死ぬことになる」と電話で脅迫を受けた。武装した男たちが自宅前に訪れ、庭師に「また後で来る」とだけ告げて帰ったこともあった。サイーディ氏は「精神的にかなり苦しかった」と振り返る。

「戸別訪問」で脅迫
一方、治安の悪化は有権者の投票機会も奪おうとしている。人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」によると、東部ナンガルハル州ではタリバーンが家々を訪れ、「有権者登録証を持っている場合は指を切り落とす」と脅した。今回開設される投票所は約5900ヵ所で、5年前より約400ヵ所少ない。タリバーンが強い南部や東部で安全が確保できないためだ。
カルザイ政権の腐敗や昨年の大統領選での大規模不正などによる政治不信も高まる。
カブール市内の給油所経営ファジル・ラヒムさん(38)は今回は投票しない。「国会議員は我々の一票ではなくて、権力者によって決められるのさ」と皮肉った。

実際、今回も不正の兆候が見られる。AP通信などによると、隣国パキスタンの都市ペシャワルの印刷所で、有権者登録証が大量に偽造されていたことが発覚した。一部は中部ガズニ州など国内で見つかっているという。【9月18日 朝日】
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カルザイ政権への不信感のひろがり、タリバンの選挙妨害という事態で、どれだけの地域で実施でき、どれだけの有権者が実際に投票所に足を運ぶのかが注目されていました。
“大統領に権限が集中するアフガンでは、国会選挙が政権を左右することはなく、また候補者の大半が無所属のため、政局への影響もすぐには評価できない。しかし、今回も大規模不正が発覚すれば、カルザイ政権の正当性がさらに揺らぐことは確実だ。
アフガンでの選挙の投票者数は、04年の大統領選では810万人だったが、その後、05年の総選挙が640万人、昨年の大統領選が480万人と回を重ねるごとに減少している。治安悪化や政治不信が要因だが、今回はさらに減る可能性も指摘されている。”【同上】

選管によると、治安上の理由で1千カ所以上の投票所があらかじめ閉鎖されたとも言われています。
“現地からの報道によると、北部バグラン州で投票所に隣接する検問所に詰めていた国軍兵士1人を含む7人がタリバンに殺害された。北東部タハール州や東部クナール州でもロケット弾による死者が出た。南部カンダハル州では州知事が投票に向かう途中、路肩に仕掛けられた爆弾による攻撃を受けたが、無事だった。”【9月19日 産経】
ロイター通信は“下院選の妨害を狙った旧支配勢力タリバンによるとみられる投票所などへの攻撃が相次ぎ、少なくとも治安部隊員ら11人が死亡した。これにより、選挙運動期間中を含め下院選関連の死者は少なくとも36人になった”【9月18日 毎日】とも伝えています。
「有権者登録証を持っている場合は指を切り落とす」と脅迫されれば、とても投票などできません。

不正選挙については、“タリバンの影響力が強い東部や南部などでは、顔写真を張り替えるなどした有権者登録カードが大量に見つかっている。”【9月18日 毎日】とか、不正防止のため、有権者が投票したことを示す指につけるインクが、こすって落とせたことなどが報告されています。

結果については、“前職下院議員のうち約100人は軍閥や麻薬取引組織などと関係があるとの指摘もある中、今回新たに立候補した企業家や学者、元官僚らがどれだけ議席を占められるかが鍵だ。候補者の大半は無所属だが、カルザイ大統領を支持する議員が多数を占めるかどうかも注目される。”【9月19日 朝日】とも。
10月9日に暫定結果が公表される予定で、その後、不正に関する不服申し立ての手続きがあり、10月30日に最終結果を発表することになっています。

回を重ねるごとに減少する投票者数が今回どれほどになるのか?
アメリカなどの国際支援にもかかわらず、国民の信頼・期待が消えつつあるカルザイ政権。強まるタリバンの攻勢。改めて、ベトナム戦争末期の南ベトナム政権の状態が思い起こされます。

【見えない出口】
ゲーツ米国防長官は16日、アフガニスタン情勢について「4~6ヵ月後には、我々が正しい方向に進んでいると示せる」と強気の発言をしています。
****アフガンの安定化 「4~6ヵ月で成果」 ゲーツ米国防長官*****
ゲーツ米国防長官は16日、米軍が約10万人を投入して安定化を図るアフガニスタン情勢について「4~6ヵ月後には、我々が正しい方向に進んでいると示せる」と述べた。
18日に予定されるアフガンの総選挙に関しては「アフガン政府は適切な治安維持計画を用意している」とした。
フランスのモラン国防相と米国防総省で会談後、共同記者会見で語った。米国内では巨額の戦費と米兵の犠牲を伴うアフガン戦争を疑問視する世論が強く、オバマ政権は成果を迫られている。
ゲーツ長官は「厳しい戦いであることに疑いはなく、我々は多くの点でまだ(作戦の)初期段階にある」とし、将来の見通しには慎重な姿勢を崩さなかった。
ゲーツ長官は一方で、アフガン軍の規模が拡大し、能力も高まっている点を強調。モラン国防相もアフガン軍の「成長」を指摘しつつ、「警察はより複雑で、養成も難しい」と述べた。【9月18日 朝日】
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イラクでは増派を契機に、スンニ派勢力を取り込めたこともあって、治安が劇的に改善したということもありますが、今のアフガニスタン情勢がそうした改善を示すことはなかなか期待できません。恐らくゲーツ米国防長官も自分の言葉を信じてはいないでしょう。
ここ数年まったく姿を見せないタリバンの最高指導者オマル師の死亡でも確認されれば、タリバン内部の動揺から、一部勢力との和解といった方向も出てくるのでしょうが・・・。

暗い話ばかりになったので、少しは希望が持てる記事も。
****女性候補も奮闘=社会進出や若者支援目指す―アフガン総選挙****
18日に投票が実施されたアフガニスタン下院選挙。伝統的な男性優位社会を反映し、定数249議席のうち女性枠は68議席だけ。しかし、将来の国づくりに貢献したいと願う多くの女性候補が選挙に挑んだ。
英国留学後に女性団体のボランティア活動に携わり、今回カブール選挙区から初出馬したファルフンダ・ナデリさん(29)は候補者の中でおそらく唯一、自分の顔を出さない選挙活動を選んだ。街中には各候補の写真入りポスターがあふれているが、ナデリさんは「外見で決めてほしくない」と政策だけを訴え続けた。
「この国の政治は問題が多く嫌いだった。でも、批判するのは簡単。問題があれば中に入り、解決可能かを見極める必要がある」とナデリさん。アフガンでは女性の権利が全く認められていないとして、当選した場合は他の女性に働き掛けて政策グループを形成し、女性の社会進出拡大や、イスラムの解釈に基づいた民主主義を実現させたいと語った。
同じく初当選を目指すロビナ・ジャラリさん(25)は北京五輪に短距離選手として出場した元アスリート。「アフガンは人口の7割が若者。若者の代表者として彼らの生活向上や雇用問題に取り組みたい」というのが出馬の理由だ。当選したら、「女性枠を男性と同数に拡大させることにもチャレンジしたい」と意気込んだ。【9月19日 時事】 
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